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 父は今日もいつも通り、ほとんど日の出と同じくらいの時間に家を出た。ここのところ、毎日である。朝早くに起きて、夜、日付けが変わる時間帯に帰ってくる。だから最近では、父と顔を合わすことはめっきり少なくなった。母とも顔を合わせていないだろう。一緒に暮らしているにも関わらず、である。本当は父だってゆっくりしたいはずだ。それに何より、母のことが気がかりでならないだろう。毎日一緒に過ごしてもわかるのだが、病身の母は日に日に痩せているような気がしてならない。


 今日になっても、タッカーは家に戻らなかった。こんな心配なことはない。もしかしたらタッカーはもう戻ってこないのかもしれない。そんな、根拠のない不安に胸を締めつけられる。精神衛生上、非常に良くない。

 最近、色んな悪いことが起こっているせいで、なかなか気分が晴れない。タッカーも言っていた、歌でも歌うか。いや、やめておこう。私は歌が上手くない。聴くだけに留めておこう。私は自分の部屋にしまっていたオルゴールを取り出して、曲を流した。このオルゴールは、同じ曲しか流れない。母から貰った宝物のオルゴールだ。母が身ひとつでこの家に嫁ぐ時に、祖母から託された物だったらしい。


 美しく、繊細な音色だ。それに、なんといっても優しいメロディ。なんの歌かはわからないし、母に聞いてもわからないという。それでも私はこの歌が好きだ。歌詞がわかれば、いつか歌ってみたいとも思う。もっとも、この曲に歌詞があるのかはわからないけれど。



 オルゴールを鳴らしていると、母が起きてきた。



「ああ、ごめんなさい。起こしちゃったかしら」



「とんでもない!」


 母はにっこりと笑った。頬が痩せているのが目立つ。



「朝からこの曲を聴いて、パワー全開よ! さて、掃除でもしますか! あれ、タッカーはまだ帰ってきてないのね。まったく、どこをほっつき歩いているのかしらね」



「母さん、忘れてない? 今日は病院よ」



「もう治ったから大丈夫よ。だってほら、こんなに元気なんだから!」



「それはお医者さんが判断することよ」



「なんだ、生意気ね」



 母はわざとらしく顔をしかめた。こんなに目に見えるほど衰えているというのに、自分では元気なつもりなのだろうか。それとも、現実を直視したくないという切実な気持ちなのだろうか。確かに、自分の「死」を多かれ少なかれ意識せざるをえないことは、辛いことだと思う。しかし自分の病気と向き合い、日々を懸命に生きていかなければならないこともまた、確かなのである。


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