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 ボージに信用された嬉しさと、その後のタッカーの行動に対する心配とで、複雑な感情が入り乱れた私は、もやもやしながら来た道を引き返した。家に帰ると、母がリビングでスープを作っていた。家に入った瞬間、良い香りが広がる。お腹が鳴る。母が台所で料理をしている。



「母さん、具合悪いんだから寝てても大丈夫よ! 朝ごはんなら私が作るから」


「おかえり」


 母は台所から出てきて、私に向かって大きな声で挨拶した。腕を組んで、何か言いたげな様子だ。体調が悪いというのに、母は礼儀にうるさい。まあ、それが母の良いところなのかもしれないが。いくら体の具合が悪くても、自分の芯の部分を失わない母のことが大好きだ。


「た、ただいま」



 母はにっこり頷き、また台所に帰ろうとした。



「だから、朝ご飯なら私が作るから! 母さんは自分の体をもっと大事にした方がいいよ」



「なあに生意気なこと言ってんのよ! アンタに料理なんて1000年早いわよ。それにね、いくら病気だからといっても、四六時中寝たきりじゃ身体鈍っちゃうわよ。足腰立たなくなるまで、働かなくっちゃね!」



 母はがははと笑ったが、最後ちょっと咽せた。



「ほらー! そんなに笑うからよ」



 しかし母は全く気に留めていない様子だ。



「そういえば、朝どこに行ったいたのよ? タッカーは?」



「朝早起きしたから、2人で散歩に行っていたの。タッカーは用事があるとかって言って、1人でどこかに出かけて行ったわ」



「どこに?」



「さあ」



 母は怪訝な表情を浮かべた。私の言葉をあまり信用していないように見える。



「隠し事したって、無駄なんだからね」



 母の鋭い指摘に、少しぎくっとした。母は昔から物事の些細な点にかなり敏感で、なおかつ頭脳明晰でもある。母に色んなことを隠し通すことは、簡単なことではない。



「何言っているのかわからないわ」




 私は肩をすくめて見せた。そして声の調子から何かを勘づかれないようにするために、必死に演技した。少しわざとらしすぎたかもしれない。ちらっと母の方に目をやるが、母は変わらず私から視線を逸らさない。疑念を払拭するには至らなかったようだ。



「散歩ねえ。まあいいわ。野菜スープ、せっかくタッカーの分も作ったのに」



「大丈夫、運動してきたからお腹空いてる。私が2人分いただくわ」



「まったく、食いしん坊なんだから」



 その後は何事もなかったかのように穏やかに2人で穏やかな時間を過ごしたが、なんとなく私の心は晴れなかった。激動の日々に、どうしても心の平安を感じることができなかった。

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