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「俺もちょっと考えたんだけどよ、やっぱりなかなか難しいと思うぜ」
ボージは腕を組んで眉を細めながら言った。ボージがそう考える理由はわからないが、私もタッカーの考えは無茶だと思った。今の私たちが何を言っても信じてもらえないだろうし、大前提として無実を立証することは一般的に難しいのも事実だからだ。それに、あまり証拠もないのに疑うのはよくないことなのだが、この一件にはテレスやイザモアが一枚噛んでおり、彼らの陰謀によって私たちを不当に貶めようとしたものである可能性が実に高い。ここ最近の状況を考えると、そう感じるのも自然な話だ。もっというと、個人的にはイザモアがテレスに何か吹き込んでいるという気がする。
「まあ、そうだよな」
タッカーも案外簡単に折れた。自分の言葉の無謀さに気づいたみたいだ。
「ボージ、また、私たちと話してくれる?」
「ああ、もちろんだ! と言いてえところだが、周りのみんなの目があるからなかなか難しいかもしれねえ」
「そっか」
せっかくボージは私たちを信じてくれているのに、みんなの視線のせいで関わることができないなんて、あんまりな話だ。もっとも、仕方ないことはわかっている。もしボージと私が逆の立場だったとしたら、私でも同じことを気にすると思うからである。ボージのことは責められない。それもこれも全部、私が悪いのだ。テレスと婚約関係を終わらせてしまった私が悪いのだ。自分が憎い。
「セルナとタッカーは、よくこの辺にはくるのか?」
「いや、今日は朝早く起きたから2人で散歩にきたの」
「毎日この時間になら」
「えっ?」
私は思わず聞き返した。ボージは何やらはっきりとしない様子でしばらくもじもじしていたが、ようやく心を決めたかのように、うんうんと頷いた後、次の瞬間、大きく声を張り上げた。
「俺、毎朝この時間にこの辺にいるから! 俺の仕事だから、1人だから!」
どういうつもりかわからないが、はっきりとしたことは言わなかった。しかし、話し方ははっきりしていた。ボージの話が終わると、タッカーはくすりと笑った。
「俺たちもよく散歩しにくるからもしかしたら、偶然会うかもな!」
ボージは自分の意図が伝わったことにほっとした様子で、にっこりと笑った。
私たちはボージにお礼を言って、別れた。
「もうそろそろ帰ろうか」
「セルナ、1人で帰っていいよ。俺、急用ができたから」
タッカーはそう言うと、私に聞き返す隙も与えず、家とは反対方向に走り出した。さっきまで運動していたというのに、凄い体力だ。
これから何が始まるのだろうか。私は胸騒ぎを抑えることができなかった。