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ボージはバツの悪そうな顔を浮かべながら、俯きがちに私たちの方に歩み寄ってきた。
「ボージ? こんなところで何してるの? 私たちをずっとつけていたの?」
タッカーはさっきまでの温厚な表情とはかけ離れた、鋭い目つきでボージを睨んでいた。かなり警戒しているようだ。無理もない。タッカーとボージは知り合ったばかりでそれほど信頼関係がないばかりか、畑での不可解な出来事を考えれば、タッカーにとってはボージだって警戒の対象となるのもわからなくはない。
「いや、そんなつもりはねえんだけどよ…」
ボージは相変わらず歯切れが悪い様子で、人差し指でぽりぽりと頭を掻きながら、もごもごしている。確かに、少し怪しい。
「はっきり喋りな」
タッカーはピシャリと言い放った。落ち着いてはいるが、声にどことなく緊張を感じられる。
「あのよ、畑でのこと、あったろ」
まさか。ボージの口からその件の話題が出るとは。ボージは何か知っているのか。
「言いにくいけどよ。セルナとセルナの父ちゃん、酷いことしてるって噂になってる」
「どういうこと?」
「ウチのブドウ、王宮に受け入れられなくなったんだよ。村長とウチの親父で王宮に行った時にさ、国王に謁見できたのは村長だけだったみたいなんだけど、その時に直接言い渡されたみたい」
「それは悲しいわね…。だけどそれでどうして私たちが村八分になるのよ?」
「その時国王は、ウチのブドウは上納品として認めないって、バレンシア家が決めたって言ったみたいなんだよ」
「待って! 私たちそんなこと言ってないわ!」
「まあ待って、セルナ。話を最後まで聞こう」
タッカーが私を諌めた。その様子を見て、ボージは話を続けた。
「それに加えて、ウチのブドウを市場に流通させないよう、市場にもバレンシア家が指令を出したって、村長と親父が言うんだ。セルナ達があんな扱いを受けているのはそれが理由だよ」
ボージは話を終えると、がっくりと項垂れた。ひとつも身に覚えがないし、今の話がボージが私たちをつけることの説明にはなっていない。
「ボージ、その話が今あなたがここにいる理由と何か関係あるの?」
ボージは再び顔をあげた。
「でもよお、俺、セルナ達がそんなことするなんて、どうしても信じられなくてよ! 本当はどうなのか確かめたかったんだ! でも、村の人たちの目もあるし、セルナ達が人目につかないところにきたら話かけようと思って、タイミング見てたんだ!」
「それじゃあ不審者じゃん」
タッカーは吹き出した。私も少し安心した。ボージの良心からくる行動だったのか、と。
私たちは何も、ボージ達が不利になるような取り決めや指令はしていないと説明した。ボージもわかってくれたようだった。
「でもよ、俺、悔しいぜ。セルナ達はこんなに優しいのに、こんな濡れ衣を着せられて」
「ボージ…」
みんな黙り込んだが、やがてタッカーが大きな声をあげた。
「よし! 我々の身の潔白を証明しよう!」