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帰宅すると、あまりの時間の短さに母が不審がって理由を訪ねてきた。まだ畑に出向いてから1時間も経っていないため、当たり前だ。それでも私たち3人は絶対に母に事情を悟られまいと、無理に笑顔を作った。こうすることを帰り道に話して決めたわけではもちろんない。ただ、家族全員の共通する認識として、母の病気を悪化させたくないという気持ちがある。今さっき起きたことをありのままに伝えたら、母はショックを受けるだろう。精神的ストレスから病気がさらに悪化しようものなら、命の危険さえ考えなければならない。ただ、母は馬鹿ではない。持ち前の鋭さで、私たちの不自然さに気づく可能性がある。迂闊なことは言えない。
「セルナ、タッカー、ウチの物置きに頑丈なスコップあったよな。ボンセさんに渡しに行くからちょっと探すのを手伝ってくれないか?」
「そ、そうね! どこに行けばいいかしら?」
「2人とも一回外に出て、外から回ってきてくれ」
「はーい!」
私とタッカーは声を揃えて返事をした。父の提案に端を発する一連の会話はかなりぎこちなかったため、不審がられないか不安だったが、あまりにも怖くて私は母の様子を伺うことさえ出来なかった。
家の外に出たタッカーと私は、たとえ声が小さくても聞こえるくらいまで父に近づいた。
「いいか、今日の話は母さんの前では絶対にするな。わかるな?」
私たち2人は当然とばかりに頷いた。
「おじさん、村のみんながどうして僕たちに敵意を持っているのか、心当たりはありますか?」
タッカーが冷静な調子で父に問うた。それに対して父は、肩をすくめる。
「あんな風に恨まれるようなことはなんにもないはずだ。きっと何か誤解してるんだろう」
「なるほど。ひょっとしたら誰かが恣意的に流言飛語を流しているとは考えられませんか?」
タッカーの鋭い指摘に、思わず私たちは黙り込んだ。その時ちらっと、テレスとイザモアの顔が頭の中に浮かんだ。そしてそのまま私は、その可能性を口に出してしまった。しかしすぐに父にたしなめられた。
「セルナ! 確証のないことは言うな。自分だってそんな疑いをかけられたら嫌だろう」
「ごめんなさい」
父の大きさを感じると同時に、私は3秒前の自分を恥じた。そうだ、私自身がテレスとイザモアに濡れ衣を着せられて傷ついたのに、どうして自分は同じことを考えてしまったんだろう。
「まあ、とにかくだ」
やけに落ち着き払ってはいるが、どこか気落ちした様子で父は続けた。
「村のみんなのことはしばらく忘れよう。我々は自分の暮らしを大事にしよう。くれぐれも母さんには心配かけないように」
「はい、おじさん」
「はい、お父さん」
私たちは素直に同意し、再び家に戻った。