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ボンセと村長が都から帰ってきた翌日、村のみんなは力を合わせてボンセ一家の農作業を手伝っていた。
「お父さん、みんな朝早くからボージの一家の畑仕事を手伝っているみたいね。私たちも手伝ってあげましょう」
「ああ、当たり前だ。村民ひとりの痛みは村全体の痛みだからな。我々は少し出遅れているみたいだ。やれやれ、そんな早くからやっているなら誰か起こしに来てくれればいいのに、水くさいな」
病身の母を1人、家に残して父とタッカーと一緒に私は農作業を手伝いに出かけた。
「ボンセさん、おはようございます」
しかし、ボンセは父をちらっと見やっただけで、すぐにまた仕事に取り掛かった。何かいつめのボンセと様子が違うように感じられた。
「ボンセさん、元気出してください。ブドウはまた育てればいいんですから。ほら、我々もついてますよ」
笑顔で優しく語りかけると、父はその辺に置いてあったスコップを手に取り、地面を突き始めた。その時だった。
「ワシらに関わらんでくれい!」
物凄い剣幕だった。私は思わず、身震いした。横に立つタッカーも、不思議そうな顔をしている。
父は戸惑いを隠せず、スコップを持ったままその場に立ちすくんでしまった。
「ど、どうしたんですか、ボンセさん。ワケを教えてください」
しかし、ボンセはもう、父の言葉に耳を傾けることはなかった。父は青ざめながら、ボンセ家の者をはじめ、周りにいた村民たちに助けを求めるように声をかけた。しかし、誰もが口を開こうとしないどころか、目も合わせようとしなかった。
「ど、どうして…。ボージ、どうしてなの?」
近くにいたボージに話しかけるが、聞こえないふりだ。こちらを見ることすらしない。
「ねえ、ボージ! ボージったら!」
私は叫びながらボージに近づく。
「帰れ!」
村の人たちの中から、そんな声があがる。
「村から出ていけ、人でなし!」
「そうだ、そうだ!」
まるで大きなダムが決壊するかのように、一度始まった攻撃は留まることを知らなかった。
思わず私は地面にしゃがみ込んだ。そしてタッカーに肩を抱かれると、思わず涙が溢れた。
「どうして…! どうしてッ!」
意味がわからない。状況が呑み込めない。ただひとつわかるのは、村のみんなは、私たちに敵意を持っているということだ。
「帰ろう、セルナ」
俯きながら父は言った。私はタッカーに支えられ、家に帰ることにした。帰宅途中、私たち3人は誰も言葉を発しなかった。