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平民魔術師と世紀の天才、魔術で世界を変えてみせます

作者: 葉月倫子

この世は不公平だ。

王立魔術学校の入学式でリッカは改めて思った。周りの新入生は新品の制服にキラキラとした装飾品を着け参加している。一方リッカは古着の制服である。


この世は不公平だ。

魔力持ちは将来が決まってしまい、選択権はない。1ヶ月前までのリッカは実家のパン屋を継ぐか新たな商売をするかなど平民らしく考えていたが魔力持ちと分かった途端に国のために魔力を使うことが決まってしまった。



この世界には魔力がある。ただし全ての人が魔力を持つわけではない。魔力は生活を豊かにするだけでなく、人々を規律する道具となり、他国と争うための戦力になっている。


リッカの生まれたここベルウッド王国は、魔力持ちの人は少なく、魔力持ちは皆魔術学校に入り、卒業後は国の機関所属し働くことが決まっている。女性の場合は結婚を機に退職となるが、同じ魔力持ちと結婚し魔力持ちの子供を産むことが暗黙の義務である。

そしてベルウッド王国の魔力持ちは大半は貴族である。貴族の子供は産まれてすぐ魔力検査を行い確認し安堵する。だが、極稀に魔力を持たないものから魔力持ちが誕生することがある。そのため平民は15歳の成人の儀で魔力検査を儀式的に行う。

その儀式で魔力があることが判明したのがリッカだった。


リッカ=ブランシュ

彼女に魔力があることが分かったとき、リッカ含め周りにいた全員が微妙な顔をした。

両親は将来が確実であることを安堵しつつ、魔術学校に入学させないといけないので家から出ていくこと、店の後継ぎをどうするか、悩みが増えてしまった。

魔力検査をした神父は、これから国と魔術学校に魔力持ちが見つかったことを報告する仕事が増えたことに面倒な顔をした。

一緒に成人の儀に参加したリッカの友人は、王都の魔術学校に入学し貴族に出会えるリッカに嫉妬しているものもいた。このままでは一生田舎町で過ごすだろうと思っていたのに、ひとり抜け駆けである。

そしてリッカは嬉しい気持ちなど全く無く、不安しかなかった。



学校に入学して2ヶ月経った。

リッカは初めて習う魔術に悪戦苦闘しながらも、放課後は図書館で予習復習することでなんとか授業についていっている。

周りの生徒はリッカ以外は皆貴族であり、リッカのことを平民として差別的な目で見ている。友人などできなかった。

周りは皆放課後はお茶会など優雅に過ごす中、リッカはひとりで過ごすことになり、魔術の勉強しかすることがなかった。



「お、リッカ。今日は何の勉強か?」


リッカに対してこんな風に気軽に声をかける人は唯一人。魔術研究者兼魔術学校講師のカインである。


「カイン先生、こんにちは。魔力圧縮の理論です。今日の授業で一通り解説を受けたのですが理解しきれなく、このままだと明日の実践ができなさそうでして」



カイン=ヒルベルト=ガーランド

侯爵家の次男とリッカは自己紹介で聞いた。年老いた講師が多い中で断然若い。そして平民のリッカに対しても平等に魔術を教えてくれる。


「この理論書は少し難解だろう、こちらの本を先に読んで実際に圧縮を試してみたほうが分かりやすいはずだ」

「あ、ありがとうございます」


カイン自身は魔道具の研究者であり、講義も魔道具に関するものを担当しているが、図書館で悩んでいるリッカに対してはどの分野もわかりやすく教えてくれる。


「先生、私なんかに構わず研究室に戻ってください」

「実験の待ち時間だから戻ってもやることないんだよ。それよりは将来有望な魔術師を育てたほうがいいさ」

「では、他の学生も……」

「他のやつらは社交で忙しいだろう。大体基礎は家庭教師に習ってるだろうし、真面目に授業に参加しているのはリッカくらいだぞ」

「そ、そうなのですか!?」


なんのための魔術学校だ。ならもう皆働けばいいのに。


「魔術師になったら自由は少なくなるからな、今はモラトリアムだよ。貴族同士繋がりを増やしたり、派閥を作ったり、それはそれで忙しいんだ」

「先生も学生時代から派閥作ったのですか?」

「いや、俺は研究室を貰ったから研究してたよ」



ここで魔力持ちの仕事について改めて説明する。

魔力持ちは皆魔術学校に入学し、3年間魔術を勉強する。そこでの成績によって卒業後の所属機関が決まる。


魔術師として、騎士団もしくは調査団に所属し、身を削って国に尽くすことが一般的であるが、成績優秀者のみ本人の希望があれば研究者になれる。

騎士団、調査団は身の危険がないとは言えない。この任務を終えた後、文官となりブイブイいわすのが大半の貴族である。また一部は学校講師になり後進育成を行っている。


学生時代から社交を行い、下級貴族は今のうちに上級貴族に媚を売り、何かしらの派閥に所属することで騎士団、調査団でも何かしら優遇され、その後の貴族生活も都合が良くなる。貴族社会はコネと忖度だらけだ。


ごくわずかがなることができる研究者は危険に晒されることはまずない。貴族の親は子供を研究者にさせたいが、本人の意向と能力がないとなれない。そんな中でカインは百年に一人の天才かつ魔力持ちと言われ、研究意欲がかなり高く、学生のうちから研究室を持ち実績を作っていた。




「やっぱり不公平だ……」


リッカは小声で呟いた。自分はなりたくて魔力持ちになったわけでもない、必死に勉強しているが優秀であるわけでもなく、研究したいこともない。卒業してもコマとなり、真っ先に貴族の盾にさせられると考えてしまう。実際平民出身の魔術師は若くして死んでいるものも多い。


「リッカ、君は魔力を持って人生が変わったと思う。俺は魔力持ちだけが特別視されるのはおかしいと思うんだ。もっと魔力が一般化すればリッカの思う不公平は少し減るんじゃないかな」

「そうかもしれないですが……」


上級貴族で天才のカインに言われても、現実味を帯びない。


「俺は俺にできることをやるし、いくらでも魔術は教えてやるから、リッカは今は自分を守れる魔術師になってほしい」





リッカは、がむしゃらに勉強し続け、友達はいないまま魔術学校を卒業する時期を迎えた。

相変わらずカインは面倒見が良く、リッカの勉強に付き合い、リッカは卒業時上位成績を残すことができた。


リッカはいつもカインが勉強を見てくれ、少しばかり優越な気分になったが、それはすぐに挫かれた。


2つの出来事があった。

1つは同学年の公爵令嬢に呼び出され、平民が図に乗るな、天才カインは同情しているだけと散々罵られたこと。

もう1つは1学年下が入学してきた中に学生時代のカインを彷彿とさせる天才ルード=オニキス=ウィスティリアがおり、毎日カインとルードは魔術談義していた。その姿を見て、カインはリッカを特別視しているわけでなく、ただただ魔術師を育てたいだけであることを改めて気付かされた。


気付かされたときには、リッカは優しいカインに恋に落ちていたというのに。



「リッカ=ブランシュ、希望所属はあるか?」


卒業時、上位成績者であるため所属先の希望を聞かれた。

周りの上位者は、王都騎士団、身の危険の少ない王都内の警備隊の希望が多い。


「私は遺跡調査団を希望します」


遺跡調査団、国中にある遺跡の調査をし、国の利益となる資源を調査する。多忙かつ危険の多い調査団である。


「君は平民とはいえ成績上位者だ。もっと安全なところに所属する希望を出してもいいのだが?」


安全なところに所属しても貴族の盾になるなら危険度は変わらない。ならば遺跡調査団でいい。忙しくして、そして優しいカインのことを、恋を忘れてしまいたい。


「いえ、構いません。宜しくお願い致します。」





リッカとカインの再会はそれから5年後である。


リッカは遺跡調査団小隊長として任務についていた。

学生時代の同級生の魔術師たちは、男性は騎士団を辞め、文官や領地で親の後を継ぐ準備を始めたり、女性は結婚し子供を産んでいる。


遺跡調査団に所属した女性はリッカが初めてであり、生き残っている平民もリッカが初めてであり、調査団内では少しだけ特別視されていた。

リッカ自身はただただ真面目に言われた任務を熟し、危険な調査でもカインから教わった魔術で身を守り続けてきただけである。それだけであるが平民リッカは捨て駒ではなくなり、遺跡調査団内でも地位が少しだけできたのである。



「今回は事前調査だ。何があるかわからない。事前準備は怠らないように」


リッカは隊員に命令した。今回の最近見つかった未開拓の地下洞窟である。最近魔力資源探査器を開発され、それで見つかった洞窟である。

この魔力資源探査器のおかげで調査団の仕事は増えることになった。


「小隊長、この奥がかなり反応しているようです」


洞窟の奥隙間のほうを指し隊員が言った。人ひとり入れるか微妙な岩の隙間である。実際に発掘するとなると岩壁を崩す必要があるが、今日は事前調査なので資源を少し取れれば良い。


「君たちで取れそう?」

「いえ、私どもでは入れそうにないです、ですが隊長なら」

「そうかもね。分かった。」


唯一の女性隊員であり、小柄なリッカはこうやって他の男性が入れないところにも入り調査を行える。これが功績の1つでもあった。


隙間を抜けると七色に光る石があった。まるで宝石のようだが今まで見たことのない魔力資源である。


魔力資源は人々の生活のエネルギーとして使われており、消耗品である。貴重な資源であるため貴族の生活で大半使われるか一部国の根幹を動かす魔道具の動力源となっている。


今まで数々資源を発掘してきたが見たことがない。ただ魔道具ではこれは資源であるとなっている。もしかすると魔道具が壊れ、鉱石に反応したかもしれない。

にしてもキレイな石である。リッカはサンプルとして持ち帰ることにした。加工すればキレイなアクセサリーになりそうである。


「小隊長、どうでしょうか?」

「どうやら資源ではなさそうだ。魔力資源探査機が壊れてる可能性があるので一度戻ろう」



国の僻地で調査していたリッカたちであるが、調査道具が壊れたとなれば調査が進まない。また、予備もなく隊に余力もなくリッカ自身が王都に魔力資源探査機を持ち帰り修理に出す必要がでてきた。


「ちょうどいい。リッカ、ここ最近働きづめだっただろう。修理の間休暇をとることを命じる」

「いや、隊長。私が王都に出向かずとも、隊員に任せ私は別遺跡を……」

「リッカ、働きすぎだ。少しは年頃の女として王都で遊んでこい。あとここにきているお見合いもやってこい」


隊長の狙いはそこである。5年リッカを面倒みてきて、それなりに幸せになってほしいのである。お見合いは平民のリッカと結婚してもいい下級貴族や第二夫人選びとして来ているが隊長なりに選定してある。


リッカとしては結婚なんて諦めていたのでお見合いは不服ではあったが、隊長の顔に泥を塗ることはできない。


「わかりました」




久しぶりに王都に戻ったリッカは、まずは魔力資源探査器の修理に王都内の魔道具工房にむかった。


「あ、これは工房ではなく研究者自身で作成されてるものですね。ここでは修理できないので研究室に持参下さい」

「研究者はどなたでしょうか?」

「カイン=ヒルベルト=ガーランド様です」



リッカとしては、5年前に忘れようとしたカインである。

まさかまた会うことになるとは思ってもみなかった。


一人の卒業生。なんの特別でもない。初対面のようにさらっと修理をお願いして去ろう。

そう自分に言い聞かせ、リッカは懐かしい魔術学校に向かった。

といってもカインとは教室での授業か図書館でしか会ったかとはなく、カインの研究室にいくのは初めてである。


「失礼します、遺跡調査団のリッカです。そちらで開発、作成された魔力資源探査器に不具合があるので修理をお願いしたく」

「リッカ!久しぶり!いやー大人っぽく、綺麗になったね」


カインは5年前と変わらない姿を見せた。


「せ、先生お久しぶりです。で、これが」

「壊れたって?ちょっと見せて…」


カインはそう言うと、探査器を研究室の奥に持っていった。


「先生、しばらく王都の宿にいますので、直りましたら宿までご連絡下さい」

「え?リッカ少し寄っていってよ。調査団の話も聞きたいし、この魔道具の改良点とかも議論したいし。」

「いや、先生お忙しいと思うので」

「大丈夫だから、とにかく入って」



カインの研究室は広く、綺麗に整理整頓されていた。


「この魔道具が先生が開発されたとは知らなかったです。このおかげで遺跡調査団はかなり効率的に調査できるようになりました」

「役立ってよかったよ。リッカが遺跡調査団に入ることに決まったときは驚いたからね。リッカを守れる魔道具がないか考えて作ったんだよ」

「あ、ありがとうございます。」


何を平然と甘いことを言ってるんだ。こんなんでは勘違いしそうである。


「リッカはいつまで王都にいるの?」

「修理がおわるまでは。他にもいろいろやることがあるので」

「いろいろ?」

「はい、隊長からお見合いしてこいと言われており」

「え?リッカ結婚するの?調査団やめるの?」

「いや、全くその気はないのですが隊長が気にしているので」

「そうだよね。俺も言われるわー。次男だしどうでもいいと思うんだけどね」


貴族の結婚はどうでもよくないだろう。特に天才カインである。引く手あまたのはずだがまだ結婚してなかったのか。


「先生、モテるんですし早く結婚してくださいよ……」

「ほんとです、弟子の僕が結婚できないじゃないですか」


突然聞こえた声にリッカは振り返るともう一人の天才、後輩のルードがいた。


「リッカお久しぶりです。先輩の活躍は聞いてます。ところでこの魔道具別に壊れてないですよ」

「そ、そんなことは。だって資源でない鉱石に反応してましたし」

「リッカ、それはどんな鉱石?」

「七色に輝く宝石みたいな鉱石です。魔力資源のどれにも当てはまらない石でした」

「……ほんとに?」

「はい」

「じゃあ新しい資源である可能性は?」


リッカはハッとしてカインを見た。そんなことは微塵に思わなかった。

そしてカインは目を輝かせている。


「新たな資源なら俺が求めているものかもしれない、リッカそれはどこ?どんな形?今日ここに泊まれる?」

「えっと、、、宿に置いてあるのでお見せできるかと」

「そんな大事なものを宿に置きっぱなし!すぐに取りに行こう。」




リッカが見つけた鉱石は魔力を貯めることが可能であることがカインの調査で分かった。今まで消耗品として使われていた魔力資源が再生可能なものになったのであ

る。


この発見は後に王国だけでなく世界に大きな影響を与え、リッカ=ブランシュとカイン=ヒルベルト=ガーランドの二人の名は世界の魔術史に名を刻まれる人物となったが、そこに至るにはいくつもの壁にぶつかるのである。


リッカに関しては平民から侯爵夫人となったことでも名を残し、そのシンデレラストーリーは魔術史と共に後世に語り継がれるものとなる。




to be continue?


初めて投稿します。

まずは短編として導入部分を書いてますが、全く書いてない二人の恋話も、新たな魔力資源を巡る陰謀も考えては…一応います(笑)


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