感情の色〈薄鈍色〉
うすにびいろ/青がかった薄い灰色
―――信じてるって思ってるのに。
昨日から君の様子が少しおかしい気がしてた。
話しかけても上の空で。なんだかここにいないみたいで。どうしたのって聞いても大丈夫としか返ってこない。
いつも私の話を聞いてくれるのに。
いつも私を見てくれてるのに。
全然目が合わない。
心配しながら学校に着いて。また帰りにねって言ったら、今日は先に帰っててと言われて。部活もないのにどうしてって聞いても、あんまりはっきりとは教えてもらえなかった。
提出物を忘れてて居残りでもなさそうだし。
同じクラスの子ともめちゃって話し合いするのに残されたとか?
心配で心配で。トゲトゲの手に撫でられたみたいな気持ちになったけど、それ以上聞けずに別れて。
それからずっと、君のことを考えていた。
それから君には会えないまま放課後になって。私はひとりでトボトボ帰る。
小さい頃からずっと一緒の君。
私の一番の仲良しで。
君の一番も私だって言ってくれた。
もしかしたら学校はもうすぐ離れちゃうかもしれないけど。それでも一番同士でいられるって思ってた。
こんな風に理由も話してくれないことなんてなかったから、よけいに心配になってくる。
困ったことがあるなら話してくれればいいのに。
大丈夫かなって考えてるうちに、ふと浮かんだ別の可能性。
もしかして君は私と帰りたくなかっただけ、なのかもしれない―――。
そんなことないって君を信じる気持ちと。
一緒に帰りたくないならそう言えばいいのにって怒る気持ちと。
そんな風に思うようなことをしちゃったのかなって悲しい気持ちと。
ごちゃごちゃになって押し寄せてきて、どうしていいのかわからなくなる。
不安で不安で、仕方なくて。
君と私の関係も変わっちゃって、今までみたいにいられなくなったらどうしようって。
そんなことを考えてたら、苦しくて悲しくて。
いつの間にか涙が止まらなくなっていた。
その日の夜、君が突然家に来た。
驚く私に、いつもと同じ笑顔を見せて。御守りをひとつ、私にくれた。
違う学校に行くことになっても、一番の仲良しは私だからって。
君が隣に引っ越してきたこの日、君と私が友達になったこの日に、どうしても渡したかったんだって。
照れたように笑って、そう言ってくれた。
また明日って君が帰って。
手に残る御守りを見て、さっきまでより苦しくなる。
溢れかえる、嬉しいとごめんなさい。
最初はただ、君が私のことを大事に思ってくれてることがわかって本当に嬉しくて。今まで通りいられることと、嫌われてなかったことにほっとして。幸せな気持ちになったけど。
すぐに気付いた。
私は、そんな君のことを信じきれてなかったんだって。
ほんの少しのことに心配して不安になって。君の気持ちを疑って。
自分勝手に落ち込んで悲しんで。
君は何も変わってないのに。
君は私を信じてくれてるのに。
私は君を信じられなかった。
御守りをぎゅっと抱きしめて。
ただ泣きながら、君に謝り続ける。
本当に、馬鹿な私。
こんな私なんて、本当は君に信じてもらえる価値なんかないのかもしれないけど。
それでも私の一番は君だから。
君の一番でいたいから。
私がなんにも信じられない子なんだって、君に知られて呆れられる前に。
私も君みたいに、揺らがず信じ抜く強さを持ちたい。
君のことを信じて、変わらず待てる強さを持ちたい。
私の中の君へのごめんねを、少しでも減らすために。
頑張るから、私がこんな私だってことにはもうちょっと気付かずにいてほしい。
この先もずっと、君と対等に向き合いたいから―――。
読んでいただいてありがとうございます。