人選機
誰を排除するかを決める人選機、我々人口管理班の核とも呼ぶべき人選機は二種類ある。
一つは約三ヶ月後に死刑執行される人を選ぶ人選機。
これに選ばれた者たちは我々から通達が入り、約三ヶ月後にこの世から排除されるといういわば余命宣告を受ける。
その間に何をするのも彼らの自由、家族と残りの人生を過ごすのもよし、海外旅行に行くのもよし、今までできなかったことをなんだってできる。
無論この国の法律に反しなければ。
仕事をやめることだって可能だ。我々から通達が入ったといえば、誰も拒否するものはいないだろう。
そしてこの三ヶ月後に選ばれた者たちの名前は次の人選機に移行される。
二つ目の人選機ではその中から具体的な日程が決められる。
といっても別にこの人が何月何日に死ぬか、などではなく明日誰が死ぬかを選ぶ人選機である。
人が選ばれるおおよその手順を説明するとこうなる。
一つ目の人選機はだいたい月初めに使われる。
例えば五月一日に一つ目の人選機で四十三人選ばれたとする。
この四十三人は三ヶ月後に死刑が執行される。
この四十三人には人口管理班から通達が送られ、そのことを知る。
七月三十一日この四十三人を登録した二つ目の人選機で次の日、つまり八月一日に死刑になるものを選ぶ。
その者には再度通達が送られる。
それが一ヶ月、つまり八月三十一日まで続く。
という流れになる。
この二段構えのシステムはつい最近導入された。
死刑宣告に三ヶ月の猶予が与えられ、即連行されるということがなくなった。
この新システムのおかげで、選ばれた者たちの逃亡が格段に少なくなった。
やはり人というのは死ぬのが怖い。
特に事故などではなく明日死にますと言われればなんとか回避しようと醜く争う。
しかし、この新システムで三ヶ月間の間に残りの人生を存分に堪能し、この世になんの未練も残すことで、彼らに死を受け入れやすくしたのだ。
しかし、それでも逃亡するものは後をたたない。
国民の一斉投票で認可されたこの法律に背くなど、言語道断だと言いたいところだが、やはり国のために死ねと言っても素直に従わないものがいるのは論理的に考えて少なからずいるのは必然的。
しかし我々も仕事ゆえ、逃げられるのは厄介だ。
通達には発信機が仕込まれている。配達員がポストに入れて、それが数日たっても動いていない場合は逃亡の可能性があるので、確認しに行く。通達には差出人の名前が明記されている。当然人口管理班と分かれば、人選機で選ばれたと中身を見ずともわかってしまう。
通達が入ってるのに気づかないと言ったケースが多々ある中、本当に逃亡を図ったものには警察の権限を持って追跡する。
数日も捜索することもあるが、ほぼ百パーセント失敗することはない。
ちなみに、その通達にはもう一つ仕掛けがあって、封筒を開くとある装置が作動し、こちらに一報が届く。この装置の作動が、死刑承認を意味しており、三ヶ月後自宅に伺った時にその場にいなければ罪に問われ、逃亡した場合、指名手配され警察全体が動くことになる。
しかしこの最初の通達を読みながらもその後逃げたものを追うのは非常に困難なのだ。
そもそも通達を読んだということは、発信機が少なからず動いたことを意味し、我々がすぐ自宅に行くことはない。
それゆえその人物が失踪したのを知るのは約三ヶ月後となる。
三ヶ月後となれば目撃証言はあいまいとなり、付近の監視カメラ映像もすでに期限を過ぎて消去されている場合が多く、追跡は難しいのだ。
そんな往生際の悪い奴が今日一人現れた。
自分の死を理解しながらもその運命から必死に逃げようとする。
我々がそれに気づいたのは二通目の通達に死刑当日になっても動かされた形跡がないため、早めに向かったところ案の定、家はもぬけの殻だった。
彼はその日中に殺されなければならない。
明日に持ち越すことはできない。明日は明日で死刑を待っている者たちがいる。
我々はまずその人物の足取りを辿り、この関東圏を出ていないか確認する。飛行機や電車、船、新幹線などすべての乗客名簿を確認し、その人物の名前がいない確認する。これだけでも大変な作業なのだが、優秀な馬場警部補を筆頭に三人でなんとか回す。残りの二人は今日中に回収しなければいけない者たちのところに向かっている。
どうやら圏内にいるようだ。
次に警視庁上層部に連絡し、彼の捜索を依頼する。同時にその人物の名前と顔を公表し、この人物を見たら至急警察に連絡するよう国民に呼びかける。こういう時やはり頼りになるのは人海戦術。
約六時間後、都内の漫画喫茶に潜伏しているのを発見され、拘束された。
手間を取らせた彼から罰として五十万円徴収し、なんとか予定通り死刑に移行した。
こうして今日も無事仕事を終えた…