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ピースメイカー  作者: 蒼蕣
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引導

「よし、んじゃあいつものように役割決めるぞ。昨日見た通り今日は都内の回収人数が多い。久しぶりの二桁だ。よって事務作業に二人、外回りに三人という具合だ。じゃあまず事務作業だが、そうだな誰か立候補したい奴はいるか?」

そう、今日回収される人は昨日の時点で報告される。日によって異なるがだいたい三時ごろだろう。それ以前に仕事を終えて仕事場にいない時は、携帯に馬場警部補から連絡が入り、次の日回収される人のリストを送ってもらえる。

つまり昨日の時点でいよいよ夏岡結衣がこの世を去ることを知ったのだ。

原警部の質問に挙手するものも、何か発言をするものも居なかった。

「居ないのか。じゃあまた俺が勝手に決めちまうぞ」

「あ、あの」

私は少ししてから手ゆっくりとを挙げた。

「お、井伊、事務作業やりたいのか」

「い、いえその逆で、できれば回収の方をやりたいなと思って」

「おいおい、欲張りだな。みんな回収がやりたくて黙ってたのかもしれないんだぞ」

原警部は笑った。

「そ、そうなんですか」

私は思わず先輩たちの方を見た。

「いや、別にどっちでもいいかなって」

「俺もテキトーでいいっすよ」

「自分は警部と一緒の方でお願いします」

三人ともきっぱりと言い放った。

「って、言ってますけど」

私は警部の方に向き直った。

「あ、そう。んじゃあ望み通り回収に回してやる」

「ありがとうございます」

私は軽く頭を下げた。

もし運命を変えられないのなら、せめて自らの手で結衣を殺してあげたい。殺すその瞬間までそばにいてあげたい。私はそう思った。

回収に私情は厳禁。親族、友人、ましてや愛すべきものが回収対象となれば必然的に外されるのが相場。親族に関してはプロフィールを見れば判明するが、交友関係に関しては自己報告になる。万が一にも感情が先走って相手を生かそうとすれば人口管理班の信用は失墜する。

そんな過ちを犯させないため、強いては国を守るため、そして知り合いを手にかけるという酷なことをさせたくないという人情の元、私たちは正直に申告しなければならない。無論、回収は嫌だからといって、怖気付いたのかなどと罵る者、怪訝な眼差しを向ける薄情者はここにはいない。

だから何の躊躇もなく自分の弱みをひけらかすことができる。しかしこの時ばかりは私は仲間を裏切った。正直に言えば私を軟禁してでも止めるだろう。

普段は寛容な警部たちだが、こればかりは融通が効かない。国を貶めるような愚策に乗る彼らではないことは火を見るよりも明らかだ。

だから沈黙する。彼らは以前の私同様ルールに縛られているのだ。たとえ仲間の一生の頼みであってもこればかりは譲らない。どれだけ私が彼らに恩を売っても慈悲を差し向けるような真似は絶対にしない。人口管理班としての本分を見失うことはないのだ。

大丈夫だ、彼らが危惧するようなことにはならない。任務は全身全霊を持って真っ当する。神など信じないが、誓おう。必ずこの手で愛するものを葬ってやると。

「んじゃあ回収は井伊、佐竹、小島で。俺と馬場はここに残る。いいな」

「やった、久しぶりに警部と二人きりだ」

一番喜んでいたのは馬場警部補だった。

「まあ、通常業務は馬場にだけやらせて俺はゆっくりさせてもらうがな。回収は三人で分担しろ。以上! 解散」

リストを照らし合わせ、ほか二人を巧みに誘導し見事私は結衣の担当に就いた。

私が今日回収するのは四人。普通ならここから近い住所にいるやつから順に回収に向かうのだが、今日は結衣を一番最後にすることにした。


私はインターホンを鳴らした。

時刻は午後四時過ぎ。ようやく本日最後の仕事だ。

もう何度も来ているはずなのに、まるで初めて訪ねたように胸騒ぎがした。

しかしこれが何も高揚感から来たものではなく緊張感から来たものだと言うことはわかりきっていた。

「待ってたよ」

普段より少し暗めの表情をした彼女が出迎えた。インターホンに出た彼女には職業しか言っていないにも関わらず、彼女はその相手が自分だとわかっていた。

「寄ってく? それともまだこれから仕事?」

「いや、仕事はもうこれで終わりだけど。そのあとやることがあるから」

君の後始末が。

「そう、残念。ちょっと待ってね。今準備するから」

私は閉じられた扉の前で静かに待っていた。吐き気がするぐらい聞き分けがいい。ほんの少しでも愚痴をこぼしてくれた方が気が楽だったのに。いつも見る往生際の悪い人間を嘘でもいいから演じてくれれば、私も諦めがつくというのに。私の浅知恵などお見通しと言わんばかりにどこまでも彼女は私の期待を裏切る。

黄昏時。逆光が目の前の扉を覆いかぶさんばかりの自分の大きな影を作っていた。

少ししてから彼女が出て来た。

化粧を薄く施し、純白のワンピースを着て出て来た。

「ちょっと子供っぽかったかな」

「ううん、全然いいよ」

いつもなら多少恥ずかしがって声をこもらせるはずなのにこの時ばかりはそうはっきりと答えることができた。

綺麗だよ、と言えばさらに良かったかもしれない。しかし今の私にそれを言う資格はない。感情は捨てたのだ。

「じゃあ、行こうか」

私は彼女の手にそっと触れて、あの場所へとエスコートする。

彼女の回収は、私の思いをことごとく覆して思わず彼女を逆恨みしてしまうほど円滑に進んだ。

正面から射す夕日がまるでバージンロードのように私たちの行く道を赫く照らした。

太陽も彼女の味方か。そうは問屋が卸さないとばかりに私の心を掻き乱す。

ここまで私の思い通りに行かないと思わず自嘲してしまうそうだ。だがこれが私たちの運命なのだ。

私は決してバージンロードを歩く花嫁を壇上から待つ白い服を着た花婿ではない。私は漆黒のタキシードに身を包んで花嫁をただ死へとエスコートするだけの死神である。

みなさん、ご無沙汰しております。『シンギュラリティ』の英訳が思いのほか早く終わったことは話しましたね。なので新しい物語の構想に少しばかりの時間を費やしました。国語の時間でよく耳にする作者の意図、要するに作者が読者に伝えたいこと、共有したいこと、訴えたいこと、意見を求めていること、そういったメッセージをどう物語にするのか。それが小説家のみならず文学者や芸術家の腕の見せ所だと私は思います。興味本位で自由気ままに書いている私が偉そうなことを言って大変恐縮なのですが、このメッセージが伝わりやすいシチュエーションを考えるのに苦労しました。私のメッセージ性は『シンギュラリティ』以来あまり変わっていませんのですぐに思いつくのですが、それを人間の悪が前面に押し出されるほど理不尽で、残酷で、ホラーチックにするのが難しかったです。現状、ホラー要素を多く含んだ、虐殺ものだと『シンギュラリティ』のように解決編を用意しなければならず、今の私はそれが面倒だと感じています。ただ『シンギュラリティ』の続編は書く予定なので、それを期待している皆様はもうしばしご辛抱ください。まだやる気が出ません。かといって『異人』や『ピースメイカー』は私からしてみればホラーが物足りないと感じてしまう。このせめぎ合いの応酬に遭いました。

さて話が長くなりましたが、ここまでの思考は実は数時間で終了しました。要するに物語の舞台や設定などを練るのに数時間とかからず導き出しました。しかも二つも。一つは今のところこれまで通りの長さのもの、そしてもう一つは短編となります。授業が始まるまで後四ヶ月ほど。このうちに短編の方は仕上げようと思います。長編の方は短編がどれほどの時間で書き上げられるかにかかっています。短編を一ヶ月ぐらいで仕上げられれば、取り組もうと考えていますが、長引いてしまうとおそらく休み中には書き上げられないと思うので、綿密に物語の流れを計画するにとどめておきます。途中まで書いておいて、また一年後となるとどんな物語にする予定だったのか忘れていそうで、物語に対する意欲がなくなってしまい、竜頭蛇尾な作品になりかねませんから。

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