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ピースメイカー  作者: 蒼蕣
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雲行き

自分の手で彼女を殺す時がいつか来る。

それを私は恐れていたのだ。

自分の好きな人を殺すのは何よりも辛いことだろう。

なにせ人口管理班にいる以上いつだって自分は殺す側であり、彼女は殺される側。その事実が覆ることはない。

人を殺すことが許されている職業、彼女を殺したとしても私は死刑になるどころか、平然としていなければならない。

皆こんな気持ちになるのが嫌だから人との関係を閉ざすんだ。

好意を持てば、いざその時が来ると自分が苦しむ。耐え難い苦しみを味合わないための自己防衛本能。

そしてその時が来た。分かっていたはずなのに、気持ちの整理が追いつかない。こんなに早いなんて。やはり人口管理班としての本分を履き違えたから、神が天罰を下したのか。

私に一気に恐怖と苦痛が降りかかった。

「おい、どうした。さっさと終わらせよう。どっちやる」

佐竹先輩に話かけられた。

「あ、いや。そ、そのじゃあ通達の方で」

目を見開いたままでは佐竹先輩の方を振り向くこともできない。平然を装っても紙を持つ手は微かに震え、空いた口は今も塞がらない。

本当のことを話したところで何も変わらない。誰も殺すことをやめないだろう。彼らにとってこれまでと何ら変わらぬ一つの命。見ず知らずの人の命一つのために社会の秩序を覆そうとしてくれる善人などいない。

だから話さないほうがいいのか。

それとも話すことで彼女を殺した後、元気を出せと私を慰めてくれるかもしれない。そんな慰め、焼け石に水だ。見窄らしいだけだ。

「んじゃ、そっちよろしく頼むぞ。通達の内容はいつもと変わらないから宛名だけ変えて人数分プリントアウトすればすぐ済む。あとは住所に送るだけだ」

「は、はい…」

どうすればいい。

もちろん仕事をしなければいけないのは頭ではわかっている。

でもどうしても彼女を殺したくない。

なら一層リストから削除してしまうか。

いや信頼が最重要視されるこの仕事で、そんなことをすれば自分の責任だけにとどまらない。関東の人口管理班だけでなく全国の人口管理班に影響を及ぼすだろう。

たった一人の私情で他の人に迷惑をかけるわけには行かない。一人の命と世界の存続を天秤にかけるわけにはいかない。

ならここを辞めるのはどうだろう。

しかしここをやめたところで戸籍のない私はどうなるのだろう。

のたれ死ぬのだろうか。彼女なら私を引き取ってくれそうだが、定職につけない私は彼女におんぶにだっこ状態に成り下がる。情けないことこの上ない。

それにたとえ私が殺さなくても他の人が殺すだろう。私の命と等価交換とも行かない。そんな融通が効くはずもない。どうやっても私一人の力では彼女を運命から逃すことはできない。

結果として私は苦しんでしまう。

ああ、そんなこと関係ない。私が苦しもうとどうでもいい。ただ、私は彼女に生きていてほしいんだ。

なら警部たちに話すか。もしかしたら私の味方になってくれるかもしれない。関東地方の人口管理班全員で立花警視に取り合ってくれるよう一緒にお願いするのはどうだろう。

もしかしたら彼の心が揺らぐかもしれない。人情が残っていれば情けをかけてくれるか。一人ではダメでも警部たちを味方にすれば警視も心変わりもするだろうか。

いや私たちが喚いたところで事態は好転しない。多勢に無勢に持ち込む必要がある。ぐうの音も出ないほどに同調圧力で相手を屈服させる必要がある。

同じ派閥の片倉警部や十河警部らが参加してくれたらいいんじゃないか。

いやいや、待て。そもそも彼らが味方してくれるとも限らないんだ。

派閥も存在して、仲も悪いけど、人口管理班に属する全員がこの仕事に執着してるんだ。自由のために。

自分の今後を捨ててまで私に加担してくれるとは到底思えない。割に合わない。

色々と考えたが結局何も思いつかなかった。

やはり、自分にはどうすることもできないのだろうか。

彼女を殺させない方法などない。もうすでに決まったことなのだから私一人があがいたところでその決定は覆らない。

ああ、なんて無力なんだ。初めて好きになった人一人守れない。恩を仇で返す羽目になってしまった。やはり、あの時の告白断っておくべきだった。彼女の死に顔を拝むくらいなら、彼女の泣き顔を見ている方が楽だった。

後悔先に立たずとはまさにこのことだろう。過去にはもう戻れない。彼女の告白を無下にできなかった事実は変わらない。

これが自分を甘やかした末路だ。

なら彼女との縁を切ればいいいんだ。

そうすれば苦しまずに済む。苦しまずに彼女を殺せる。後味が悪い程度に終わる。

私はその考えに到達した途端、落胆した。

警察官は人を守ることを仕事としているはずなのに。自分より他人を優先する仕事のはずなのに。ああ、結局私は自分のことを一番に考えてしまう身勝手な屍人なんだ。

こちらで何か付け加えるのは久しぶりな気がしますね。最近読者数が一気に増えており、嬉しい限りです。これからもよろしくお願いいたします。さて、私ごとですが今週で大学四年の授業が終わりを迎えます。要するに再び執筆活動に戻れるという報告です。しかし授業が終わったとはいえ、まだ課題がいくつか残っていますので、再開は再来週体と思います。

予定していました通り、『シンギュラリティ』の英訳に取り組もうと思っています。国際化の今、英語が私なんかよりも堪能な読者の方もたくさんいることでしょう。よろしければ日本語と英語を読み比べてみて、感想をいただければと思っています。と言ってもそれが投稿されるのは数年後になるでしょうから、もうしばしお待ちください。まだ次作の『新・創世記』も投稿されてませんから。

ところで英訳するにあたって一つ悩みを打ち明けたいと思います。『シンギュラリティ』は私が高校一、二年の時に書いた物です。その時からもう五年ほど経っており、その五年の間に日本にいなかったとはいえ、日本語は上達していると思います。ならば、その上達した日本語で『シンギュラリティ』に言葉遣いや語彙などの修正を加えた上で英訳すべきなのか、当時の日本語をそのまま英訳すべきなのか迷っています。翻訳家ならば、原本の作家の意図を汲み取り、その作家さんらしい言葉で訳すことが求められているのではと勝手に思っていますが、これは自分の作品なので言葉を改善するのはいいんでしょうか。そもそも何も知らない私なんかが翻訳家の矜持らしきものを語るのは烏滸がましいですね。みなさんはどちらがいいと思いますか。よかったらお聞かせください。

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