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ピースメイカー  作者: 蒼蕣
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継承

「派閥か。地方の人口管理班と会ってきて、とんだとばっちりを受けたみたいだな」

「はい。なんていうかギクシャクしてるみたいな。てっきり同じ人口管理班同士なんだから仲いいのかなって思ってたんですけど。いや、人口管理班同士が仲良くないというのは聞いていたんですけど、あれほどとは…」

「俺たちと奴らの違いは簡単に言えば独立してるかしてないかの違いだな。元々は完全に独立した組織だった。まあ、当然だろうな、俺たちだけは正式な手順で警察官になった訳ではないんだからな」

「もしかしてそこから僕たちのような人口管理班を作ったのが…」

「ああ、警部だ」

やはり普段はあんなちゃらんぽらんだけど原警部は偉大な人物なんだと改めて実感した。能ある鷹は爪を隠すということなのか。

「差別しちゃいけないみたいな感じですか」

「まあ、そう答えを急ぐな。まずは知っての通り俺たち人口管理班の中には人もしくは社会そのものを恨んでる奴がいる」

「自分の力を認めてくれなかったのは社会のせいだと思っている人たちですね」

「そんな自分勝手な連中がいわゆる人との関わりを閉ざしてる連中だ。誰も自分たちを見てくれなかったから死を決意したんだ。それなのにそんな人間たちに死ぬことすら止められた。最後まで自分の思い通りにさせてくれない人間と社会を嫌悪する気持ち、わからんでもない。そんな奴らが名目上死んだからと言って心機一転、人間と連むなんてのは無理な話だ」

その言葉を聞いて私はふと結衣のことを思い出した。

「だが警部は違った。自殺したのはあくまで自分が弱かったせいであって他の誰のせいでもない。だから人を恨んでなかった。だから人との関わりを一切持たない元の組織には居づらかったんだろうな」

「そういうわけで独立した、と」

「まあそんな訳だ」

思ったより単純だった。正直もっと複雑に絡み合った過去があったのかと思っていた。拍子抜けではないが、今までずっと思い詰めるほどでもなかった。いや、もしかしたら馬場警部補でも知らない紆余曲折があったのではないか。

「なんか逆恨みな気がしますね」

「切羽詰まれば誰だって周りが見えなくなって自己中になる。それに自殺を選んだのは奴ら自身でも社会がその選択を止められなかったことも事実だろう。健全な暮らしを保障する社会も完璧じゃないってことだ。必ずこぼれる者がいる。それより偉大だろ。お前も警部のこと崇拝したいか」

「崇拝とまではいきませんが、尊敬します」

「ははっ、そうだろう。まあ、これが表向きの理由だ。人を恨んでるか恨んでないかだ」

「表向き…」

やはりこれだけではなかった。

「警部が独立を決めたのには他に理由がある。人口管理班の仕事はなんだ?」

「ええーと、人口管理ですか。日本という国が支えられる人口の上限を超えないために、人選機で選別された人たちを回収する」

「まあ、そうだな。そうしないといずれ資源が底をつき、他の土地を求め、戦争をふっかけるかもしれない。平和を保つためにも必要な仕事なんだろうな。じゃあなんで俺たちはそんな熱心にこの仕事をやっているのか」

「自殺した罪としてですか」

「ああ、質問の仕方が悪かったな。まあ、何よりゴールがあるからだろ。ゴール、それはつまりこの仕事からの解放、更生だ。どういう基準で抜けられるかは知らないが、この仕事を頑張ればいずれ元の世界に戻れるのを知ってる。だから俺たちは心を鬼にして人を殺してる。と言っても元の世界に戻ったところで他の人間と同じ暮らしができるかって言ったら疑問だな」

馬場警部補は丁寧に自論を述べた。

「ここからが本題だ。元々の人口管理班はただ自分の利益のため人を躊躇なく殺し続けた。まるで自分の恨みを晴らすかのように。それを警部は嫌ったんだ。警部は自分が表面上警察官であることを認識してる。たとえ屍人でも人の生活を守ることを優先してる。事故が起きそうならば、体を張って止める。人の命を摂る傍ら、それ以外の人たちの命は全力で守る。彼は死神になっても人としての心を忘れなかった。警部は警察官として自分の罪にケジメをつけようとしているんじゃないか」

さすが原警部を崇拝しているだけあって、原警部の心中を細かく分析している。まるで研究者だ。

私はふと、事故現場のことを思い出した。

地方の人口管理班の人たちは行方不明者捜索にあたってその人が死んでいようが死んでいまいが興味ないという感じだった。生存者が出た時でも顔色ひとつ変えず、自分たちの任務を全うしていた。冷たい、と正直感じていた。でも警部や小島警部補は違った。彼らは行方不明者を探していたんじゃない、生存者がいることを探していたんだ。そして生存者が見つかるたび、彼らに寄り添って懸命に言葉をかけていた。たとえ見つかったのが死体であってもガラス細工のように最後まで丁重に扱っていた。

そうだ、これがあの時感じた違和感だったんだと今気づいた。

「かっこいいですね。本当に警部には敵いません」

「たとえ死んでも人は人だ。思いやる気持ちを忘れちゃならないと感じたんだろうな」

そしてその思いが我々のような部下や中国・四国地方の十河警部や東北の片倉警部にも届いて、規模を一人で拡大したんだろう。

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