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ピースメイカー  作者: 蒼蕣
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真実

そう、私は人間ではない。

しかしかと言って狐や狸の類が人間に化けているわけでもない。

私たちを言い表すとすれば、それは屍人であろう。

この世に未練を残してさまよっている幽霊とは違う。

私たちは罪人だ。私たちはある罪を犯したためこの世に縛り付けられているのだ。あの世に旅立つことは許されない。

その罪とは自殺だ。

全ての生物には終わりがある。それは人も例外ではない。

病気、事故、事件、老衰様々な要因によって人は死ぬが、それはすでに運命によって決められているのだ。

これもこの世界で生きるための条理なのだろう。

誰もが理由もわからず当然のように従うのだ。

その運命を変えること、それは大罪に値する。

自分の運命を回避する手段はただ一つ、その運命が訪れる前に自分で手を打つこと、それすなわち自殺だ。

なぜ自殺することが罪なのか。

詳しくは知らないが、どうやら人口というものは管理されているらしい。この世の全ては有限だ。土地も財産も資源も。人が多くなれば全ての人間に行き渡らない可能性がある。その不公平さが戦争を招く。それを阻止するためには人の数を調整する必要がある。それは我々人口管理班がいなくとも自然に行われている。まるでこの世が意志を持っているかのようにこの世の全ての生物はその上限を超えることはない。

一人一人に決められた死に方がこの世に生を受けた瞬間から用意されているのだそうだ、これを運命という。人それぞれに違った日に違った死に方が用意されているおかげでこの世は平和という均衡が保たれているらしい。

しかし現状神の導きだけではどうしようもならない事態になっている。命は有限だというのに、人間たちは自分達の運命に逆らって延命処置を施し、長生きしようとする。挙句の果てに求めるのは永遠の命。なんとも罰当たりな話だ。人間たちの身勝手な欲望が医療技術を発展させ、また戦争を引き起こす可能性がある。戦争は人の命を奪うだけではない。他の人に行き渡らせるはずだった土地や資源も奪うのだ。

運命に逆らおうとする輩は他にもいる。それが自殺者だ。決まった死に方を守らないとこの世の平和が崩れてしまう。死に方の問題ではない。死ぬ時間の問題だ。世界は死にゆくものと生まれゆくものの帳尻が合うように作られている。つまり生まれてくるより先に死ぬことは禁忌である。それすなわち自殺した人間は世界の平和を乱した罪人というわけだ。

そんなこの世の絶対的規律を犯して自ら命を絶ったものには、罰として人口管理班に配属され、人を殺すのだ。

つまり私を含め、原警部や他の地方の人口管理班は皆、この世の平和を乱したというレッテルを貼られた人たちなのである。

自殺する人自体は今の平和な世の中、差別のない、他人の意思を尊重する世の中になったおかげで減って来てはいる。全盛期には日本だけで年間千人はいたと聞く。

しかし彼らの姿は今やどこにもない。きっと何年も人口管理班として勤め上げれば、この班から抜け出せるようだが、その真意を知っているものは今の人口管理班にはいない。一体どのような基準で解放されるのか、罪を償ったと認められるのか全くの謎である。

私も含め、全国の人口管理班が仕事に執着しているのはこういう理由からだ。早く自由になりたい。早くこんな呪縛から解き放たれたい。そんな一途な思いを胸に今日も心を無にして人を殺しているのだ。

屍人といえども私たちの姿を生きている人は目視できる。なんせ私たちは自殺未遂者なのだから。それも生死の境を彷徨った自殺未遂者だ。

当然見た目も普通の人間となんの遜色もない。だから他の刑事と共同捜査できるし、他の人に混じって英会話教室に通うこともできる。

”生前”も警察官だったものは一人もいない。

ただ単に自殺未遂を行えばこの刑事部第零課に配属され、警察官を名乗れるのだ。だから私たち人口管理班は厳密に言うと警察官ではない。

一体誰が、人口管理班という組織を警察内部に作ったのか。それも不明である。

法律に触れることなく人を殺せるという大義名分を持ち合わせているのが警察だからという理由だと私は勝手に思っている。

さて、そんな我々は屍人であるゆえ、戸籍を持ち合わせていない。

厳密にいうと持ってはいるが、すでに死んだと明記されている。

そのため、身分偽証の疑いを避けるためにも生きている人との交流を控えるようにと推奨されている。

”生きている人”と交際するなどもってのほかだ。いくら今の世の中性別、人種の垣根を超えた交際が認められていても、これは無理であろう。身の程知らずだと一蹴されるだろう。

そういう理由で、彼女とは付き合えない旨を伝えた。白状したのだ、自分がこの世の平和を蹂躙した犯罪者であることを。

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