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ピースメイカー  作者: 蒼蕣
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葛藤

「一緒に食事なんて最初以来だね」

「ごめん、こんな場所で」

私たち二人がいるのは英会話教室近くの牛丼屋。

「いいよ。私こういうところが一番気を使わなくて済むから」

結局私は自分の本心を言い出せずにいた。男として情けない。だがきちんと理由がある。

と言うのも私は自分の仕事に囚われているからだ。

私だけではない。

警部たちも他の地方の人たちもみんな人口管理班という仕事に囚われている。

そんな人たちを差し置いて自分だけ抜け出すことなんてできない。

自分の仕事を告白すればこんな明るい彼女だってきっと私から去っていく。

なぜなら私は毎日人を殺しているのだから。警察官という人々を守る職の名を語って。

人殺しは大罪だ。どんな理由があろうとやってはいけないタブー。

一昔前なら公衆の面前で公開処刑を行なっていたが、今は処罰は人知れず行われるべきだという認識に変わった。すると殺すという行為自体が道徳心に欠けると非難されるようになった。

そんなことをやっていると知れば彼女は恐怖に怯え、今すぐにでもこの場から逃げ出してしまうだろう。

一度人口管理班に入ってしまったら最後、もう抜け出せない。

社会という自分たちの生存を保証してくれる安全地帯に制定されている数少ないタブーの一つを私たちは犯したのだ。

隠し通さなければ我々はあっという間にこの世界から爪弾きにされる。

たとえそれが仕事の一環であって、法的には裁かれないとしても周りからの印象は最悪だろう。誹謗中傷ならまだマシだ。最悪の場合命を狙われるのだから。

だから私は言うのを拒んだのだ。

言えば、彼女は十中八九私から離れていく。いくら私の思いが伝わったとしても殺人者と一緒にいる物好きはいないだろう。

何より殺人者に加担する者として自分だって周りから白い目で見られるのだ。

私以外に友好関係を持つこともできなくなる。彼女が良くても私が見てられない。

私を取るかそれ以外を取るか。小学生でもわかる。

そして自分たちの仕事を他の人に口外したとして私は仕事場にもいられなくなる。そして私の行いが世間に公表される。それすなわち私だけでなく人口管理班も矢面に立たされることになる。世間の圧力に耐えきれず人口管理班が解体となればそれこそ世界が崩壊する。

自分一人の行動で日本中の全ての命が脅かされるのだ。そんなリスクを背負える度胸を私は持ち合わせていない。

彼女かこれからの人生かを天秤にかけた。

いくつもの分銅が彼女の方に乗ったが、それでも全然足りなかった。所詮彼女は一人の人間。彼女以外の日本国民を犠牲にしたいとはどうしても思えない。

結局この今の関係が二人にとって一番幸せなのだろうと思った。

私は自分の中にある葛藤を手元のお茶で流し込んだ。

「何か悩みがあるの?」

そういえばいつの間にか彼女には敬語を使わなくなっていた。

「いや、ちょっとしたことでさ」

「そう…」

私が曖昧な答えをすると彼女は少し顔を落とした。

悩みを打ち明けられない間柄ではないことは知っているが、隠し通さなければいけない悩みもある。だから気を落とさないでくれと慰めようとした時、

「実はね私も悩みがあるの…どうでもいいことかもしれないけど」

「仕事とか?」

そう言えば彼女の口から仕事の話を聞いたことはなかった。もしかして私と同じで何か後ろめたいことでもやっているのだろうか。なんて、そんなわけない。いくら世間が狭いといっても別々の秘密結社が個人的な交友関係を持てるわけない。

「ううん。仕事はね、最近順調なんだ」

「なんかストーカーとか?」

「それも大丈夫」

自分が刑事だということは彼女に話していた。だが生憎自分にはそのストーカーを逮捕する権限を持ち合わせていない。

「人間関係?」

「うん…そう」

「上司に叱られてるとか」

そんなことはうちは日常茶飯事だが、女性にとっては辛く恐ろしいものなのだろうか。

「言ったでしょ、仕事は順風満帆だって」

「同期と仲良くなれないとか?」

「それもないかな」

だろうな、彼女の人当たりの良さは天賦の才と言える。そもそも彼女の表情から悲しみや苦しみが見えない。それとも厳重に心の奥底に仕舞い込んでいるのだろうか。

「じゃあ…」

「実はね…好きな人がいるの」

藪から棒のその言葉に内心面を食らった。

久しぶりに心が揺らいだ気がした。しかし私はそれを表に出さなかった。いや、一瞬目を見開いてしまったかも知れない。

「でね、私その人が私のことどう思ってるか知りたくて…」

「一番てっとり早いのは直接会って聞くことじゃない?」

何気なく会話を続けた。いい機会じゃないか、これで彼女のことをキッパリと諦められると自分に言い聞かせた。

「そうだよね。じゃあ…私のこと好き?」

彼女のキラキラした目が私にまぶしく映った。

「よかったら私と付き合ってくれないかな?」

今度ばかりは取り乱してしまった。驚天動地とはまさにこのことだと思った。

今まで主人公の消極的な態度にもどかしさを感じていた方も多くいたかもしれませんが、ここでようやく潮時です。お待たせいたしました。来週でようやく物語が展開を迎えます。

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