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ピースメイカー  作者: 蒼蕣
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相互扶助

時間はかかった。何しろ全て初めてだったから。

今まで人間に微塵の興味のなかった自分が唐突にこんな感情に見舞われる。

最初は自意識過剰だとか自惚れているだと自分を非難し、本来の自分を取り戻そうと努めた。

仕事をしていると自分が一体何者なのか、日々自問自答をくりかえしていた自分に彼女は答えをくれた。

死神と周りから揶揄される自分、唯一の仲間は職場の上司たち。だから私は仕事に励んでいた。

彼らが私から遠ざかれば、私は支えを失い、崩落するだろう。

それが嫌だったし、怖かった。まるで社会の条理に取り残された気分に陥るかのようだった。

社会での人々の生き方はコーポレーション。決して一人では生きれない。

独立独歩という言葉も存在するが、それにも限度が存在する。

自給自足の生活ではない、完全に外部との連絡を遮断した生活、それになんの意味があるのだろう。

自分の自分だけの規則に従って生きることは果たして自由と呼べるだろうか。

他の人と協力したり、対立したりして、自分を他の人とは違う何かに磨き上げること、それこそが自由であり、自分らしさではないのだろうか。自由とは唯一無二となった自分だけが手にできるもの。最初は他の人を真似するだけでもいい、しかしいずれは自立し、自分なりの個性を導き出さなければならない。

だから私はこの仕事を続けた。一生懸命努力した。それ以外にやることもないし、何より自分らしさを追い求めるために。

しかし彼女は仕事以外で見出してくれた。

彼女にとっては単なるお世辞なのかもしれない。

しかしそんな些細なことも私にとっては初めてのことだった。

誰かに褒められることはあっても頼られることは一度もなかった。

だから嬉しかった。そしてもっと頼られたいと思い、密かに努力した。

やがて彼女と接する機会が増えた。すると彼女に会う口実が変わった。ただの自己満足に変わりはないが、もっと頼られたいからただ彼女に会いたいへ変わっていった。

そして今それはまた昇華した。

しかし私はその言葉を言う勇気はなかった。いつも警部に言われている、出過ぎた真似はするなと。

怖いのだ。もし断れたらと思うと。浮き足立っているのではないか。

他人の感情を正確に読み取ることはできない。ただ単に装っているだけかもしれない。普段は相手の感情を読まないようにしているのに、こういう時だけは他人の深層心理を渇望する。これは傲慢というやつだろう。

断られたら最後もう彼女に教えることはできないだろう。絶妙なバランスを保っている現状に水を差したのだから。泡沫の夢と成り果てるだろう。もう頼られることもない。いやそもそも合わす顔がない。またあの仕事を黙々とこなすだけの生活に戻ってしまう。

しかしこの関係をずっと続けていることはできない。教えることには限度がある。

やがて私の教えられる許容範囲を超えるだろう。そうすれば私はお役御免だ。

また他の人を探せばいいじゃないか、と考えたこともあったがなぜか嫌だと感じた。

人間関係とはこんなにも難しいものだっただろうか。事前にもっと経験を積んでいればこんなにも苦しい思いをする必要はなかったのだろうか。

今や仕事が捗るのも彼女のおかげだ。

しかしもし彼女をここで選んでしまうと、仕事に差し支えるのではないか。

仕事も私の生きがいであることに変わりはない。

どちらも蔑ろにはできない。不器用な私に両立などできるのだろうか。

そもそもこの一線を超えたら仕事をことを話す必要はあるだろうか。話せば話したで彼女に死神の片棒を担がせるのは忍びない。かと言ってダンマリを貫き通せば、彼女と私の間には永遠に埋まらない溝ができてしまう。それに彼女は、いや私は耐えられるのだろうか。今でさえ自分の本心を言いたくてうずうずしているというのに。

それこそ、今のこの関係が一番自分の理にかなっている。

そんなジレンマを抱え、悩んだ自分はどうしたらいいのだろう。そう思っていたところだった。

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