帰還
「あ、井伊さん。お久しぶりです!」
活気あふれる学生たちが皆授業を受けに行き、一人になった自習室。
そこにいつものように彼女は現れた。
相も変わらず屈託のない笑みを浮かべた彼女は遠慮なく私の隣に座った。
「最近、全然顔を見せないし、授業にも来なかったですよね」
「ええ。今週はすごく忙しくて、全然行けなくて」
仕事の内容を口外するわけにはいかないが、出張だったぐらいは言っても良かったのかもしれない。
「そうだったんですか。てっきりやめてしまったと思って心配してたんですよ」
彼女の笑みは私の欠如した何かを埋め合わせ、さらにそれを優しく包み込んでくれている気がした。
「それで、一つ聞きたいんですが。私が休みの日の授業は何を?」
まるでプロのようにいつもレッスンの復習を兼ねてプランを立てている。しかし今回は即席で作らなければいけない。
「はい。ええ〜と副詞、adverbでしたっけ、についてやりました」
「なるほど、それでわからないところはありますか?」
私はそう尋ねながら、教材を開き、「adverb」と書かれた単元に目を通した。
「その、単語がいっぱい書いてあってそれを並べ替えて文にしろっていう問題があるんですけど、それができなくて」
「なるほど。それはすなわちadverbがどこに入るかわかってないってことじゃないですか」
差し出がましいのは重々承知だが、いつも彼女と話すとどうしても上から目線でものを言ってしまう。頭ごなしに決めつけるのは良くない。もっと優しい言い方を心がけないと。
「そうなんでしょうか」
「ええ。まず英語の基本の文体は主語、動詞、名詞の順番ですよね。では次に形容詞を入れるとしたらどこに入りますか」
「ええ〜と…」
彼女は悩んだ。質問が抽象的すぎたか。
「ではこうしましょう。I read scary book. 形容詞はなんですか?」
「scary、怖いです」
「そうですね。つまり形容詞は基本動詞と名詞の間に入るんです。そしてじゃあ副詞はどこに入るのか。ではまず質問ですが副詞って例えばどんな言葉ですか?」
無理難題を押し付けてしまったかと後悔したのも束の間、案外すぐに答えが出た。
「ええと、alwaysとかusuallyとかって習いました」
「そうですね。日本語で言えばいつもやしばしば、時々、めったになどです。形容詞が名詞を修飾する言葉なら、副詞は動詞を修飾する言葉です。なのでadverbが入る場所は動詞の前です」
「動詞の前ってことは主語の後ですか?」
いい質問だ、と心の中でつぶやいた。
「基本的にはそうですが、be動詞がある場合はbe動詞とingがついた動詞の間に入るので、主語の後とは限りません。例えばI always play the piano、これは主語の後にadverbがありますが、この文を現在進行形にするとI am always playing the pianoとなってadverbはbe動詞の後にくるので、覚えるなら動詞の前と覚えておいた方が確実ですよ」
「なるほど。相変わらず教えるのお上手ですね。大変よくわかりました」
いつもとは違い、出たとこ勝負の説明になったが、うまくいって良かったと内心ほっとした。
「じゃあ先ほどできなかったと言っていた練習問題をやって見ましょう」




