現着
「随分と山奥だな」
茂みを分け入って進んでいく一向。すでに舗装された山道からは外れている。
「ええ、運動靴とか履いてくるんでした」
そう言って私はふと、泥が所々についた革靴を見た。
汚れてしまうこともさることながら、山を革靴で登ることも嘆かわしい。
「最近は靴をスニーカーとかに変える奴もいるんだとな」
「何警部まで言ってんすか。俺たちはこの革靴の底が完全にすり減るまで、歩くのが仕事っすよ。スニーカーなんてダサいのなんの」
小島警部補には彼なりの警察官としての意地があるようだ。
「だがな、こんな山道をワイシャツに革靴で登るやつなんていねえっての」
口には出さないが、私は静かに警部の意見に賛同した。
二人の会話のせいか自分たちが今事故現場に向かっていることを忘れてしまいそうだ。
自分達が今歩いている場所は事故のせいで多くの捜査員が歩いたためにできた細い獣道のようになっている。
「もうすぐです。ええと…」
先陣を切る赤井さんの優しい声が聞こえた。
「あ、ここです」
ようやく周りが開けて、ブルーシートが目に止まった。
「ここが対策本部といったところでしょうか。どうぞ、中へ」
「お邪魔しま〜す」
原警部に続くように僕たちもブルーシートをめくり、中に入った。
「ようやく、全員か」
最初に言葉を発したのは、野球少年のような角刈りの男、背はそれほど高くないが、小島警部補並みの筋肉を両腕につけていた。スーツ姿であったがだいぶ汚れている。
「あの人は確か人口管理班本部にいた…」
「十河一博警部だ。中国、四国担当の」
小島警部補が僕に耳打ちをした。
「遅くなって悪いな。その代わりと言っちゃなんだが、こっちは三人で来たんだ。それで勘弁してくれ」
誰にでもフランクに話しかける原警部の社交性が十河警部の気に障った。
「貴様、謝罪の一つもないのか!」
警部の悪びれる様子もなく拍子抜けな態度に苛立ったのか、十河警部が原警部に掴みかかろうとした。
「や、やめてください。喧嘩なんて、こちらとしても人手が足りなくて困っていたところですので、ありがとうございます」
それを後ろから抑えるように食い止めたのは、随分と小柄刑事。気弱そうでどこか佐竹先輩に似てる感じが。
「あれが、もう一人の中国、四国担当の長宗我部栄親警部補だ」
あんな若そうなのに小島さんたちと同じ階級。よっぽど優秀なのだろうと憧れの眼差しを向けた。
それと同時に彼に劣等感を抱いてしまった。明らかに自分とあまり年が変わらない気がする。
「おう、べ〜ちゃん。久しぶりだね」
原警部と親しそうに話している。
「その呼びかたはやめてください」
「さっさと行きましょう。私たちには時間がないんですから」
眼鏡をかけ、汗を流しているがきちっと身なりも整っている刑事が十河警部と長宗我部警部補の後方で腕を組みながら立っていた。二人と違ってスーツもぜんぜんよごれていない。
あの人は知っている東北担当の片倉警部だ。以前お世話になったことがある。
「おうおう、相変わらず無駄に真面目だな。仏頂面で可愛げもねえ」
十河警部は小島警部補と似て、誰にでも喧嘩をふっかけるタイプか。見た目通りだ。
それを食い止めるのがあの長宗我部警部補となると、気弱くなるのもわかる気がする。
「お前のような脳筋は頭より体を動かせ。私は今から捜索範囲を調べる」
「そんなのはとっくの昔に島津の野郎がやってたよ。お前こそ無駄に時間使ってるじゃねえか」
島津警部を野郎扱いする口の悪さも小島警部補と似ている。もちろん口が裂けても言えるわけがないが。
「ま、まあ。お二方とも。じゃあ私たちも行きましょう」
赤井警部が十河警部と片倉警部の間に入り、私たち三人を山のさらに奥へ誘うように手招きした。
私たちに続くように十河警部、片倉警部、そして長宗我部警部補も後を追った。
「おい、他の奴らは?」
「みんな事故現場で仕事中ですよ。彼らはちょうど休憩タイムに入ってたんですよ」
そう言って、数百メートル森の中を抜けて行くと、ようやく太陽が木に隠れていない開けた場所に出た。
そこには所々焼け焦げた跡と、飛行機の残骸が生々しく残っていた。




