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ピースメイカー  作者: 蒼蕣
27/57

予定

「まだまだありますね」

ホチキスで止められた紙をめくりながら、私は思わずため息をついた。いつもなら両面の紙一枚に収まる死亡者確認リスト。それがここ最近は二枚や三枚分にまで膨れ上がっている。戦意が挫かれる思いだ。しかしこんなことで音を上げるわけにいかないのは分かりきっている。

「ああ、だが早く回らないとそう何日も遺体を放置しておくわけないも行かない」

「昨日と今日で十三人。もう六時過ぎてますが…」

相手の都合も考えると、今日はここらが潮時かと私は思った。

「時間の許す限り、回ろう。次の場所に今から行くと連絡入れておいてくれ」

こういう時は無論先輩の顔を立てるのが部下としての本分。

「わかりました」

ちょうど胸ポケットに入った携帯電話に触れた瞬間に着信が来た。

「はい。井伊です」

「おう、俺だ」

電話の相手は原警部だった。

「今日はどれくらい処理した?」

「八人です。でもこれから次の場所に回ろうかと…」

「ほどほどにしておけよ。呼び出される側もこんな時間じゃ迷惑だろうしな。俺も昨日と今日合わせて十七人の遺体確認、小島も十四人処理したそうだ。合計四十四人。明日にも全ての死亡者の確認が終わりそうだな」

すごい。警部たちは一人なのに私たちより多いなんて。

「ちゃんと、定期的に馬場に連絡いれているのか」

「はい。一つの病院での審査が終わるたびに連絡を入れています」

「そうか。あいつも全ての普段の作業を一人でこなしていてまだ終わってないらしい。俺は今からあいつの手伝いに向かう。お前らも次の病院での確認が終わったら帰るんだぞ。んじゃ、お疲れさん。佐竹にもよろしく伝えておいてくれ」

原警部は私の返答を待たずして、一方的に電話を切った。

「警部からです。私たち全員合わせて四十四人の死亡者を審査したそうです。それと警部はこれから署に戻って馬場警部補の手伝いをするそうです」

「そうか。さすが警部だな。やるときはやる人だ、あの人は」

「同感です。さっさと最後の審査を終わらせて、我々も署に向かいましょう」

警部には帰宅を命じられていたことを言い終わってから気づいた。

「夜食でも買ってってやるか」

「そうですね。何がいいでしょう」

しかしもう口に出してしまったのだから撤回はできない。何も遊ぶわけじゃないんだから、警部も許してくれるだろう。

「そうだな、僕は肉が食べたいな」

「ま、マジですか。あれだけ死体を見た後に…」

私は思わず、検死の光景を頭に思い浮かべ、吐き気を催した。

「んま、夜食のことなんて後だ。今は今日最後の仕事に集中しろ」

「はい!」


「お疲れ様です」

結局私たちはコンビニで片手で食べられるおにぎりやサンドイッチを十個ほど買ってきた。

「なんだ、お前らも戻ってきたのか」

見ると、馬場警部補と原警部だけでなく、小島警部も作業していた。なんだかんだ言って人口管理班は仲間思いなんだと改めて実感した。

「もう直ぐ終わりだ。別にお前ら来なくてもよかったのに」

時計を見ると、夜の十時過ぎだった。

それまでずっと仕事していたのだろうか。

「い、今お茶入れます。あ、その前に馬場警部補、この人たちも確認してきました。特に異常なしです」

そう言って彼のデスクの上に先ほど審査した人たちの情報が載った紙をおいた。

「そうか、わかった。これで残り二十人弱ですね。それに今日連絡が入って関東県内での死亡者が三人、それと北海道で一人ですね」

馬場警部補は椅子の背もたれに寄りかかり、大きく背伸びをした。

「北海道の死者はどうします。また東北の奴らに要請しますか?」

いつの間にか小島警部補がコンビニの袋を漁っておにぎりを数個取り出し、そのうちの一個を食べていた。

「そうだな、とりあえず明日は事故と今日入った死亡者を同時に審査しよう。今日は昨日入った死亡者リストと選ばれた奴らの回収を全て馬場に任せてしまったからな。そのせいで外回りだけでだいぶ時間食っちまったからな。明日はお前、選ばれた奴らとあとはここで通常業務だ。

さてここからどうするか。俺と小島が一人ずつ残りの死亡者の審査を周り、お前らを北海道に回すか。北海道は東北に任せて、二組で死亡者を回るか。終わった組から馬場の手伝い。残りの一組は先に事故現場で行方不明者の捜索に向かわせるか」

原警部はこれ以上借りを増やしたくないのであろう。

「流石に検死終わらせてから行方不明者の捜索に加わるのは時間的に厳しいんじゃないでしょうか」

私は率直な意見を申した。

「何はともあれ東北の連中に北海道の死亡者ぐらいは頼んだ方がいいみたいっすね」

小島警部補は早速東北の人口管理班に連絡を入れた。

「僕は明後日みんなで行方不明者を捜索した方がいいと思います」

佐竹先輩がサンドイッチを食べながら、そう言った。

「みんなって言ってもな、通常業務を怠るわけにはいかない。こっちに残ってなきゃいけないやつが必要だ。最低二人。先に二人行かせといて後で一人行くってのでも変わんないんじゃねえか」

小島警部補はおにぎりを咥えながら、パソコンに向かい、さらにこちらの会話にも聞き耳を立てている。なんとも器用な人だ。

「馬場、お前どう思う?」

「私はそうですね。井伊の言ったように明日から現場に向かわせるのは無理があると思います。なので明後日に三人送るのがいいかと。それと現場に向かわせるなら小島は適任だと思います。こいつは体力だけが取り柄ですから」

「そうだな。小島、異論はないな」

「言い方は気に入らないが、まあいいですよ」

小島警部補は今度はコーヒーを飲みながら答えた。先ほどのおにぎりはまだ完食しておらずデスクに食べかけの状態で残されていた。

「俺もお前らの指揮官として現場に向かうとして、残り一枠は井伊か佐竹か」

原警部は私たち二人の方を向いた。

「僕から言わせれば小島以外だったら誰でもいいですよ」

馬場警部補はパソコンで何か作業しながら、我々の会話に入っている。

「井伊、お前はどうする? 俺たちと一緒に行くか? それとも馬場と残るか?」

原警部の視線が自分一人に向けられた。

「じ、自分は…」

自分でも驚くぐらい声が震えている。

答えを決めあぐねていると、佐竹先輩が入ってきた。

「行かせるのは井伊がいいと思います。彼のほうが自分より体力あるので」

「それでいいか、井伊?」

全員の視線が私に向いた。

「あ、は、はい」

ふと、佐竹先輩の目を見た。

彼の目は何かを訴えているようだった。

その瞬間、彼との会話を思い出した。

「経験…」

「よし、んじゃとりあえず明日は馬場が通常業務と選ばれたの奴らの回収。俺たちは二手に分かれて残りの事故死亡者の処理と今日連絡が来た死亡者の処理。終わったものから、馬場の手伝い。そして次の日は馬場と佐竹がここに残って通常業務。俺と小島、井伊が現場に入り他の人口管理班や自衛隊とともに行方不明者の捜索。以上だ」

「は!」

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