一人前
「近場から攻めますか?」
私が運転する車はリストの中で警察署から一番近い病院を目指している。
「そうだな。さっさと終わらせて、馬場先輩の手伝いもしないと…」
「だったら、やっぱり我々も別行動で…」
「それは、ダメだ」
普段は温厚な佐竹先輩もこの時ばかりは少し口調が強まった。
「警部は我々二人で審査するようにと命令したんだ。警察官は緊急時を想定して、二人一組が鉄則だ。特に外回りの時はな」
「しかし、今は時間短縮を優先するべきでは」
「だが、もしお前一人が失敗すれば、我々の中から一人がお前のサポートに回らなくちゃならない。それこそ、時間がかかってしまう」
「それだけ、私は信用されてないってことですか…」
「そうじゃない。私もついこの間まで一人で行動するのを許されていなかった。今だって、お前の見守り役だ。いわば私たちは警部たちにとっては子供も同然、ちゃんと自分の行動に責任を取ることができるようになって、初めて警部たち親から自立できるってことだ。そしてその責任を背負うことが許されるのはいくつも困難を経験しなければならない。私たちにはまだ経験が足りないんだ。自分たちが本当に一人前の警察官になったかテストされる時がある。これもその一環さ。だから今回の任務で手柄を立てればきっとすぐにでも一人での行動が許されるさ。だが手柄欲しさにいつもの冷静さを欠けば本末転倒だ」
「仰っていることはわかります。しかし自分が他の刑事さんたちの足を引っ張っているかと思うと情けなくて…」
私は俯いた。
「いいか。俺たちの仕事は国民の命を守ることだ。それに関しちゃ小さなミスも許されない。もし半人前のお前が一人で暴走して、何が一にもミスを犯せばそれは人口管理班、いや警察全体の信用を損なうことになる。足を引っ張っているのはなにもお前だけじゃない。僕も度々報告書の書き方が悪くて警部の手を煩わせているし、小島さんだって頻繁に暴力に走るところを僕たちが諌めている。馬場警部補の原警部への愛が暴走して、彼のやり残した仕事を僕たちがやらせれることだってある。警部だってあんな性格だからよく始末書を書かされている。誰にでも失敗はあるし、その度に他の人たちがサポートに回る。それはいつまでたっても避けられない。重要なのはその失敗をいかに最小限に抑えるかだ」
「その…私はいつも他の人の足を引っ張るばかりで自分は役立たずなのかと思っていました。他の先輩たちとは違って人口管理班に入って三年も経つのに未だに目立った功績を残していない」
「そんなことない。お前はうちの班の中では一番しっかりしてるじゃないか。あのひょうきん者の警部とは違ってしっかり者で、原コンの馬場警部補とは違って誰に対しても平等に接するし、怒りっぽい小島警部補と違っていつも冷静だし、家族からの期待に応えられず、臆病になってしまった僕とは違って行動力と度胸があるすごい男だ」
「そう言ってもらえると、嬉しいです」
卑屈になっていた私は思わず涙を流しそうになった。いつもなら自分に対する褒め言葉は全て物は言いようだと鵜呑みにすることはないのだが、この時ばかりはその言葉が胸をときめかせた。
「ほら、感動してる暇があったら一緒に今の仕事をやり遂げよう。全て終わったらまたお前の悩みを聞いてやるさ」
やはり、佐竹先輩は優しい。彼と一緒にいると自然と緊張感が薄らいでいき、代わりにやる気が増幅していく、そんな気がした。
「先ほどは先輩の命令に背くなど出過ぎた真似をしてしまって申し訳ありませんでした。自分の考えが甘かったです」
「前みろ、運転中だぞ。それにそんなしおらしくなってもらっても困る。言っただろ、僕はお前の根性があるところが好きなんだ」
佐竹先輩が微笑んだのがわかった。横を向いてその顔をじっくりと観察し、目の保養をしたかったが、よそ見運転は厳禁だと自分に言い聞かせ、感情を押し殺した。




