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ピースメイカー  作者: 蒼蕣
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生と死の狭間

夏岡さんとの仲は日を追うごとに深くなっていった気がした。

いや確実にそうなっていった。なぜなら前は授業がある時だけしか英会話教室に行かなかったのが、早めに仕事が終わると分かれば、英会話教室の自習室に勝手に足が動いていたし、授業後も閉校まで自習室に残るようになっていたからだ。

最初はただ夏岡さんに教えるという行動が好きだったのかもしれない。

私が教えるたびに彼女は喜び、そして私に感謝した。それが私にとって幸福だったのかもしれない。

しかしだんだんとそれは違う方向へと変わっていた。

今では仕事の時以外は英語の勉強、自習もさることながら夏岡さんのための問題作りに没頭していた。

人に教える立場にある以上日々自分の英語力も磨かなければならない。

そう思っていたらいつの間にか自分でも信じられないくらい英語力が上達していた。

英会話教室での授業が簡単すぎる。一度先生が上のクラスの教材をくれたことがあったが、それでさえ自分にはあっていないと思えるほどだった。

先生が言うには英会話教室の最上位クラスでもトップを張れるくらいの英語力が身についていると断言してくれた。

先生はそれは私の努力が身を結んだと言っていた。そしてそんな英語力を駆使して指導で彼女が上達しているのを見ると、余計に自分の努力が報われた気がした。


しかしそれからしばらくの間英会話教室に行くことはなかった。いくら教室に通うことが日課になっていたとはいえ、無論、仕事優先。公私混同をするほど落ちぶれてはいない。死神としての本分を見失ってはいない。

季節は冬、予報では今年一番寒い日、都心では雪が朝から九十パーセントの確率で降ると言われていたが、実際には降らなかった奇妙な日。

人工衛星の発達でここ何十年も予報を外したことがなかった。

しかしそれが外れた。何か悪いことが起こる予兆と思われた日にそれは起こった。

飛行機墜落事故だった。

乗員乗客合わせて二百一人を乗せた飛行機が都内を出発後、その道中である和歌山県内の山中に墜落した。

情報では二百一人のうち百二十五名が死亡、行方不明者が五十一人。不謹慎かもしれないが、重軽傷者の情報は必要ない。

百人以上もの人がいっぺんに死んだ。それを一人一人確認していかなければならない。

それをこの人数で捌くのも尋常じゃないぐらい大変なのだが、もっと大変なのは行方不明者の捜索だ。

生存しているものは人選機に登録させたままでいい。死亡者は死亡確認後人選機から除外すればいい。

しかし行方不明者はむやみに人選機から除外するわけにもいかない。一方で登録させたまま、もし仮に死んでいたとしてその者がのちに選ばれれば、それまた我々の信頼に関わる。

つまり、探し出し、生存しているのか死亡しているのかを早急に判断しなければいけないのだ。

さらに追い討ちをかけるのが、事故が起こったのが山中であることと今の季節が冬であること。

今の時期事故があった現場一帯は雪だ。

足場も悪く、このまま雪が降り積もれば行方不明者の捜索は困難となる。

もちろん、人口管理班だけでなく警察本部や自衛隊も導入される予定だが、我々には時間がない。

もしその行方不明者の中にこの一ヶ月以内に死ぬものがいれば、その期間内に生死を確認しなければならない。

また明日や明後日に選ばれる者がいて、その人物を見つけられず、どこかで生き残っていたら…

人選機で次の日に選ばれたものは次の日の夜にはリストから自動的に消去される。しかしその人物がその後生きていると分かれば、それは我々人口管理班の責任問題。

国民の生活維持、そして国民の命を公公平平に扱っている以上そんなことは許されない。

そんなわけで今の私たちには一刻の猶予もないのだ。

生き残っている可能性のあるものを一刻も早く救出するためという英雄的目的では決してない。我々は対象者が生きていようが、死んでいようがどちらでも構わない。

死んでいれば人選機から消すだけ、生きていれば後で我々がこの世から消すだけ。自らの手で殺すために命を救う。なんとも滑稽な話だ。

無論、そんな感情を表に出すことは決してない。心の奥底で密やかに育む。これだから人間は怖い。

幸いなことにこの仕事を我々五人が全て担っているわけではない。

その飛行機には都内のみならず、全国各地から来た人が搭乗していた。

つまり、全国の人口管理班と合同で捜査する。

と、いうわけで我々五人は飛行機で急遽九州の福岡県に向かった。

なぜかというとそれは、そこに人口管理班の本部があるからだ。

この飛行機も墜落すればこの仕事から解放されるかもしれないとささやかながら思った。

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