関係性
「よっしゃあ! 今日分の仕事終わり!」
突然の叫び声。しかし誰も何も言わない。無論当の本人も声をかけて欲しくて奇声を上げるほどのかまってちゃんではない。
「さ〜て、今日は何をするか」
自分の椅子から立ち上がり両手を高く上げ、背伸びをする小島警部補。
こちらはまだ仕事が片付いていないのに悠々と帰り支度を始める。無神経というか自己中というか。
「お見舞いに決まってるでしょう」
彼の奔放さを宥められるのは馬場警部補しか今はいない。
「我らが原名誉警部が体調を崩された。我々がお見舞いに行かずして誰が行く?」
「あ? 警部のこったぁ、きっと俺らが心配しなくてもピンピンしてるだろう」
不穏な空気が漂い始めた。勘弁してほしい。せっかく仕事が順調だったのに水を差された。
「貴様、こんな時でも警部を愚弄するのか」
「ま、まあまあ落ち着いてください」
すかさず後輩の私たちが二人を宥めた。
「それより、お見舞いに行くにしても四人全員で行くのは、お家の人に迷惑がかかるのでは?」
私の提案に小島警部補が便乗した。
「そうだ、ならお前一人でいってこいよ。警部のこと崇拝してんだろ?」
やばい、馬場警部補の怒りがこちらにも飛び火してしまう。
「ふん。言われずとも行くさ。貴様なんぞを連れていったら逆に警部に迷惑がかかる。この恥晒しが」
馬場警部補は割って入った私に目もくれず、小島警部補を睨んだ。
「自分もお供させてください。どうせ早く帰っても一人なんでやることもないですし」
佐竹先輩が名乗りを上げた。
「なら、やっぱり自分も」
私は小島警部補を突き放そうとした。
「おいおい、勘弁してくれよ。お前までいったら俺だけ見舞いに来ないみたいで薄情者扱いされちまうよ。ここはこいつら二人に任せて、な」
小島警部補が私の肩に腕を回して来た。そして私の顔を覗き込み屈託のない笑顔を見せてきた。言葉に力は感じないがこれは彼なりの圧力のかけ方である。これを無下にすれば実力行使に移るという合図だ。そもそも小島警部補が面子とかを重んじるとは思えない。
「は、はあ」
私は生返事をした。
「井伊、お前の気持ちは汲み取った。心配せずとも見舞いに行きたがっていたと警部に伝える」
「そうですか」
そうして馬場警部補の解散という言葉が放たれた。
私はしばらく部署にとどまった。
そそくさとどこかに行ってしまった小島警部補。
原警部の見舞いに行った佐竹先輩と馬場警部補。
みんなこの後も予定がある。
静まり返った部署で考え込む。私はどうするか。特にやることもない。ならやはり英会話教室か。
私は携帯を取り出した。
夏岡さんに連絡を…
しかし手が止まった。
「いや、やめておこう」
正直言って彼女は苦手だ。
それに彼女が来てしまえば私の勉学に支障をきたす。足元を見るのは目に見えている。
今日はやめよう。忍びない気もするが、まだそこまでの信頼関係を築いていない。
そう思い、私は身支度をした。




