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ピースメイカー  作者: 蒼蕣
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出会い

「あ、あの…こんにちは」

あと少しでひと段落ついて、コーヒーでも買ってこようと思っていた矢先に、誰かに集中力を切らされた。なんとも歯痒い。

三方を仕切られ、一人で作業するにはうってつけのパーテーションデスク。ただ横を向くだけではその姿は確認できなかったが、顔を上げて視界を上に向けるとすぐそばにいた。

「夏岡さん、なぜここに」

「あ、いえ。今日は非番の日なので英語の勉強でもと思って。ここにいればいつでも先生に聞けるんで。ってあ、今日先生いないんだった」

そうですか。と適当に相槌でも打って話を終わらせたいところだが、制服も着ていないがこれでも警察官だ、人には親切にしないと。無神経ではなく粗相がないよう気が利くところを見せないと信頼を失ってしまう。私の態度一つで私個人だけでなく警察組織全体にも影響を及ぼすかもしれない。

「まあ、その私なんかでよければ教えましょうか。あ、て言っても私も全然まだまだで教えられるかわかりませんが」

「はい…お願いします」

ここまで謙れば察してくれると思ったのも後の祭り。

夏岡さんは一度頭を下げると、私の隣の席に座った。

「あ、ごめんなさい。お邪魔でしたか」

私の心理をようやく理解したのか、はたまた私のテーブルを見て思ったのか、彼女は一つ間を空けて座った。

「いえいえ」

今少しの辛抱だ。

私は愛想を振りまくと、再び机に向かった。

しかし、先ほどとは打って変わってあまり集中できなくなっていた。

やはり同じ空間で一人でいるのと、二人でいるのとでは同じ静けさでも違う。

見られているわけではないが、見られていると感じてしまう。自意識過剰になってしまう。

ああ、さっさと終われせて帰ろう。

「あ、あのすみません。これ…」

「え…」

ほんの二、三分で早速私を頼ってきた。

「この問題なんですけど、この文を過去形に直して疑問形にしなさいって、どうやれば」

「あ、はい」

私は自分のノートを閉じて、彼女のノートを受け取った。

「She wants to play the pianoですか」

「はい」

「まずこの文を過去形にしましょう。過去形にするには動詞を変えるのはわかっていますよね」

丁寧かつわかりやすい説明をしようと尽力する。

「はい」

「じゃあこの文でどこ変えればいいんですか」

「ええーとplayですか」

ちょっと、重症だな。しまった、露骨に表情に出してしまったかもしれない。

「うーん。じゃあこの文を日本語にして見てください」

「ええーと私はピアノで遊びたいです」

「まあ、そうですね。まあ楽器の場合のplayは弾くになると思いますが。まあ、いいでしょう。では、この文で動詞はなんですか?」

先生のような口調に思わずなってしまう自分が気恥ずかしく思えた。

「遊びたいです」

「そうですね。その遊びたいという言葉は遊ぶとしたいがくっついた言葉です。じゃあこの遊びたいを過去形にするとどうなりますか」

「遊びたかった」

「そうですよね。この遊びたいと遊びたかった。過去形になったのは〜したいの方で遊ぶは変わっていませんよね。英語でも一緒です。遊びたいの英語はwant to play、これを過去形にするにはwantの方を過去形にするんです」

「それじゃあwanted to playになるってことですか」

「その通りです」

「なるほど」

夏岡さんははっきりと納得した顔を見せた。その顔を見て私は少し安堵したが、一難去ってまた一難。

「ではこのshe wanted to play the pianoを疑問形にしましょう。疑問形のルールはなんですか」

夏岡さんはノートをペラペラと捲り、一枚のページのところで手を止めた。

「ええーと。Be動詞と主語の場所を反対にする、です」

「そうですね。でもこの文にはbe動詞がありません。こういう時どうするのか。習いましたよね」

「あ、はい。ええーとdoです」

よかった、それはノート見返さなくても覚えていてくれた。先生もきっと鼻が高いだろう。

「そうです。Doをbe動詞の代わりに主語の前につけて、あとは同じです」

「はい」

夏岡さんは言われるがまま先ほどのshe wanted to play the pianoをdoの後に書こうとした。

「ストップ!」

危惧していたことが実際に起こったので、思わず止めてしまった。

「え…」

夏岡さんは面を食らったような顔をした。しまった、書いている途中で指摘するのは無粋だったか。

「あの、それじゃあ文法的に間違ってます。まず疑問形になった時点で今度はdoが動詞になったわけなんでこのdoを過去形にします」

「doを過去形、ええ〜とdidでしたっけ」

彼女は至って真剣、それを無下にしないよう十分配慮しないと。先生の苦労が少しわかった気がした。

「そうですね。で、次にもうdoに過去形を使ったので先ほどのwantedからedを取りましょう。先生も言ってましたよね。疑問形とかでDoがdidとかdoesになったら、もともとの動詞についていたsやdは消えるって。重複しちゃだめなんですよ」

「ああ〜」

「というわけで正解はdid she want to play the piano? になるわけです。何かわかりづらかったところありましたか」

最後は畳み掛けるようにどんどんと教えていったが、ちゃんと着いてきてくれただろうか。

「いえ、すごくわかりやすかったです。ありがとうございました」

夏岡さんは大きく頭を上げた。

腫れ物に触れるような対応で正直疲れたが、彼女の笑顔が見れたのでよしとしよう。

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