孤独
私はここから離れるわけにはいかない。
当然だ。私には課せられた使命がある。
人口管理班として人が生まれるのと同じ数だけ人を排除していかなければならない。
その均衡が崩れれば平和な世の中は終わる。
いずれ資産を持つものと持たないものが現れ、差別が起こり、争いが始まると言われている。
言われているだけあって実際にそうなるかは誰にもわからないが、誰もその引き金を引こうとも思わない。
今の世の中に適応してしまっているから。
また新たな世の中が生まれれば、それに順応するのに時間がかかってしまう。その間彼らは皆苦しむだろう。その苦しみを味わいたくないのだ。皆臆病風に吹かれているのだ。
もっと他にいい生き方、より良い社会のあり方があるのかもしれないが、それを試す気にはなれない。
失敗すれば我々は生きながらえながら苦しむことになる。
そんなことになるなら、生きている間は鳥籠の中で何不自由ない暮らしがしたい。
人口管理班によって選ばれた時だけ苦しみたい。
そう思っている。そんな人たちの思いを我々は一身に背負っている。
毎日毎日、人を殺す仕事をしている。矢面に立たされている気もするが、我々がやらなければ共倒れになる。非難されるのは筋違いというものだ。
彼らの支え、彼らの願い無くして我々はこの仕事を続けていられないだろう。
だから今日もみんなが平和に暮らすために我々が犠牲となり、自分たちの手を赤く染めるのだ。
多くの者がさらなる高みを目指すため、自分の力量を測るため、そして単純な興味本位からイギリスへ飛び立った。
もちろん私は仕事があるから行かなかった。
性懲りも無く自分達の実力を履き違えたおめでたい者達。度胸があるのはいいことだが、私からしてみれば荒唐無稽に思えた。
先生は付き添いで彼らとともにイギリスへ向かった。
正直先生一人ではあの人数は手に負えないと思いながらも、何も言わず、ただ静観を決め込んだ。これ以上恨みを買いたくない。
私は今日も英会話教室にいる。授業はない。ただ自習のためにここにいるのだ。
自習なら家でやればいいじゃないかと警部に言われた。
確かにそうだが、私は家という場所は休む場所であると認識しているため、仕事の一環である英語の勉強はしたくないのだ。
仕事は全て公共の場で済ませる。
信念とまでは行かないが、自分で勝手に決めたルールだ。
だから、英語の勉強は必ず英会話教室でやるようにしている。
こんな自分と同じ考えの人から要望があったのか英会話教室には自習室がある。
この英会話教室は我々社会人だけでなく学生なども通っているため、自習室は彼らが学校の勉強などに使っている。
そんな学生の中で社会人の私は英語の自習をする。
学生に囲まれてスーツ姿のおじさんが勉強している状況はなんとも非日常的だが今少しの辛抱だ。この肩身が狭い思いも直に終わる。
なぜならここにいる多くの学生たちは皆同じレッスンを受けており、そのレッスンがもうすぐ始まる。
徐々に学生たちが出ていき、ついに私一人になった。
彼らはレッスンが終わればここに戻らず帰宅するので、これからずっと一人だ。
静かな教室で勉強する。
真面目かと茶々を入れられやる気を損いかねないが、これも仕事の一環と思えば気合も入る。
それだけ私はこの仕事にやりがいを感じている。
人の中には誰かと一緒にやったり、誰かに見張れていた方が、身に付くというものもいるが、私はやはり一人が好きだ。
聞こえるのは自分のペンが走る音とかすかに聞こえる外の音、そして壁に取り付けられた時計の秒針が動く音だけだ。
そんな静寂が私の燻んだこの気持ちを浄化させてくれる。




