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ピースメイカー  作者: 蒼蕣
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覚悟

「さて、今日はこの三人だ」

馬場警部補から今日審査する三人の情報が書かれた紙を渡された。

「宍戸美奈子 二十九歳…」

紙には氏名、年齢、性別、出生地、現住所、職業、収入、経歴など詳しく書かれている。別にこれらの情報で選別が取り消しになるわけではないのだが。

「潮英彦 四十三歳…」

「うわっ、出ました北海道」

思わず本音が口に出てしまった。

「小樽ですか…」

佐竹先輩もそれほど表情には出さないが、口調が彼の心情を物語っている。

「お、なんだ佐竹行ったことないなら行ってくれるか?」

原警部がすかさず揶揄った。

「え、いやですよ。もう僕先週も行きましたし。たまには警部が」

上司である警部に仕事を押し付ける部下など言語道断と言いたいところだが、正直この警部になら何を言っても許されるのではないかと思ってしまう。

「ばか、長である俺がここを離れるわけにいかんだろ」

北海道の押し付け合いが始まった。

立場的には警部の方が上だが、彼が何か反論するたびその言葉が警部自身に跳ね返ってくる。日頃の行いの差がここにきて警部の立場をあやしくしている。

「お前、警部に向かって何たる口の聞き応え!」

押され気味の警部にすかさず原崇拝者の馬場警部補がフォローに入った。

「おいおい、そのくらいにしとけ。仕方ねえから後でじゃんけんつうことにしとこうぜ」

「そんなこと言って、この前イカサマのはお前だったよな」

「あん? やんのか!」

「上等だ!」

小島警部補と馬場警部補はソリが合わないのか、いつも喧嘩腰だ。

「まあまあ、みなさん落ち着いて…」

蚊帳の外の私が全員を宥める。

「チッ」

柄の悪い小島警部が大きく舌打ちをして、席に戻った。

「ええ〜と最後は…あれこの人」

私は思わず紙を二度三度見直した。

「ああ、大物政治家さんだな。横山喜一 五十八歳」

「この人、今の政府の中枢を担ってる人ですよね。大丈夫ですか?」

佐竹先輩が危惧しているのは、彼の死で社会が回らなくなってしまうのではないかということだろう。

「まあ、これも運命ってこった。こんなんじゃ死を延期する理由にはならない」

のらりくらりしている原警部だが、彼は判断を誤ることはない。仕事が第一であり、感情や世論は二の次。

「あの〜いつも思うんですけど、回収を延期する時ってどんな時なんですか」

私はふと気になったので尋ねた。

「そうだな〜例えば日本を滅ぼしかねない隕石が降ってきているときに、それを食い止める最高責任者、とか」

「そんなこと起こるんですか?」

「まあ起こらねえとも限らねえだろ」

小島警部補が後ろから手を肩においてきた。

「ま、それだけ特例中の特例がなければ、回収は延期しないってことだ」

その後ろから馬場警部補が畳み掛けた。

「さて、じゃあ誰が何をやるか決めるぞ」

原警部が右手に拳を作った。

それに続くように私たちも原警部を囲んで、拳を出した。

「おい、佐竹何してる?」

佐竹先輩だけ後ろの方でぼうっとしていた。

「あ、いや。この政治家…」

佐竹先輩は言葉を濁らせた。

「あ、ああそうだったな」

原警部は何かを察し、拳を開いた。

「今日はじゃんけんやめだ。この政治家は佐竹の親戚だ」

「え、そうなんですか」

「は、はい。ええ〜と叔父さんの嫁のお兄さんです」

「それってなんていうんだ?」

「さあ?」

私と小島警部補は首を傾げた。

「世界は狭いね」

馬場警部の言う通りだ。それはつまり自分達の家族も選別の対象であるということを改めて実感した。万が一の時に、私は取り乱すことなく自分の家族の最後を見とることはできるだろうか。その覚悟を自分は持ち合わせているだろうか。

「相変わらずお前の家族は大物ばっかだな」

小島警部補の答えに佐竹は何も言い返さなかった。

「とにかく、佐竹はこの件から外さなくちゃならねえな。おい馬場、佐竹連れて北海道行ってこい」

原警部は馬場警部補を指差した。

「いやです」

馬場警部補は屈託のない顔つきできっぱりと断った。

「自分は原警部以外とは組みません」

筋金入りの原警部崇拝者にとって原警部の側にいないことは万死に値するらしい。

「何威張ってんだよ。仕方ねえ、小島行ってこい」

完全な独りよがりであるが原警部が殉職してしまったら、殉死する覚悟を持ち合わせている馬場警部補にこれ以上何を言っても折れないことを私たちは知っている。

「ええ、また俺っすか?」

「頼む。他に頼めるやついねえんだ」

「チェッ」

飛んだとばっちりを受けた小島警部補は馬場警部補をにらんだ。しかし馬場警部補は全く悪びれる様子がない。

「井伊は俺と残り二人の回収だ。馬場はここに残って雑務だ」

「仰せのままに」

馬場警部補は頭を下げた。

「あ、今日は仕事少なめだから北海道組は終わったらそのまま帰っていいぞ。馬場は今日の仕事全部一人でこなせそうか?」

「警部がこなせと命じるならば…」

「じゃあこなせ」

原警部は馬場警部補の言葉を遮って、命令した。

「は!」

馬場警部補は再度頭を下げた。

「んじゃ、今日は以上だ。解散!」

「は!」

私たち四人は原警部に向かって敬礼し、四方八方に飛んだ。

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