検死
「相変わらず居心地が悪いな、ここは」
息苦しいわけでもないのに何故かネクタイを緩め、是が非でも新鮮な空気を欲しているような表情を見せる小島警部補。
「そうですね。さっさと終わらせちゃいましょう」
確かに体がこの澱んだ空気を摂取するのを拒んでいるように感じるが、私はそれ以上に今回もまた小島警部補とのペアである事の方が憂鬱だった。
目の前には白い布に覆われた遺体が五つ。
ここで我々人口管理班は事故や病気など我々の選別以外で死んでしまった人々の死因などを調査する。
ここでの調査一つで人選機の信ぴょう性に大きく関わるので、真剣に取り組まなければいけない。
いつもなら一日に出る死体の数は、せいぜ二、三体なのだが今日はなぜか異常に多い。
その理由は…
「玉突き事故だっけか」
「はい。車五台が絡む大きな事故だったらしくそのせいで三人死んでいます」
我々は法医学者ではないので自ら遺体には触れて原因究明をするわけではない。死因を突き止めた法医学者から説明、どのような経緯でその死因究明にいたったかを聞き、最後に遺体を確認する。
これは最後の遺体確認の工程だ。
一人目の布がめくられ、白い遺体が姿を現した。
血が通っていないその遺体はまるで陶器のように白かった。
「まるで死んでから時間がたったタコみてえだな」
独特な表現を使う小島警部補を尻目に私は遺体を凝視する。
説明してもらった通り、頭に致命傷となった大きな傷があり、身体中にも打撲痕や切り傷が無数に見られた。
体が白いせいか、黒く変色した切り傷や紫色に変色した打撲痕が、より一層痛々しく感じる。死んでから負った傷っであればこうはならない。生きているうちにこれほどの目に遭ったのだからこそ気の毒に感じる。
「続いてが全身熱傷で、死んでしまった方です」
法医学者は静かに二人目の布をめくった。
説明を受けずとも茶色く焦げた皮膚が全身にこびりついており、一目で火で死んでしまったことがわかる。
茶色く焦げた皮膚は所々剥げ、中から薄ピンクの二層目の皮膚が見えていた。
その遺体は顔までただれていて、正直遺族にもその人物が本当に自分たちの知っている者なのか判別できなかっただろう。
法医学者はその人物が数ヶ月前に歯医者に行っていたことを知り、そこでもらった被害者の歯の治療痕と遺体の歯が一致したと説明した。
その結果も手元にある。
続けて三人目、四人目と外傷が直接の死因と考えられる者たちの確認を終え、最後の遺体だ。
この遺体には目立った外傷はない。
それもそのはず死因は肺がんだそうだ。
医療が飛躍的に発展している今の世の中でもやはりがんはいまだに人々を殺す病気として恐れられている。
体はやせ細り、抗生物質の副作用のせいか髪の毛もほとんど残っていなかった。
体には本当に骨と皮膚しかないような遺体だった。
さすがに死因確認といえども、遺体から肺を取り出して我々に見せるわけにいかないので、法医学者はこの遺体のCT画像を見せてくれた。
そこには右の肺に白い何かが写っていた。しかしこんなもので人は死んでしまうのかとも思った。例えるなら肺に白カビが生えている。
その白かびは右肺の三分の一にも満たない大きさであるがどうやらこれだけでもステージが相当深刻で、これに加え骨などにも転移していたという。
早期発見が生死を分けるがんだが、高度な医療技術でもいまだに発見が遅れることがあるらしい。
平均寿命が百二十歳の今の世の中でこの遺体はまだその半分にも満たない五十八歳だった。
今回の内容は自伝の方で紹介したforensic anthropology, いわゆる解剖人類学の授業で習ったことを取り入れてみました。私自身実際の遺体をお目にかかることはできませんでしたが、写真や映像ではいくつか目せてもらい、致命傷は何か、いつ死んだかなどを調べました。ほとんどがすでに白骨化した遺体だったので今回のように生々しい感じではなかったですが、たくさんのことを学びました。すみません、舞い上がってしまって。不謹慎ですよね。




