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ピースメイカー  作者: 蒼蕣
12/57

英語

我々が一日に回収する人数は平均六人。少ない時には二人、多い時でも十人程度だ。

それに加えて毎日のように届く出生届の確認と人選機への登録、子供を産んだのに一ヶ月たっても出生届を出していない人の訪問、余命宣告を受けた人が通達を読んだかの確認、そして事故や事件で死んでしまったものの遺体確認と人選機からの消去。

どれだけ遅くても八時間で大体終わる。日によっては四時間と経たずして終わることもある。つまりほぼ確実に定時には上がれるということだ。

今日も午後四時に全ての仕事が終わった。

一足先に出て行くのは大抵原警部と小島警部補。それを見送る形で私と佐竹さんがお暇する。最後の戸締りはしっかり者の馬場警部補に任せている。

仕事が終わると社会人の多くは飲み屋に集う。今日溜まった鬱憤を晴らすためだろう。

家庭を持っている者は早めに帰宅し、家族との大切な時間を過ごす。

中には会食をする者だったり、徹夜で残業をこなす者もいるが、私たちはない。

その分、我々は週末も含めて年中無休で仕事をしなければならない。

しかし、その日の仕事さえ終われば、あとは自由に過ごしていい。

この前なんか昼前に仕事を終えた原警部は真昼間から空いている酒屋に駆け込んでいた。

このような自由時間が人よりあるがゆえ、私たちはこんな過酷な仕事を毎日こなせる。

私は週に二回、午後六時から英会話教室に通っている。

最初は警部に無理やり入れと言われしぶしぶだったが、今では趣味程度にはなっている。

というのもある時、永住権を持った外国人が選ばれたとき、全てを一から説明するのに苦労したからだ。

永住権があり、日本語が達者であったが、やはり日本の法律を母国語以外で理解するのは無理があったらしい。何より自分が今から死ぬと言われたら、そう簡単には納得できないだろう。このグローバルな時代、これからこのような事例は増える一方であろう。

その時は大使館の者を呼んで、なんとかことを収めたが、毎回大使館に駆け込むのは手間がかかるということで、班の中に英語担当のものをつけようということになり、一番若く、物覚えのいい私が選ばれた。

義務教育の一環として英語は学校で習ったが、正直今の職業には英語はあまり必要なく、高校以降全く脳内の英語の引き出しを開けることはなかった。

忘れかかった記憶を取り戻すのには苦労した。

どっかで聞いたことある。あれ、これ前習った。だけど思い出せない。といったことが何度あったことか。老いたなと感じずにはいられなかった。

ここで習っているのは日常会話で使う英単語、そして文法。

正直これらを習っても英語を流暢に話し、なおかつ自分の死を知らされて焦っている外国人を宥めて、説得できるだけのスキルが身につくとは思えない。

いったい何年かかるだろうと思いながら、地道に努力を続けている。

だがまあ、英語を話せることは今じゃ当たり前の世の中、習っといても損はない。

死を運ぶ仕事をしている身としては、気晴らしにちょうどいいと思っている。

しかし本当に大丈夫だろうか。

すでにここに通い始めて一年経つが、未だに単数形と複数形の違いを勉強している。

先生は習ったレッスンを二度三度復習する。なので進みが異常に遅いのだ。

正直その辺は高校で習った、だからさっさと次に行って欲しいと思いつつも、これは個人レッスンではない。習っていない人、学びが遅い人もいるはずだ。自分のわがままひとつで授業の進みを早めるのは申し訳ない。この授業速度が一年以上続いているのが何よりの証拠。みんなこの進み具合がいいのだろう。ならばと私は協調性を尊重し、愚痴一つ漏らさず、今日も黙々とこっそり買ってきた英語の教材で自習をする。

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