小島慎太郎警部補
「次は京都、京都です。お出口は…」
東海道新幹線のこだまに乗って京都にやって来た。
電光掲示板の文字、窓から見える風景。なんとも心躍るが別に、観光できたわけではない。れっきとした仕事だ。
今回のパートナーは小島警部補。馬場警部補と同じ階級だが、小島警部補の方が五年ほど後輩らしい。
人口管理班の中で一番の暴れ馬だ。
彼はいつも眉間にしわを寄せて、声をかけづらいオーラを常に全開にしている。取り締まる側というより取り締まれる側の顔つきである。
仕事は丁寧というには程遠く、がさつでいい加減だ。
何より人当たりが非常に悪く、誰に対しても喧嘩腰、そんな彼を宥められるのは原警部を置いて他にいないだろう。
そんな彼との仕事は非常に疲れる。
常に彼の機嫌を伺い、なるべく無駄話はしないようにする。
一度でも彼が機嫌を損ねたら、私一人では太刀打ちできない。
本当であれば彼は署に戻って事務作業をして欲しいところだが、彼の並外れた身体能力と無尽蔵の体力を活かすにはやはり彼を回収に向けた方がいい。
彼の体はいつでも熱を放っていて、正直彼の隣で座っているだけで暑苦しい。
全身くまなくついた筋肉で今にもワイシャツのボタンが弾けそうだ。
そんな彼と京都にある人物を探しに来ている。
彼は三ヶ月後に宣告された者だが、通達が開けられた形跡がなく、我々が彼の自宅に向かったところ、案の定すでにその場所は引き払われていた。
すぐに聞き込みと監視カメラを確認し、彼が近畿地方へ向かったことを突き止めた。
すぐさま近畿の人口管理班に応援を要請し、次の日彼が京都府のあるホテルの一室に潜伏していると情報が入り、我々が向かっているのだ。
「ったく、よりによって回収が多い日に逃亡ときた。本当にうちの商売上がったりだぜ」
「まあ、そう言わずに。すでに現地の人口管理班が滞在先のホテル前に張り込んでおり、昨日からまだホテルを出ていないとのことですから」
苛立っている小島警部補を全身全霊で宥める。
「だが、その後俺たちは大急ぎでそいつを連れて東京に戻って他のやつの回収ときた。人手が足りねえんだから手間かけさせんなってんだ。クソが!」
しかし努力虚しく小島警部補の怒りは今にも頂点に達しようとしていた。このままだと無差別に一般市民を攻撃してしまうそうな勢いだった。改めて自分の力量不足を実感し、あんなひょうきん者の原警部を改めて尊敬した。
私は小島警部補を連れて京都駅中央改札口を出た。
「確か、ここで。あ、いました」
私は目的の人物を発見し、手を振った。
それに気づいた相手も手を振り返した。
「ったく」
相変わらず小島さんは御機嫌斜めだ。首輪とリードが欲しくてたまらない。
「お久しぶりですな。東京からようおいでくださいました」
「赤井警部、お久しぶりです。お元気ですか」
「ええ、おかげさまで」
赤井直矩警部は近畿地方の人口管理班を束ねる警部。
いつもワインレッドと呼ぶべき濃い赤のスーツを着ている。血を目立たなくするためなのかと残虐な妄想をしたこともあったがそうではないらしい。
至って温厚な性格。もしかしたら若い頃は荒ぶれていたかもしれないが、今はその片鱗も見えない。まだ人口管理班に入りたての時に、原警部の次に色々と教えてもらった記憶がある。
「おう、小島。相変わらず不機嫌やな」
「うるせえじじい、俺たちゃ忙しんだ。さっさと案内しろ」
小島警部補の毒舌にも顔色一つ変えず、我々を案内した。
「ここから車で五分でさ。さ、どうぞ」
小島警部補は後部座席に、私が助手席に乗り込んだ。
「すみません、本当は下っ端の私が運転しなくちゃいけないのに」
「かまわん。長旅で疲れたやろ。ゆっくり休んでくれ」
「ふん、五分で休めるかってんだ」
「さ、出発や」
持ち前の心の広さで小島警部補の悪態を聞き流した。
着いたホテルは結構な高層できらびやかな、一目でわかる高級ホテルだ。
「赤井警部、そして警視庁の人口管理班の方々お待ちしておりました。人口管理班の籾井です。さ、どうぞ。まだ三田村さんは1506部屋から出た形跡はありません」
出迎えてくれたのは、四十代後半といった痩せた刑事。
この人も温和そうだ。
「よし、行くぞ」
小島警部補がさっさと車から降り、ホテルに乗り込んだ。明らかに先輩であるはずの赤井警部を差し置く太々しい態度。彼の同僚として恥ずかしい。
私たちは彼の後を追ってエレベーターに乗り込み、1506号室の前で止まった。
小島さんが勢いよく扉を叩いた。
「おい、三田村光一。お前がいることはわかってる。観念しろ。そうしねえと、刑務所にぶち込むぞ。今なら酌量の余地がある。はい、いーち」
全く容赦のない発言。相手はまだ犯罪を犯していないというのに、まるで凶悪な殺人犯の潜伏先にい乗り込むような勢いに三田村さんはすぐ根を上げた。
「ま、待ってください」
男が出てきた。
「はい、拘束。よしさっさと帰るぞ」
小島警部補は手錠の代わりにその大きな手のひらで三田村さんの両手首を掴んで引っ張った。
「ちょっ、ちょっと待ってください。僕はまだ…」
「うるせえよ。お前はもう後三ヶ月の命だ。それ以上でもそれ以下でもない。わかったらさっさと来い。俺たちは忙しいんだよ。お前一人に手間かけてられねえんだよ!」
今にも泣きそうな顔をした三田村は観念したかのようにうつむき、我々に連行された。
小島警部補は立ち止まったり振り返りもせず三田村を連れてそそくさと進んだ。
私は協力してくれた赤井警部と籾井警部補にお礼を言って、彼を追いかけた。
これが彼のやり方。無骨で強引、脅迫じみて見えるが仕事はしっかりとこなす。刑事としての品が欠けている。
こうして私たちは到着してから三十分も経たずに京都府を後にした。




