7話 姉との話
「ん? なんだか騒がしいな………」
いつもは比較的静かなはずなのだが、今日はなんだかメイドの人や執事の人が忙しそうに走り回っている。
俺は廊下に出て、若い執事を捕まえて事情を聴いた。
「何かあったんですか?」
若い執事の人はこちらに気が付き、少し興奮しているかのような声で言った。
「今朝、目を覚まされたアリス様のご病気がきれいさっぱりなおておられたのです!」
「本当ですか!?」
俺はあえて何も知らないふりをしたほうがいいだろう。
「でもなぜ? そんな簡単に治る病ではなかったんじゃないんですか?」
俺はあえて何も知らない風で聞き返す。
「それは私共も何が何だかわからないのです、今朝アリス様のお世話係の人がアリス様のお部屋に入ると、アリス様のお体にあった黒い模様ががきれいさっぱりなくなっていて、それからは旦那様に連絡などをしているのが現状です」
「なるほど………」
流石に二年も前から病にかかり、医者などには治ることはないと言われていたのに今朝起きたらきれいさっぱり治ってましたじゃ流石にこうなるか………もう少し何か根回しをしたほうがよかったか? まあ俺ができる根回しなどたかが知れているが………
などと考えていると若い執事は不思議そうに首をかしげながら言った。
「何がなるほどなのですか」
やばい、口に出てたか。
「いやなんでもないんですよ、すいません引き留めてどうぞお仕事に戻ってください」
そう言うと、若い執事は仕事に戻っていった。
これから俺はどうしようか………とりあえず姉さまに話しをしたいな、会えるか聞いてみるか。
俺は着替えてから朝ごはんを食べ、姉さまの部屋に向かった。
廊下はメイドや執事の人が忙しそうにしている。
とりあえず、その辺のメイドを捕まえて入っていいか聞いてみるか………
俺は通りかかったメイドさんに話しかけた。
「すいません、少しいいですか?」
「何でしょうか? クリストフ様」
「姉と会いたいのですが、入ってもいいですか?」
「そうですねぇ、このような状況ですので会うのは………」
俺は上目ずかいで言った。
「お願いします、こんな状況だからこそ会いたいのです、だから少しだけでもお願いします」
メイドさんは根負けしたのか
「わかりました、少しだけですよ」
そうして、姉との初対面(意識のある時で)することになった。
コンコン
ドアをノックする。
「お姉さま、クリストフです。 入ってもよろしいでしょうか?」
すると中から声が聞こえた。
「どうぞ」
その声を聴いてから俺は部屋に入った。
「失礼します」
部屋の中は昨日は言った時とあまり変わっていなかった。
「クリストフ………初めましてね、私はあなたの姉アリスよ」
そう言って姉は微笑んだ。
姉がちゃんと直っていることの安心感と自分でも何が何だかわかっていないはずなのに、俺のことを笑顔で迎えてくれたことに涙が出そうになって。
きずいたら姉のことを抱きしめていた。
姉の体は暖く、花のような香りがした。
「お姉さま………」
俺が思わず抱きしめると姉は涙声で言った。
「クリストフ、私………」
お姉様は病気が治ったという安心感と弟と会えたことを喜んでいるのだろう。
そりゃそうだ、姉はもう長くないといわれていたのだ、何がともあれ治ったことが信じられないのかもしれない。
俺たちはしばらく抱き合って泣いていた。
「ごめん、お姉さま」
「いいのよ、クリストフ」
そうだ俺は伝えないといけないことがあるんだった。 姉さまがちゃんと病気が治っていることがうれしくてついつい抱きしめてしまった。
「お姉さま、聴いて………」
俺が真剣の表情になって大切な話をするってことがなんとなくわかったのだろう、姉さまも真剣な表情になった。
「姉さま、もし誰かになぜ治ったのか? とか何か質問されてもすべてわからないって答えて、絶対だよ。 俺はまた今日の夜に来るからその時にすべてを話す、だからその時までいま言ったことを忘れないで、いい?」
姉さまは驚愕の表情を浮かべている。
「もしかしてあなたが………私のことを………」
「お姉さま、僕はもう行く。 さっき言ったことを守ってくれる?」
「わかったわ」
そう言って俺は満足げに頷いた。
「それじゃあまた夜に内緒で来るから」
そう言ってから、俺は姉の部屋を出るのだった。