1話 言葉
「勇気を出すタイミングっていうのがあるんだよ」
「どういうこと、おばあちゃん?」
「それは自分で見つけなさい、あんたもいつかわかる時が来るさ」
それがおばあちゃんと話した、最後の言葉だった。
俺には家族はいない。
幼いころに両親は二人とも交通事故で死んだ。
交通事故で両親が亡くなって引き取ってくれたのが、おばあちゃんだった。
おばあちゃんは本当にいい人だった。
両親が亡くなった俺にとても優しくしてくれて、いろいろなことを教えてくれた。
そんな優しくしてくれたおばあちゃんはもういない。
三年前の中二の夏におばあちゃんは、病院で息を引き取った。
寿命だったらしい。
それでも俺が今生きていけるのは、紛れまなくおばあちゃんのおかげだ。
おばあちゃんは俺が高校に行けるぐらいの財産を俺に残してくれていた。
それで俺は今普通に高校に行けるわけだ。
ちなみにおばあちゃんが残してくれた言葉は三年間考えて、なんとなくわかったような気がする。
家族がいない俺だが、学校近くのアパートを借り、一人暮らしをしている。
「よし行くか」
朝ごはんを食べた俺は制服を着て、いつも通り家を出た。
この時は思いもしなかった。
まさか通学中にあんなことが起きるとは………
俺はいつも通っている通学路を歩いている。
俺の周りには、出勤をしているサラリーマンや、自転車に乗った中学生にランドセルをせおった小学生などがいた。
「おはようございます!」
小学生の子供が元気よく挨拶をする
「おはよう」
俺は笑顔で挨拶を返す。
よし今日も一日頑張るか!
こんな何気ないことで、今日も一日頑張ろう! となるから不思議なもんだ。
そんないつもの穏やかな朝の日常は突然一言で終わりを告げた。
信号待ちをしている俺はスマホを見ていた。
「危ない!!」
誰かが大声を上げた。
誰かの大声に反応した俺はスマホから顔を上げた。
するとそこには赤信号にもかかわらず横断歩道を飛び出している小学生がいた。
あの子はさっき俺に挨拶をしてくれた子じゃないか!
小学生に大型のトラックが迫ってきている。
そのとき不意に頭の中におばあちゃんと話した言葉が浮かんだ。
『勇気を出すタイミングっていうのがあるんだよ』
『どういうこと、おばあちゃん?』
『それは自分で見つけなさい、あんたもいつかわかる時が来るさ』
この言葉を思い出した瞬間、俺は横断歩道の上にいる小学生のところに走っていた。
誰かが悲鳴を上げている。
「まーにーあーえー!!」
ドンッ
俺は迫りくるトラックの前で小学生を全力で押した。
「よし! 間に合っ」
キーー!!
俺はトラックにはねられた。
「大丈夫か!? 今救急車を呼ぶからな!」
誰かが俺のことを必死に叫んでいる。
俺の体はズタズタに引き裂かれていた。
俺の人生はこれで終わりか………
おばあちゃん、俺勇気の出しどころあってたよね?
最後に一人の命を助けれたんだ、短い人生だったけど悪くない人生だった。
そうして俺は息を引き取った。