死んでしまうとは情けない③
「なに、頑張ろうとしているんです」
「っ!?」
見透かされた!?
「あぁ、残念です。せっかく、諦めようとしていた顔がほんの少しだけ希望を持っている……残念です」
どうやら、そいつは僕が諦める姿が見たかったらしい。
あいにくと、そういうわけにはいかずに……
「忘れましょうか」
そういってそいつは僕の頭に手を置いた。
そして、つぶやく。
「痛みを忘れなさい。希望を忘れなさい。頑張ろうとしたことを忘れなさい」
その瞬間、僕の中で何かに穴が空いた。
真っ白な空洞が頭の中に生まれた。
(あれ、僕は何を……)
わからない。何もわからない。
ただ、ただ、何かを忘れてしまった。
いま、とても大事だったものを忘れた。
「ご、ごほっ!」
口から血を吐き出す。
鉄の味がする。気持ち悪い。
前が見えない。もう……考えるのも……。
「はぁ、さっきよりかはだいぶマシですが絶望の色が濃く出過ぎています。これが人の最後だなんていまいちのなものを見てしまいましたね」
…………あれ。
「まあいいです。十分満たされましたし、今回はこれで満足しましょう」
ぼやけた視界の中で口が動いているのかよくわからない。
声が聞こえない。でも、最後に一つ気になることがある。
目の前にいたそいつは踵を返した。
僕は思わず、目を見開いた。
(え、なんで。耳と尻尾があるんだ)
いたって普通の人だった。
顔つきが女性か男性か判断できなかった。
それよりも目を行くところが、耳と尻尾。
どうして僕は、その違和感を気づかずに倒れてしまっていたのか。
もうその理由は思い出せなかった。
『自分が死んだ原因もわからず、死んでしまうとは……情けない』