死んでしまうとは情けない
「あっ……がっ……!」
痛い。とんでもなく痛い。
口の中で鉄の味がし、その場で吐き散らかした。
血だまりの中で、僕は1人足掻き苦しむ。
「く……そっ……」
視界がゆがむ中で、一瞬だけピントが合う。
「いい、いいよ。君、すごくいい顔で苦しんでくれるねぇ」
手を叩いて、面白そうに笑っているやつがいる。
そいつは突然現れて、僕を襲った。
いつもの帰り道、自転車を走らせる。
お気に入りの音楽を口ずさみ、どんな歌詞だったかなと考えながら暗闇に負けないように精一杯明るいことを考えながら別のことが頭によぎった。
(ちょっと、遅くなりすぎたかな)
空手を習っている僕は夜の部に参加しているため、太陽が落ちてから帰ることが多い。
今日も例にもれず、9時に終わり帰る予定だった。
しかし、今日は空手友達と話が弾んで、気がつけば夜11時を示していた。
家族からのメールを見て、焦った僕は先に帰ると言い、自転車を走らせて急いだ。
(これは12時回るかも……)
家の門限は決められていないが、さすがに遅くなりすぎた。
明日も学校がある。お風呂に入ってから寝ると考えるとちょっとまずい。
(急がなきゃ)
かといって信号無視をするわけにもいかない。
運悪く長い信号に引っかかり、頭の中で流れていた曲が気分じゃなくなったから別の曲にしようと考えた。
車の通りが多いため不安は少ないけど、気分を盛り上げたかった。
その時、ふと向かい側が気になった。
信号待ちをしているところの向かい側にそいつはいた。
夏場で真っ黒のコートで身体を隠している。
暑くないのかなと一瞬思ったけど、じろじろ見るのは失礼だ。
視線を外し、そろそろ変わる信号機に目を向けた。
その時だった。
『ああ、なんて……殺し甲斐のある少年なんだ』
聞こえるはずのない声が聞こえる。
大声を出しているわけでもないのに、風がその音を拾って僕に届けた。
「……え?」
そいつは狂気に満ちた笑顔を浮かべ、一瞬の内に距離を詰めてきた。
信号無視だ。なんて言っている場合ではない。
次の瞬間には、何かがお腹を貫通し乗っていた自転車ははるか後方に音を立ててぶつかった。
乗っていたはずなのに僕だけを置き去りにして、僕はその場で膝を突いた。
(なに、これ……?)
おびただしい量の血が地面に流れていく。
じわじわと侵食していき、これが自分の血だというのに気付くのが遅れる。
車のヘッドライトや、夜間の照明が僕とそいつを照らし続けた。