ハカセ vs 助手ちゃんのお財布
おはようございます、ハカセ!
今日もいい天気ですね!
さぁ、さっそく新しい発明の研究を……。
……え?
顔色が悪いように見える? 何かあったのか?
あはは、やっぱりハカセにはわかっちゃいますか。
その……、どうもお財布をどこかに落としちゃったみたいで。
はい。
そうですね、昨日は確かにありました。
というか、そもそも、昨日の夕食代はワタシが払ったじゃないですか。
ええ、はい。
今朝、出掛けるときになって、どこにも見当たらなかったわけです。
もちろん、警察には連絡しておきましたよ。
……。
はい?
そんなときは"コレ"?
えっ、なんですか、このメカニカルな懐中時計のようなモノは?
……。
ふむふむ。
ははぁ、なるほど。『時間を操ることができる時計』ですか。
……えっ。
そ、それってタイムマシンというやつなのでは!?
「正確には少し違う」って、いやいや、大発明じゃないですか!
いつの間にこんなスゴイものを……。
……。
ああ、なるほど。
ついさっき完成したばかりで、これから試運転を行うところだった、と。
えっ。
せっかくだからワタシの財布を探しに過去に跳ぶ?
ハカセ!
そんなこと言われたら、ワタシ、感動しちゃいますよ!
……。
なるほど。
「さがしものの極意は、失くす前まで戻ること」ですか。
さすがはハカセ。一理ありますね。
……。
さて、となると、どこまで時間を戻るのか、ですね。
うーん。
では、昨日の夕方、二人でファミレスのご飯を食べている時間でどうでしょう?
ええ、ええ。
間違いなくお支払いはしたのですから、当然、まだお財布はありましたとも。
……。
はい、ハカセ、準備はできました。
いよいよ世紀の大実験ですね。
ええ、もちろん、カクゴはできています。
大丈夫ですよ。
ワタシはハカセのことを信じていますから。
さぁ、やっちゃってください!
……。
……。
……。
うん?
ここは、ファミレスの客席、ですか?
ハカセも一緒のテーブルに座っていますね。
となると、時計は……。
やった!
ハカセ、見てください! 昨日の日付ですよ!
……。
ふむふむ?
なるほど、あのマシンは、文字通り、時間そのものを巻き戻すものなのですね。
ということは、今のワタシは昨日のワタシでもある、ということでしょうか。
いやはや、とんでもない大発明ですね、ハカセ!
……あ、はい。
お財布ならバッチリ、ポケットの中に入っていました。
えへへ、ありがとうございます。さがしものはこれにてコンプリートです。
……。
おや。
なにやら辺りが騒がしくないですか?
……ハカセ?
え、なんですか、その「やっべぇ」って顔は。
怒らないで聞いてほしい?
はぁ……。
今回の発明のポイントは、"記憶を持ったまま"時間を巻き戻すところにあって、
本来ならワタシたち二人だけが明日の記憶を持ってくるはずだった、と。
……。
……本来なら?
ま、まさか!
ちょっ、「設定を忘れちゃった、テヘ」って、何言ってるんですか!
だって、それなら、世界中の人が"明日を覚えている"ってことですよね!?
……。
ハ、ハカセ!
これ! ニュースを見てください!
『全人類、突如として予知能力に目覚めたか!』ってもう大騒ぎになってますよ!
……ハカセ?
え? 「もうどうしようもないね」ですって?
そんな、笑ってる場合じゃありませんよ!
ハカセ?
ハカセーッ!