夢の魔法
夢の魔法にあふれた場所。広くて素敵な場所。
遊園地は、たくさんの人で賑わっていた。
人々は魔法にかけられて、くたびれた日々を忘れ、楽しさと嬉しさで満たされていく。
少女もまたそうだ。
白に赤と黒を散らしたような模様のワンピースを広げさせ、左に走り、右に走り。
目を輝かせ、疲れなんて感じたこともないように、ステップを踏む。
少女の行く先では鳩が飛び立ち、空を白く染めた。
パレードが始まり、楽しそうに踊るキャラクターの歌は、やがて観客を巻き込み大合唱へと変わっていく。
誰もが笑顔と幸せに包まれた世界。
夢の魔法は、やがて覚めてしまうだろう。
だけど、せめて今は、魔法にかけられたままで⋯⋯。
少女は汚れなき目をして笑う。赤い靴を踊らせて。
「さあ、行こうよ!」
⋯⋯
赤い空に、どろりとした黒が溶けていく。
枯れた花々、朽ちた木々、崩れた建物、割れたガラス、ヒビとサビ。
そして、死体。
消えた夢は、影すらも見えない。
少女が一人、立っていた。
たくさんの死体と骨の中で。
人々はくたびれた日々も、楽しさも嬉しさも、深い悲しみも、絶望さえも感じることはなくなり、灰となり空へと溶けていく。
しかし、彼らは一つだけ忘れない。
⋯⋯最期に感じた、恐怖を。
そんな中で、少女だけは違った。
薄汚れた白いワンピースが、血の赤と、腐った黒で染められても、ただ、楽しそうに笑っていた。
少女は骨ともの手を引き、左へ、右へ
割れたガラスで足をまたひとつ傷付けるのもお構いなしに、恐怖なんて感じたこともないような曇りのない目でステップを踏む。
少女の足元から灰が舞い、世界を灰色に染めた。
風が骨の間を通り抜ける音に合わせ、少女が歌う。
骨の大合唱とともに、汚れなき目をして笑う。
血にまみれた足を踊らせて。
何もかもが壊れた世界。そのピースは二度と戻らないだろう。
だけど、魔法は覚めない。
少女の永遠は、夢のままで。
狂ったのは世界か、少女か。あるいはどちらもなのか。
それを考えられる人も、もういない。
しかし、今は少女だけでも夢のままで。
少女の魔法は、永遠に⋯⋯。