二時間目を待ちながら(2)
ある日。二時間目を待ちながら。
暖かいある日、心春はメモ帳をおもむろにペラペラとめくっていました。夏海がやってきます。
「何?ペラペラ漫画?」
心春は首を振りました。
「違うよ、夏っちゃん。仮に漫画が描いてあったら嬉しいけど、見てのとおり何も描いてないよ」
夏海はメモ帳を見ますが、
「『見てのとおり』と言われても、この角度からは何も見えへん」
心春は片手でメモ帳を持って、かなり適当に左右に振りました。
「ほらほら、ね?」
夏海は少しイラッとして言いました。
「馬鹿にしてんのか! やっぱり見えへんし!」
心春は真面目に言いました。
「でも、風が来るでしょ?」
「風?」
心春の真面目さに熱が入ります。
「そうなの。私は今、このメモ帳でどうやって涼しい風を起こそうか、考えてたの」
「え?」
「どうやって涼しい風を……」
心春の二度目の説明の途中で、夏海は早口で言いました。
「聞こえてたよ」
うんざりした顔の夏海は、苦い物を呑み込むような口調で言いました。
「下……」
とつぶやき、心春は興味深そうにオウム返しで尋ねました。
「下?」
夏海は更に気だるそうに早口で言いました。
「下敷きの方がええんとちゃう?」
心春は真顔で夏海の顔をじっと見ました。それから視線をメモ帳に移し、手をグッと握りしめると、思いつめたような眼差しで言いました。
「妥協はしたくないの……」
死んだような眼で夏海はいいました。
「何を基準にしてるの?」
二時間目開始のチャイムが鳴りました。