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二人でなんか作って食べる話。  作者: あかね


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エチオピア モカ イルガチェフ 手摘み ウォッシュド 天日乾燥 中煎り 中挽き

『エチオピア モカ イルガチェフ 手摘み ウォッシュド 天日乾燥 中煎り 中挽き』


 無言でこの呪文を見ている。

 ぽつんとテーブルに残されていたメモ書き。

 家主様たる従姉のA子姉さんの忘れ物と推測される。


「仕事のなんかかな」


 とはいえ、A子姉さんが家に仕事を持ち込むことはない。どんなに忙しくても家では仕事をしなかった。

 代わりに終電だったり帰宅しなくなるけど。


 今は徐々に忙しくなってきているらしいけど。


 今日はバイトもなく、放課後も学校で練習できない期間なので早く帰ってきた。試験期間と言うヤツだ。

 二期制なので微妙な位置に試験日がある。


 一週間ばかり製菓とは離れた生活をする予定だ。


 製菓学校といっても実技だけではない。

 今は製菓実習と衛生法規、公衆衛生、食品衛生や栄養学なんてのをみっちりやってる。

 お菓子作ってりゃ良いってもんでもないらしい。

 WHOの健康の定義とか今さら習うとは思わなかった。A子姉さんが昔習ったのと違うと衝撃を受けていたけど、どこが違ったんだろう?


 エチオピアが地名なのもモカが珈琲の名前なのもわかるけど、その後がどういう意味なのか。


 首をひねりながらも真面目に勉強を始める。来年とは言え、国家資格の勉強は一日にしてならず。



「……暗くなったら電気つけなさいね?」


 思ったよりも時間が経ったらしい。急に部屋が明るくなってびっくりした。


「おかえりなさい」


「ただいま」


「これってなに?」


 気になったメモを見せれば、ここにあったのかという顔をした。


「珈琲の豆の……。うーん、名前?」


 どう言おうか悩んだ結果が微妙な答え。よくわからないという顔の私を見て、うーんと唸りながら、部屋着に着替えにいった。

 気楽な格好になって戻ってきてもまだ悩んでいた。


「紅茶の産地と農園名と取った季節、みたいな表記?」


「ファーストフラッシュとか言うの?」


「そーそー」


 言いながら、冷蔵庫の中身を確認している。

 あ、早かったんだから夕食なにか作っておけば良かった。


「ごめん、なんか用意すれば良かった」


「いいよ。特売のチキンが売ってたから今日は渾身のチキンソテー」


「からのオムレツ?」


「いえす」


 もも肉が二枚も入っているパックに割り引きと張ってある。

 手伝おうとすれば、勉強してなさいと断られた。

 ありがたいことです。


 A子姉さんは手慣れた様子で、サラダの用意を始めた。


「姪っ子がさー」


 独り言のように、言い出した。


「英語習ってるんだけど、この間、動物園でにわとりみてさ」


 ……そのあとの話の予想がつきそうな……。


「チキンがいるーっ! て、言い出したんだって」


 ……。

 うん。

 いたたまれない。


 チキンをフォークで串刺しにしながらはシュールを越えて、狂気的なのでやめてください。


 何事もなかったように、鉄のフライパンでもも肉を焼き始める。

 前に肉は脂身をきっちり焼けと教えられたと遠い目をしながら語っていた。弱火でじっくりと、焦げ目がつくまで放置。


 焼いている間にトマト缶からソースを作っちゃうし、付け合わせにパスタゆで始める。


「あと15分くらいだから片付けてね」


 鶏肉の焼き具合を見ながら、そう促される。両面を焼いたあとはしばらくバットにうつしてアルミホイルをかけ寝かせる。

 そうしている間に出てきた肉汁は明日の夜のオムレツに入れられる。激うまである。むしろこのために肉を焼くのだと言いたいくらい。


 熱いものは熱いうちに食べるのがポリシーのA子姉さんは、食事に遅れるのがいらっとするらしい。

 さっさと道具を片付けて、ナイフ&フォークを用意する。ドレッシングは三本。コブ、和風、マヨと取りそろえております。シーザーと中華が今品切れ。特売の日が待たれている。


 大きな皿にサラダとパスタとチキンがのっている。スーパーでも売ってるちょっと良いフランスパンを添えて。


 スープ類がつかないときは各自飲み物を準備するルールだ。


「いただきます」


 おいしい。


「そういえば、あのメモって大事だったの?」


「写真撮ったから問題ない」


 メモの存在意義を問う。

 それならスマホに直接入力すればよいのでは?


「二重保存的な?」


「呪文かと思った」


「エチオピアが産地、モカ、イルガチェフが品名、手摘みして、水洗いして、天日干しした豆だよってこと。

 あとは焙煎度と豆の挽き方」


 世の中には機械で摘んで、水洗いしないで、天日で干さないものもあるってことね。わざわざ書くって事は。


「深入りより浅い方が良いけど、浅すぎるのも嫌だからまあ、中煎り」


 大体の飲み物をインスタントでいれる私には理解出来ない世界である。

 休日のブランチにたまにとんがった味の珈琲がくるけど、それだったのだろうか。ものすごく苦いとか酸っぱいとか。


 科学か何かの実験のように精密に計っているので、ビーカー珈琲を幻視するときがある。


「今日の焙煎だから週末に飲むから味見してみて」


「新しい方が良いのでは?」


「焙煎したてはガスが出るから翌日以降をおすすめいたします、なんだってよ」


 そんな焙煎している本格的なところで買っているのも驚きなんですが。


「まあ、楽しみにしてます」


 とりあえず、目先の楽しみは明日のオムレツ。



 週末に飲んだ呪文珈琲は珈琲の概念を揺るがす代物だったと追記しておきます。

 なんじゃあれは。


驚異の実話。チキン事件。

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