餃子はがんばりが報われない気がする
「餃子はがんばりが報われない気がする」
家主たるA子姉さんがぼやいた。
「始めたのは姉さんだけど」
私は、同居というより居候なので、家主の意向には逆らいません。製菓学校に通う都合上、従姉のお家にご厄介になっているので。
「そうなんだけど」
ただひたすらに黙々と私たちは餃子を包んでいた。
いざと言うときの冷凍庫の友よっ! ってことで時々大量生産している。生姜は入れるけど、ニンニク、ニラは入れない。
今の世の中、フードプロセッサという便利な道具があるので作る労力より包む労力が上回る。
「うーん、フードプロセッサ。最強武器。うっ!頭がっ!」
……とかA子姉さんが言っていたけど、なんだろうね。地味にジェネレーションギャップがあるんだよね。
私が家に帰ってからこの餃子つつみパーティが始まった。
包む→実食→残りの餃子を包む。
こんな感じ。
さすがに台所ではなく、ダイニングテーブルで作業している。終わる気がしない。
「二人で百個とはやり過ぎではないでしょうかね?」
「十個食べた」
呆れたような言葉ににへらと笑ってごまかした。A子姉さんは5個だった。
某料理研究家のレシピからニンニクとニラを抜いて生姜を大量投入した特製餃子がおいしかったんだもの。
一緒に出てきたシュウマイは既に包んで冷凍庫に入ってるらしい。
今日は何時に帰ってきたんだろう?
地獄のような繁忙期が過ぎ、ぽっかりと暇になるスポットに入ったらしい。有給で休むほどでもないけど、半休くらいは余裕で取れるし、なんなら早く帰っても良いくらいなんだとか。
会社の人と飲んできたこともあったりしたっけ。
これもあと半月ほどで、徐々に通常になり、繁忙期がやってくると。
「焼き餃子、蒸し餃子、揚げ餃子~」
……お姉さんが変な歌を歌い出しましたよ?
「忘れちゃいけない水餃子! 餃子ってご飯としてそれだけで食べるんだってよ」
「知ってる。同級生が言ってた。へんなのーって」
「日本人は、お好み焼きとご飯を、ラーメンとチャーハンを、うどんとおにぎりを食べる民族なので」
炭水化物大好きだよねぇ。
本日の夕食は、焼き餃子、シュウマイ、ご飯、ミニラーメン、棒々鶏サラダでした。どこの中華飯店のランチかと思うのです。
A子姉さんの普通のご飯ってたぶん、普通じゃないよね? お休みの日とかブランチとか言ってオムレツにパンケーキにベーコン焼いたの出てきたりするの。
手抜きはカップ麺がでてくるので中間をとれば良いと思う。
「……なんかすごーく、ご機嫌じゃないですか。
「週末ちょっとお出かけするの」
「さいですか」
ちょっと最近変だなと思ってたら、誰かのお誘いですか、そうですか。
さらに飲み会というかご飯食べに行ったりするかもしれないから、餃子もシューマイも仕込んだと。そう言えば、鶏肉に味付けて冷凍したり、ハンバーグも仕込んでたな。
「そう言えば、お出かけする服とかあるんですか?」
「は、はい?」
「え、仕事と部屋着とジムに行く用くらいしか見たことないですけど?」
「おぅふ」
「相手、男の人、ですよね?」
撃沈しているA子姉さん。コレは考えてなかったかなぁ?
「いや、まあ、そうなんだけど。後輩だしな。趣味のあれこれに付き合ってもらうだけだし」
もにょもにょ言ってる。
異性判定されていないか、ものすごく乗り気かどっちなんだろう?
そう言うときも楽しいものだよ。うん。生ぬるい視線を向ければゆらゆら揺れていた。……なにしてるんだろうか、この人。
「なんか可愛くしてったら、変じゃない?」
上目遣いで言うのがあざとい。A子姉さんに限って狙ってではないとわかっているけど、それでもあざといっ!
男の人相手にそれしちゃダメだから、持ち帰られるからと力説したらどん引きされてしまった。
当人は全く意識していないけど。
好意に鈍いのではなく、異性として認識されるわけがないという謎の思い込みのせいだ。
生ぬるい目で姉さんを見る。
「お買い物にお付き合いくらいしますよ。セール中です」
「あ、うん」
「雑誌もありますし、オハナシしましょうね?」
あーとかうーとか言っていたけど無視だ無視。
お家に貢いでるのと住宅ローンに対して言っているくらいだ。その気になった時くらいちゃんとさせよう。
親戚の集まりでまだ結婚してないのか、とか突っ込まれて地味にへこんでいることを知っている。
本人が独身主義ってんじゃないなら、後押しくらい。
……と思ったのが、間違いだった。
巻き添えを食らった。
週末。
終末くらいの気持ちだ。
お出かけから帰ってきてからのお疲れ感。
「あー、お家、最高」
なぜだかA子姉さんのおデートにお付き合いしてきました。巻き込まれたとも言う。なぜ断りづらい某道具街に行くのですか?
そして、なぜ、私たちは新しい道具を抱えているのでしょうか?
解答。
物欲。
A子姉さんも物理的に人殺せそうな鍋を絶望的な顔で持ち帰っていた。配送しようよ。そうでなければ男手を連れ込もうよ。
そう言いたくなる重さだ。
相手方は呆れたような顔でお付き合いしてくれましたがね。
次はないんじゃないかね?
そう、相手が二人いた。謎の男を紹介されても困るんだけど。ああ、こりゃもてる男だわぁってのをさ。
日々のおやつをべた褒めされていたたまれなかった。その流れで連絡先を交換してしまったのは痛恨のミスだ。
その横ではA子姉さんが後輩らしきデートの相手に道具の良さを力説しているし。
A子姉さんの趣味というのは料理である。
間違ってはいけない、趣味が、料理だ。
手の込んだ料理を時間と労力をかけて作るのが趣味だ。時短だの、手抜きだの言わないガチのヤツ。
日がな一日、キッチンにこもれるタイプというか。
普通の家庭料理が苦手なんだ。
おばさんの家のご飯は普通だし、チャレンジメニューは出てこない。
荷物を邪魔にならないところに置いたところで、ダウン。
息も絶え絶えで夕ご飯とか作りたくなかった。
こんな時こそ冷凍庫が役に立つ。
「とりあえず、餃子焼いて、ごはんにしよう」
異存はなかった。
今日ばかりはジムは勘弁して欲しい。
その夜、次の誘いが来て二人して悲鳴をあげる前の穏やかな時間だった。
購入物
パティ子
クッキー型を気の赴くまま10個。ただし、セットものは1個と数える。
マフィン型二枚。(鉄板型9個取り)
新しいホイッパー。
耐熱容器のボウル(大中小)
ケーキ保存のドーム。
フィナンシェの型20個。(個別型)
パン型(1斤用)
かさばるわりにそれほど重くはない。あくまで、それほど、ではある。
A子姉さん
某フランス産の鍋18cm
バット一式(同サイズ3枚+網+フタ)
圧倒的に重い鍋とそれなりに重さのあるモノをなぜ一緒に買ったのだ。