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第14話:逃亡からの出会い

その後、田中たち自衛隊員と劉が率いる中国人との戦いは1時間弱続いた。

田中たち自衛隊員たちは、日本を守るという面子にかけても負けるわけにはいかないと、次から次へと応援を呼んだ。

劉たち中国人たちは、個人としては自衛隊員を圧倒していた。

自衛隊員が束になっても余裕という表情だったが、いくら倒しても減らない自衛隊員に辟易していた。

橋にいた自衛隊は、てっきり一個小隊ぐらいと思っていたが、実はきちんと武装をした200人を越えた一個中隊であった。

劉と曹も参戦をして中国人側が有利に進めていたが、ある程度したら倒すのが難しくなってきていた。

自衛隊側にも、超能力に目覚めたものがいたからだ。

咎人による目覚めではなく、自分を磨き階位を上げた立派な隊員が何人かいたのだ。

ただ、そのものたちも中国人の方士との戦いがあるまで、自分の超能力には気づかなかった。

戦いがあったから自分たちの超能力に目覚めることができたのだった。

劉たちは、このままじゃジリ貧だと感じ、逃げることにした。

迫る自衛隊員たちを撃退しつつ、車に戻るも中には正太郎がいなかった。

ごたごたの間に大事な獲物に逃げられたのだと気づき、自衛隊には復讐を誓い、正太郎には絶対捕まえるとの思いを抱きながら何処へともなく車で逃げ出すのであった。







正太郎は、荒川沿いを人目を避けるように歩いていた。

怪我をした足が歩くたびに痛む。

血は止まってはいたが、体中から痛みが絶え間なく襲ってきていた。

ただ、誰かに助けを求めようとは考えてはいなかった。

人に会わないように祈りながら、荒川沿いを上流へとひたすら歩いていた。

「す、少し休もう。休まないとだめだな、もう歩けない。」

太陽がぎらぎらと地表を照らし、汗が止まらなかったが、根性で何とか歩いてきた。

昨夜からひたすら歩いていた正太郎は、途中に公園を見つけたのでそこで少し休むことにした。

公園は周囲を木で囲まれていた。

今では、木が2~5倍くらいに成長し、草や花も人の腰や胸に届くまで成長していたので隠れて休むには絶好の場所であった。

公園時計を見ると、9時30分を指している。

時間の感覚はなかったが、少なくとも9時間は歩いていたようだ。


「誰かに会うのも怖いけど、ほんと誰もいないな?

ホームレスの人たちすら見ないな?

みんな避難所とかいったのかな?

しかし、おなか減った。」


ずっと歩いてきたが、人を一度も見なかったことを不思議に思う正太郎だった。

ホームレスの人たちが住まうような住居のようなものやテントなどはたびたび見たが、そこには誰もいなかった。

ただ人に会うのが少し怖いので、そんなには気にしていなかった。

公園にあった水飲み場でのどの渇きを癒すと急に腹が減ってきた。

昨日の夜に、栄養食品のゼリーを飲まされてから何にも食べていなかった。

劉たちも、正太郎を殺さないように気を使い、ゼリーとサプリではあったがきちんと食事を食べさせていた。


「ちょっと休んだら、一度家に帰ろう。

そのあと、大宮駐屯地でも行ってみるかな?」


少し休んでから、一度家に帰ろうと考えていた。

劉が自衛隊とどうなったかは知らないが、家で見張っている可能性もあった。

しかし、何とかしてスマホは確保しておきたかった。

いま、絶対に味方と考えられるのは、叔父夫婦と風香だけであった。

ただでさえ遠く北海道にいる3人と連絡が取れるスマホだけは、手元においておきたかった。

これからのことを考えていると、いつの間にか眠ってしまった。







「ふ~~~む、どうも、こやつのようじゃな。」


「…御意です。」


「しっかし、ずいぶんぼろぼろじゃな?」


「………です。」


はっ!しゅばっ!ズザー!

眠りについていた正太郎の耳に、話し声が聞こえてきた。

目を明けると同時に逃げようとするが、足の痛みですぐに転んでしまった。


「これこれ、別にとって食いやしないぞ。

落ち着くんじゃ。」


「………………」


正太郎の前には、中年の男と女の子の2人組がいた。

男は、30代から40代の中年に見えた。

右手には2mぐらいの木の杖を持ち、時代劇で見たことがある僧兵のような姿をしていた。

ただ、何故か頭に白い頭巾のようなものではなく、ベースボールキャップを被っていた。

髪は伸びっぱなしなのか、後ろで軽く紐で縛っている。

口ひげとあごひげが立派に生えており、まるでくまのようだった。

身長は、正太郎よりちょっと高いぐらい、筋肉質な肉体を法衣で隠している。

それもあいまって、男らしさがあふれ一見ワイルドに見える容姿をしていた。

女の子は10歳ぐらいのようだ。

女の子用のジーンズに、なんの飾りつけもない白シャツを着ている。

白シャツは、ところどころ汚れていてところによっては血痕が着いていた。

長いぼさぼさの髪は、ポニーテールの形で止められている。

パッチリした瞳に、すっきり通った鼻筋、柔らかそうなおちょぼ口。

とてもかわいい容姿であるのに、右頬に残る古い切り傷のあとが痛々しい。

男はあごに手を当てながら正太郎をほうほうと呟きながら観察をしていた、その間女の子は男の背後でじっと無表情で立っていた。


「ふーむ。そんなに知恵があるようには見えんのう。

文化的な才もあるようには見えんし、肉体は少しは鍛えているようじゃがまだまだじゃのう。」


「…同意です。」


「これはどうするかのう。

こやつが一番のようであるしのう。」


「…同意です。」


「あんたら、誰だ?俺を捕まえにきたのか?」


目の前で勝手なことを言っている2人組は、正太郎を捕まえに来たわけではないようではあるが、実際にはわからないので聞いてみることにした。


「うむ。別におぬしを捕らえに来たわけでもないわい。

ただ、わしの探し物がおぬしかもしれない、それだけじゃ。

なんじゃ、追われているのか?」


「…近くに気配はありません。」


「そうか、今は安全じゃ、心配することはない。

おぬしの名は?」


「名前を教えて欲しいなら、自分から言えよ。

あやしいやつに話すことなんてない。」


「…無礼なやつだ。」


女の子が無表情で怒りの声を出しながらポケットから何かを出そうとした。

男はその動きを片手で制しながら、大声で笑う。


「はっはっはっ。そうじゃな。

自分から名乗りを上げねば、礼を失するか、そうかもしれないのう。

では、わしから名乗ろうかのう。

わしの名は、北条長綱じゃ。」


「…風見風子。」


「………おれは、南條正太郎だ。

おまえたちだれだ?どっかであったことあるか?」


「いや、初見じゃよ。

わしの術でおぬしを見つけてのう。

会いに来たのじゃよ。

詳しく話すとしようかのう…」




北条長綱という男は、正太郎にとって先祖に当たる人物のようだ。

それなりに有名で歴史に名を残しているということだが、織田信長や豊臣秀吉ぐらいしか知らないので誰だか全くわからなかった。

『始まりの日』で全盛期の肉体を持って復活した一人ということだそうだが、咎人である正太郎には理解できていない。

生前から階位が高かったので、ある術が使えるそうだ。

簡単に言えば、うせもの探しのようで探し物を思い浮かべると方角と距離がなんとなくわかるというものだそうだ。

まず、風見風子と名乗る女の子に会いに行き、その後わざわざ自分に会いに来たそうだ。

正太郎には男が言っている事があいかわらずよくわからなかったが、自分に用があるということだけはわかった。


「とりあえず、俺に用があるというのはわかった。

それで、用っていうのは何だ?」


「おぬし、本当に理解しているのかのう?

ようはおぬしを見定めに来たのじゃよ。

おぬしが、現世でもっとも北条の血が濃いようなのでのう。

一人前の武士にはまだまだのようじゃし、わしが鍛えてやることにするか。」


「鍛えるって、いきなりなんだよ。

なんでそんなこと?」


「これからの日の本は、末法であって無戒の時代になるじゃろう。

こればかりは致し方なし。

ならば、民衆を導くものを必要とし、世を安寧に保たなくてはならん。

森羅万象の主がごとき存在に命じられたなら、無戒になろうともこれぞ信ずべきやということよ。」


「ぜんぜん意味わからん。」


「さて、わしもえらそうなこと言ってるが、よくわかっておらん。

とにかく、わしがおぬしに修行をつけるという事だけわかっておればいい。

身体の痛みもそろそろ消えたじゃろ。

そろそろ行くぞ。」


男の言うとおり、正太郎の身体の痛みは何故か消えていた。

傷跡は残っているし、爪もはがされたままのようだが、痛くはない。

じくじくした痛みが消えたことに驚き、目が点になっていた。


「は、はぁ、行くってどこに?」


「とりあえず、山じゃ。

できれば箱根の山がよかったが、ここからは遠いのでほかの山を探す。」


「いや、俺はスマホを取りに帰って、自衛隊に保護してもらおうかと思ってるんだけど。

あと、もしもよければいま何が起きてるか、教えてもらってもいいですか?」


「ふむ。仕方ない。

修行の前に、心残りはなくしておかぬとのう。

道すがらおぬしの話も聞いてやろう。」


別に修行などに付き合う気はなかったが、よくわからない力で痛みを消してくれたことに感謝していた。

やさしくしてもらえたうえに、監禁などをしてくるような危ない人ではなさそうだったので、いま何が起きているのかを聞いてみることにした。

この人なら教えてくれるかもしれないと思ったからだ。


「おぬしの屋敷は何処じゃ?」


「や、屋敷ではありませんが、ここから30分ぐらいのところです。」


「わかった。おぬしの前を歩き、露払いをしてやろう。

わしの後ろから道を教えい。」


「よ、よろしくおねがいします。あ、向こうの方角です。」


正太郎が指差した方角に、男が歩き出す。

ふと女の子のことを思い出し、視線を向けるも誰もいない。

女の子はいつの間にか消えていた。


「あれ、女の子は?」


「はよせい。刻は有限なのじゃ。急ぐぞ。」


「は、はい。」


正太郎は小走りに男の後ろにつき歩き始めた。

5mはある木の上から、2人を見ている女の子の視線に気づくことはなかった。


「…です。」





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