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第13話:橋の手前

評価や感想お待ちしております。

正太郎を乗せたハイエースが、埼玉と東京の県境である荒川の橋の手前まで来たときだった。


近寄ってくる虫は多数いたが、もうすぐ日付の変わるこの時間に動いている車は皆無だった。


はじめは国道をかっ飛ばそうかと思っていた劉だったが、警察無線を聞いていると国道には自衛隊が虫を退治するために出動しているという情報が入ってきた。


警察や自衛隊と鉢合わせして、身分照会などをされるのは危険であり、正太郎のことを知られて保護されるのだけはさけたかった。


だから当初の予定を覆し、裏道をライトをつけずにゆっくりと進んでいた。


「劉さまー、どうします?通れる橋はあそこだけのはずですけど通行止めみたいですよー。」


「みたいだネー。どうしようかネー?」


少しはなれたところに見える橋では、自衛隊の部隊が虫を退治している光景が見えていた。


ほかにも荒川にかかる橋はいっぱいあるのだが、今見えている橋以外の近くの橋はあらかた壊れている。


ニュースでやっていたが、川を遡ってきた漁船が激突して橋が崩れるということがあったそうだ。


そのため、見えている橋を使えないとなると、とんでもない遠回りをしなくてはならなかった。


少し悩んだ末、ごまかして通れるか試してみることにした。


万が一、何かあっても今の自分たちなら逃げることはできるだろうと確信していた。







「すいません。こちらの橋は、現在通ることができません。

ただいま、日本全域で異常事態が起こっており、外出禁止令も出ております。

皆様は、速やかにご自宅に帰りますようお願いいたします。」


「あいヤー、それは困りましたネー。

僕たち、何とかここまで逃げてきたんですヨー。

池袋の親戚のところまで行きたいんですヨー。」


「はぁ、お気持ちはわかりますが、今現在政府の決定で外出は控えるようにとお達しが出ています。

従ってもらえますでしょうか?」


「うーーーん。」


橋の警備をしていた田中(一等陸士)は、ゆっくり近寄ってくる車に気がついた。


今は外出禁止令が出ているうえに、もうすぐ日付も変わる時間だ。


街灯には明かりをさえぎるように大きい虫がびっしりついていて、見ているだけで気持ち悪くなる。


こんなときに近寄ってくる車は何だと、話しかけることにした。


橋の上では、橋脚に引っかかっている船をどけると同時に襲ってくる虫の対処で自衛隊が徹夜で働いていた。


仲間に無線で近寄る車のことを伝え、職務質問をすることにした。


「申し訳ありませんが、免許証と車の中を見せてもらってもよろしいでしょうか?」


「ぜんぜんいいですヨー。」


田中に免許証を渡し、ハイエースのドアを中から開けてきた。


免許証を確認しながら、車の中を確認する。


(ふむ、名前は、劉可全。中国人かな。

うお、結構車に人が乗ってるな?

ひーふーみーよー…。ハイエースワゴンだし、10人でぴったし大丈夫だな。

小声で話してる会話は中国語かな?)


中をざっと見た後、助手席を見るとそこには妖艶な女性が乗っていた。


編みこまれた長い後ろ髪をもち、サングラスで瞳は見えないが、無表情のようだがシャープな顔の輪郭といい美人というのを確信させていた。。


スタイル抜群のボディを、白いタンクトップとアーミーパンツという男性的な服で隠すことによって、ちぐはぐなエロスを感じる。


白いタンクトップを持ち上げる大きい双丘の先には、なんだかわからないが(笑)小さいぽっちが見えている。


田中は、頬を赤くしながら問いかける。


「助手席に乗ってらっしゃるのは奥様ですか?

それから、後ろに乗ってらっしゃるのは中国人の方たちのようですが、どのようなご関係で?」


「うん?あぁ、えぇ僕たち夫婦なんですよ。(笑)

後ろには、娘も乗っています。

ほかの男性たちは、僕の親戚で本国から遊びに来てたんですヨー。」


「そうですか。」


「そうなんですヨー。

そしたらこんなことになっちゃったでしょ。

うちじゃ、全員で待機していることできないし、言葉の問題もあるので池袋にいる仲間を頼ろうと思ってるんですヨー。」


「事情はわかりました。

ですが、今は危険ですし、ここを通すことはできません。

無事にここまでこれたということは、家はこの近くですよね。

引き返して、自宅で待機をお願いします。」


「そこをなんとかーお願いしますヨー。」


劉は何とかして通してもらおうとごねる。


心の中では、曹がいつの間にか女体化しているうえに田中が見惚れていたことに爆笑していた。




ガンガン!うぅーうぅー!


「ちっ。」


何かを叩いている音と声にならない声が、車の中から聞こえてきた。


田中は瞬時に気持ちを切り替えて、さりげなく胸ポケットにある注意喚起ボタンを押した。


このボタンを押すと近くの隊員に応援を頼むと同時に、何か事件が起きるかもしれないという注意喚起をするボタンであった。


10人ほどの隊員が、車に走りながら近寄ってきた。


「すいません。

車内から変な音と声が聞こえましたので、確認させてもらっていいでしょうか?

車内の方たちには、一度外に出てもらいます。

それから、エンジンも切ってください。

ご協力お願いします。」


お願いといいながらも拒否は許さないといった、強い眼差しで劉を見る。


「はいはいー。わかりましたヨー。お好きにどうぞー。」


車の中にいた全員が外に出る。


車内には誰もいないはずなのに、音と声が続いている。


近寄ってきた他の隊員に外を任せ、中に入った隊員は後部の椅子の下から音が出ていることに気づいた。


椅子を動かすと、そこには縛られたままの正太郎がいた。


正太郎は、少し前には気がついていた。


車が止まり、田中との会話が聞こえたのでチャンスをうかがっていたのだ。


そしてチャンスに勝った。


田中は音に気づき、正太郎を見つけてくれたのだ。


「これは…。大丈夫かい、君。

傷だらけじゃないか?

あの人たちに、何かされたのかい?」


傷だらけの正太郎を見て、これはもしや誘拐事件かと考えながらも手と足を縛っていた紐をナイフで切り正太郎を自由にした。


手足が自由になった正太郎は、声を出せないようにと口元に巻かれたタオルを外しながら事情を説明しようとした。


「そ、それが、あの人たちが自分を監禁してい…」


ドン!ドン!ドドン!ドン!


車外から銃声のような音が、何回も聞こえた。


「なんだ?どうした。」


田中がすぐさま外に出ると、仲間の自衛隊員と劉たち中国人が戦っていた。


スーツの女性は、足に氷のようなものをまといながら蹴りを仕掛けてくる。


ブレザーを着た女子高生は、自衛隊員が捕まえようとしてくるのを3mを超えるジャンプをしながら避ける。


コック服を着た男性は、年寄りとは思えない機敏な動きで中華包丁を振り回している。


ほかの男性たちもそれぞれに自衛隊員を翻弄していた。


劉と曹は少し離れたところで一服しながら、双方の戦いをおもしろそうに見ていた。


「なんだこれは!中国雑技団か?」


「…あのひとたち、昨日まで普通の人たちだったはずなんですよ。

よくわかりませんでしたけど、俺を傷つけて方士になったとか何とかって言ってて?

おかしい人たちですよ。

俺に、もっと怒れって、もっと恨めって、もう怒りも恨みも頂点ですよ。

あいつら早く逮捕してもらえませんか?」


正直逮捕するより殺して欲しいぐらいであったが、正義であるはずの自衛隊員にそんなこと言えるはずもなかった。


しかし、田中は正太郎の言葉を聞くと、正太郎の顔を凝視した。


「まさか、君は咎人になっちゃったのか?」


「???何ですか?」


正太郎が咎人のことを理解していないことで、田中には事の次第を理解した。


すぐさま、耳のイヤホンについている緊急コールを鳴らした。


田中の考えが正しいなら、まさに緊急事態だった。


(この子は、咎人で間違いないだろう。

あの中国人たちは、この子に気づいて超能力を授かったんだな。

それで傷だらけだったんだな、かわいそうに。

自衛隊で保護したいところだが…。

ただ、この中国人たちが問題だ。

銃で撃っているというのに無傷とはどういうことだ。

超能力ってそんなすごいのか?

このまま、この子を取り返され逃げられるとやばいな。)


「これから重要なことを話すけど、きちんと聞いててね。

まず、君の名前は?」


「はぁ、南條正太郎です。高1で住所は…」


「いや、名前だけでいいよ。時間がないから手短に話すね。

僕の名前は、田中直角。直角と書いて”じかく”って読むんだ。

ちょっとキラキラだよね。って、脱線してごめん。

できれば、君を自衛隊で保護したいところだけど、今はそれができるかどうかわからない。」


「えっ、助けてもらえないんですか?」


「日本の中だけみたいではあるけれど、大変な事態になっているんだ。

で、君はいろいろな人から狙われている。

警察か自衛隊で保護したいところだけど、あの中国人たちから守れるかどうかわからない。」


「確かに、なんかすごいことしてますね?

強そうですね。」


「(目覚めさせてしまったのは君なんだけど。)

そういうわけで、今すぐここから逃げるんだ。

裸足ではつらいだろうから、僕のこのブーツをあげる。

それからこのナイフも渡しておく。

護身用だよ、犯罪には使わないでね。

僕がいまから飛び出すから、同時に反対側のドアから逃げ出すんだ。

いいね、わかった?」


次から次に起こる事態に翻弄されてよくわかっていなかったが、真剣な目で話す田中にわかりましたと返すしかなかった。


「よし、じゃあこれでお別れだ。

ここから一番近いのは、自衛隊の大宮駐屯地だけどそこに行けば保護はしてもらえると思う。

なんとか逃げてね。」


「は、はい。ありがとうございます。」


「ここからは静かにね。

じゃ、また会おうね。」


田中は、銃を片手に車から飛び出し仲間の援護に向かう。


外では自衛隊員たちが次から次へと橋から向かってくるが、中国人たちは方術を駆使し圧倒的人数差でも負けていなかった。


混戦になり乱戦になっていたので、正太郎が車の陰から走りながら逃げ出すのを見ていたものは誰もいなかった。


田中が叫びながら銃を撃ち、劉と曹の気を引いてくれたのも無事逃げられた要因のひとつだった。


正太郎は、助けてくれた田中の無事を祈りながらどこへとも知らず全力で走り去った。




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