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第12話:見張り

劉に監禁されてから、2日が経った。


その間に、方術に目覚めた劉の同胞たちは劉を含め10人に達していた。


劉が、最初につれてきたのは、近くの中華料理店の店主だった。


正太郎も叔父に連れられて、何回か食事をしにいったことがあり顔見知りだった。


正太郎を見たとき同情するような顔をしていたので、助けを求めたのだが無理だった。


店主もごめんなといいながら、劉に言われるがまま正太郎を傷つけた。


だが、方術に目覚めると満面の笑顔になった。


これはすごいよと、劉と2人で騒いでいた。


正太郎はただ痛みに耐え切れず、叫び声を時々あげながら呻いていた。


1日目に、劉を含め3人。


2日目に、7人が方術に目覚めていた。


2日目には、正太郎の身体はぼろぼろだった。


痛みに慣れたのか、痛みを感じなくなるほど危険な状態なのかわからなかったが、傷つけられても相手を目覚めさせるようなことはなかった。


店主たちは、もう無理なのか?これ以上はだめか?と嘆いていたが、劉が一言。


「ちょっと反応が、悪くなってきたネー。

でも大丈夫、身体をいじめても無理なら、精神的に傷つければいいだけネー。

僕がやり方教えるから、いうとおりにやれば大丈夫ヨー。

中国四千年に、不可能はないヨー。」


おぉー、と店主たちは劉の言葉に感心する。


言葉も発さず反応が鈍くなっている正太郎に、精神的な痛みが与えられるようになった。


耳元でさまざまな騒音やガラスを引っかく音などの不快な音を鳴らされる。


無理やり開かされた目に、強烈な光を浴びせられる。


強烈な悪臭を放つものを、嗅がせられる。


食べてはいけないようなものを無理やり食べさせられる。


単純に足の裏やわきの下をくすぐられる。


五感に訴える精神的な攻撃が始まった。


正太郎は痛みで感覚が麻痺していたというのに、五感への精神的な攻撃は効果的だった。


2日目の夜までには、合計で9人が目覚めていた。


そして夜遅くに10人目が連れてこられ、10人目が目覚めるためにしたことは今までとは違う攻撃だった。







「いまさらだけど、このガキなんて名前?」


「さぁ、自分は聞いとらん。」


「名前なんてどうでもいいさ。それよりも、俺の方術はすげぇぞ。早く試してぇなぁ。」


「いやいや、俺のほうがもっとすげぇ。これで本国に帰れば、幹部間違いなしだぜ。」


「そうだぜ、おれたちゃ方士になったんだ。いずれは、仙人にもなれるかも。」


「あー、わしは街に出て日本人に方術喰らわしてみたいのう。」


「…劉さんは勝手なことするなと。」


「そうよ。劉さまにこの子見張ってろっていわれたでしょ。

劉さまの言うことは、絶対よ。」


劉が10人目の同胞を呼びにいってる間に、すでに目覚めた同胞たちは雑談をしていた。


20代の私服の男性が4人と50代のスーツを着た男と60代のコック服を着た店主が、正太郎とは離れたところで車座になって思い思いの会話をしている。


倒れたままぐったりしている正太郎を、見張っているのは2人の女性。


20代のパンツスーツを着た切れ長の目をしたクールな女性と、劉のことを劉さまと尊敬の念をこめて呼んでいたどこと鳴く猫のような感じを受けるブレザーを着た女子高校生だ。


「というか、私と同じ学校の男子に咎人がいるなんてびっくり。」


「…同じ学校か。この子、知ってるのか?」


「見たことはある程度かなー。

私は2年生だから接点はないんだけど。

私服OKの学校なのに、1年に学ラン着ている新入生がいたって言う話は聞いたことあったかな。」


「…そう。この子も不幸ね。」


「仕方ないんじゃない。

おとといの声の話聞いてないなら、自業自得でしょ。

方術に目覚めさせてくれたことだけは、感謝してるけどねー。

これで、劉さまのお手伝いできるしー。」


「…そうね。」


「そうだよー。

劉さまは、もっともっと上へいく御方。

わたしが、その一助となるの。」


両手を組み陶酔している女子高生を見ながら、女性は一つため息をはく。


自分も原因の一端ではあるがぼろぼろになった正太郎を見ながら、この子もずいぶんと不幸な子ねと少しだけ哀れんだ。。


そんなこんなで、それぞれがこれからについて話し込んでいると、劉が男を連れて部屋に入ってきた。


「ただいまネー。」


「………」


男は一言もしゃべらず、部屋に入ってきた。


年のころは30代後半くらいだろうか。


髪はまさかの弁髪にしており、ひげがぼうぼうでサングラスをかけている。


タンクトップにアーミーパンツを着ていて、筋骨隆々の身体を惜しげもなく披露している。


一度見たら忘れられない容姿な上に、普通にその辺の通りを歩いていたら職務質問間違いなしだ。


この場に呼ぶのは、劉の同胞たちであるというのに、その男には誰も見覚えがなかった。


「りゅ、劉さまー。そのかた、誰ですかー?」


「あー、名前は曹くんって呼べばいいヨー。

間違いなく同胞だから、気にしないでいいヨー。

曹くんは、君たちとはあまり会うことはないだろうしネー。」


「そ、そうですか。」


言葉が出ない同胞たちを尻目に、男を伴い劉は正太郎に近づく。


気味が悪く感じた女性二人は、車座になった男たちのほうに移動した。


「南條くーん。大丈夫かナー。」


ドアが開く音で目覚めていた正太郎は、話しかけてきた劉をにらむ。


「……(怒)」


「おー。休んだおかげで、まだまだ元気そうだネー。

よかった、よかったヨー。

今日はこれで最後だから、安心していいヨー。」


「もうやめ…」


「はいはい。

近所には誰もいないだろうけど、夜うるさいと近所迷惑だから黙ろうネー。」


正太郎の口を片手で押さえ、ガムテープで口をふさぐ。


「さぁ、じゃあ次はどんなことしようかナー。

曹くんは、今後のことに必要な人材だから絶対目覚めてほしいしネー。

僕もがんばるヨー。

…って曹くんちょいまチー。」


曹と呼ばれた男は、劉のことをまったく気にせずに正太郎の髪をつかみ持ち上げ顔を覗き込む。


正太郎は負けるものかと、曹を睨み返す。


ぼろぼろになった正太郎の顔をじっくりと覗き込みながら、舌なめずりを一つ。


正太郎を床に倒し、うつぶせにする。


腰を上げさせ、膝立ちの状態にさせる。


そして、正太郎のズボンに手をかけた。


「……えっ?(困惑)」


「ちょ、ちょっと、曹くんそれ本気ー?」


「………」コクン


「ま、まぁ、それで目覚めるかもしれないし、曹くんがいいならいいカー。」


「………」コクン


正太郎は突然の出来事に困惑した。


それは周りで見ていた、同胞たちも同様だ。


劉は、曹という男とは付き合いが長いがまさかこんな性癖を持ってるとは知らなかったため。


男たちは、目の前でこれから起こるだろう惨劇(目の毒)にある意味恐怖したため。


女たちは、目の前でこれから起こるだろう惨劇(目の保養)にある意味期待したため。


「や、やめ、それはやめてくれ。」


つい泣き声で懇願するも、曹の動きは止まらない。


正太郎のズボンを一気に引き摺り下ろし、自分のズボンのベルトに手をかけた。


そのとき、曹の動きが止まった。


方術に目覚めたようだ。


今までに目覚めた9人の方術は、多種多様ではあったが見ただけでわかるような変化はなかった。。


だが、曹の目覚めは他人が見てても一目でわかる変化が起きた。


筋骨隆々とした肉体が、みるみるとしぼんでいく。


弁髪は変わらないが、剃っていただろう頭皮に髪が生えていく。


ひげは全部抜け落ち、顔つきがシャープになっていく。


張り出すように大きくなった胸が、タンクトップを押し上げる。


いわゆる女体化が、起きていた。


「………ある。」(小声)


曹が、誰にも聞こえないような声で一言呟いた。


身体が女体化したようだが、男のシンボルがまだ残っていることに安堵していた。


周囲は曹の変化にびっくりして動きを止めていた。


「ちょっと待っテー。

曹くん、ストップストップー。」


いざ続きを、とベルトをはずしズボンを下ろそうとした曹を、正気に戻った劉が羽交い絞めにした。


顔を劉に向け、非難のまなざしで見る。


「いや、そんな目で見ないでヨー。

きみを止めたのは謝るからサー。

でも、ちゃんと理由があるんだヨー。」


「………」


「今まで、こんなに早く方術に目覚めた同胞はいないんだヨー。

なんだかんだいって、今まで時間かかってたし、めんどくさかったんダー。

で、曹くんのやり方ならあまり理解できないというかしたくないけど、殺す心配ないし手っ取り早いネー。」


「………」


「だ・か・ら、本当に掘るのは、まだやめとこうヨー。

だいじょうぶ、掘るときは曹くんが最初だからネー。

これも同胞のためだヨー。

それでいいかいー。」


「………………」コクン


少し悩んだ曹は一つうなずくと、正太郎から離れ服装を整える。


男の身体に戻りたいと意識すると、瞬時に元の筋骨隆々の姿に戻っていた。


「おー、瞬間的に戻れるんだネー?

女体化というか、自由自在に姿が変えられるのかナー?」


「………」


「へー、階位が上がるとできるかもカー。

いいじゃないー。使える、使えるヨー。」


劉は曹の能力の使い方をいろいろ考えながら、これからの計画をみんなに伝えることにした。


「さて、じゃあ今から本部のある池袋のほうに行くヨー。

南條君を本部に連れてくからネー。

本部でまだまだ同胞に目覚めてもらわないといけないしネー。

殺さないように守りながら、無事に連れて行くのが大前提だからネー。」


「劉さま、今からですか?」


女子高生が代表して、疑問を投げつける。


「そ、今からだヨー。

外出禁止令が出てるから、昼間移動すると目立っちゃうじゃーん。

真夜中なら、車で移動してもあまり目立たないだろうしネー。

さいたまからだから、飛ばせば1時間くらいかナー。」


「でも、夜のほうが虫とかで危険なんじゃないですかー?」


「大丈夫、大丈夫。僕たち、方術に目覚めた方士じゃないカー。

襲ってくるのがいるなら、倒せばいいだけだヨー。

まさかとは思うけど、無理とはいわないよネー!」


劉が同胞をじろりとにらむ。


曹以外のにらまれた同胞は、びくっとおびえた顔をした。


「む、無理なんていいませんよー。

わ、私たちは、劉さまのためなら全身全霊でがんばります。」


「だよネー、よかったー。

じゃ、さっそく行こうカー。

あ、虫だけじゃなくて、自衛隊とか警察がいるかもしれないけど、なんかいわれたらぶっ飛ばして逃げようネー。」


尻を突き出したまま気絶していた正太郎を、劉と曹は担ぎながら部屋を出て行く。


遅れて何かあったらたまらないと、残りのものたちも急いで外に出た。


外には、ハイエースが一台用意されていた。


運転席に劉が、助手席に曹が座り、扉が開けられていた。


「一ついっておくと、君たちよりも咎人である南條君は重要だからネー。

どんなに傷ついたとしても、絶対に守るんだよ、わかったカー!」


「「「は、はい」」」


同胞が車に乗ると扉を閉めながら、正太郎の重要度について語る。


全員が肝に銘じたのを満足そうに見ると、車を一気に発進する。


ハイエースは、一路池袋を目指し動き出した。



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