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復讐心を殺すために  作者: くろねくろ
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8話 強襲

「よし・・・作戦決行だ。もし、途中で誰かが入って来たらスキルを駆使して全力で逃げろよ」

赤茶色の髪の少年、エルドがゴクリと生唾を飲み込み言う。

両サイドの白髪の少年アルトと黒髪の少年アーティスが冷や汗をかき、手に汗滲む。

3人は現在、北棟3階、校門をくぐり抜け初等部、中等部、高等部フロアを突き抜け更に職務室と生徒フロアの間を挟む両開きの扉を抜け、職務室の奥の校長室の前を通過し、高価そうな額に入った展示品が並ぶ廊下にある黒塗りの扉。この学校の最高責任者、理事長室の前に佇んでいた。

「じゃ、じゃあ行くぞ」

そう言いながら3人並ぶ中で真ん中にいるエルドがドアノブに手を掛け、音を立てない様ゆっくりと扉を開いた。

エルドが恐る恐る赤いカーペットが引かれた部屋に足を踏み入れて行く。

それに習いアーティス、アルトと真紅の少し柔らかい床を踏みしめて入って行く。

そして、最後に入ったアルトがドアノブを捻り、カチャリとドアを閉め密室にする。

時刻はカラスが鳴く頃。

夕日に照らされた理事長室が一層と真っ赤に染まる。

大きな両扉のクローゼットや戸棚と言ったものが壁側に配置されており、扉の真正面には理事長が普段座っているであろう皮製の上等な椅子、そして彫刻などが施された机が置かれた典型的な感じの部屋であった。

そして3人が歩みを進めそれぞれ作戦どうりの配置場所に足を固定した。

まず、一番最初に部屋へ侵入したエルドはスキルが『物理召喚型』で強襲に特化している為、入口の扉のすぐ横で壁に耳をやり様子を伺う。

次にアストは窓からの避難確保の為にいつでもスキルを発動出来る様にしてある。

アストのスキルは「発動者が定めた移動地点の一歩手前に瞬間的に移動出来る」という所謂、『瞬間移動』の為、窓の外を常に見ている。

ピンチになった時、アルトに触りさえすれば瞬間移動の対象となる為、アルトはピンっと手を伸ばしている状態だ。

瞬間移動対象との距離が最大10メートルであり、理事長室から一番近い木や建物でも窓にギリギリまで近づいてやっとの距離だ。

因みに、連続して移動すると本人曰く吐くらしく、クールタイム5秒は必要らしい。

そして、最後。アーティスだ。

アーティスの仕事はいち早く引き出しから特進コース(特待生)についての書類を発見することだ。

アーティスの捜索時間は作戦のキーとなる。

2人が定位置についた事を確認し、おもむろに引き出しを開けて行くアーティス。

中には学校に関しての書類がまとめてあり、鬼気迫った様子で次々と書類を物色して行く。

引き出しは全部で4つ、現在部屋に侵入してから5分程が過ぎている。

緊張と篭った空気の所為で額から雫が垂れて来ており、時折それを拭いながら懸命に探す。

そして、最後の4つ目の引き出しを少々荒く開ける。

エルドとアルトがチラチラとこちらを見て急かしているのが伝わってくるが、それさえも焦りが苛つかせる。

そして、一枚。否、数枚の紙がまとめられた一冊の表紙が目に留まった。

–––––「特待生の可能性と国の未来」

目を見開き、その内容を大雑把に目に写す。

「あった。これだ!」

つい声が漏れてしまう。

この一声は3人の緊張と焦りを解くのに十分であった。

十分過ぎた。

3人は顔をそれぞれ見合わせ、安堵と歓喜の表情を浮かべた。

次の瞬間1人、エルドの方を見ていたアーティスの表情が戦慄く。

––––––––––ヒュン。

刹那、理事長室の空気が塗り替えられる。

それは感覚した訳では無い。

ただその様に思ってしまった。という方が適切だろう。

バタリと赤いカーペットの上に大袈裟くらいの音を立て先程まで表情を緩ませていたエルドの顔が引き攣り倒れる。

「あ・・・オ、オリヴィエ先輩・・・」

ポロリと、凍ったアーティスの口から戦慄の起源たる者の名が溢れでる。

誰よりも先にその戦慄から開放されたアルトが切羽詰まった様子でアーティスに叫ぶ。

「アティ!早く!こっちだ!」

窓から離れぬ様目いっぱいアーティスに手を伸ばす。

少し反応が遅れ、アーティスが立ち上がりその手を取ろうとするが時すでに遅し、であった。

アルトは表情を歪ませ、カーペットの上に短い音を立てた。

そして、アーティスは咄嗟に目をやる。

その黄水晶の様に透き通った黄金色の髪を靡かせ、ビー玉の様に丸々として透き通って、エメラルドの様に真っ直ぐな美しさを誇る瞳。

そして整った顔立ちと身長との割にははっきりとしていない胸元。

その全てを守り抜きたいと今ここで宣誓しても後悔は無いだろう。

それ程までに美しい少女、オリヴィエ・アーツ・クルードが淡々とこちらに愛用剣を向けてくる。

「まさか、君がこんな事をするとは失望しました」

カチャリと剣を構え戦闘態勢に入る。

「そうですね。僕もびっくりですよ。まさかオリヴィエ先輩がくるとは・・・」

そう、今日は教師の会議があり、勿論オリヴィエも初等部の会議に参加している筈だった。会議終了にしても早過ぎる時間帯だ。

アーティスは誰かが来たことに、仰天したのでは無く。

オリヴィエが来たことに、身を凍らせたのであった。

ツゥッと嫌な汗が背中を撫でる。

部屋はそんなに広くは無い。

アーティスの身の丈とさほど変わらない剣を持った相手にここで攻められればアーティスといえど苦戦を強いられるだろう。

学年主席のオリヴィエとなれば余程のことであろう。

戦闘になる事を予期したアーティスは今の使い物にならない脳を切り替えようと大きく息を吸い込み呼吸を整え、落ち着かせる。

暫しの間静寂が場を包むが、それも束の間。金属同士が打つかる特有の甲高い音で一気に部屋中を剣の閃光が駆け巡る。

オリヴィエの手には赤い水晶が埋め込まれた剣、『緋剣』アカクシア。

アーティスの手には見たことも無い、漆黒の剣だ。

いきなりオリヴィエが剣をアーティス目掛け叩き込む。

咄嗟のことでアーティスは一歩後進するが、すぐさまスキルで剣を顕現させ、その漆黒の剣を以って『緋剣』を受け止めたのだ。

真剣同士の衝撃により、汗がアーティストの頬を伝い、ポタリと溢れる。

流石のアーティスも切羽詰まり軽く舌打ちをして剣を両手で持ち、『緋剣』を弾く。

「むっ・・・!」

少しオリヴィエが唸るがすぐに態勢を立て直し、前屈みだった重心をすぐさま後ろへ傾け数歩下がる。

オリヴィエの目の前すれすれを黒い軌跡が描かれて風を切る音が鼻を掠める。

「そっちがその気なら相手になりますよ」

軽くステップを踏み、片手で剣を構え余裕の笑みを見せる。

「・・・スキル発動します」

アーティスを睨みつけオリヴィエは淡々とスキルを発動し、足元で気絶しているアルトを軽々と入り口付近に転がっているエルドの元へ放り投げた。

その光景を見て、アルトの笑みが消える。ステップをしていた足を止め、剣を握る手に力が篭る。

アーティスの特徴的な暗黒の瞳が、鋭くオリヴィエを射殺す様に睨みつける。

いくら憤慨しているとはいえ、気絶した者、況してや後輩を乱雑に扱うのはオリヴィエらしく無い。だから、オリヴィエのその異常な行為にアーティスは余計に苛つきを感じる。

そんなアーティストの様子をオリヴィエが嘲るかの様に笑う。

「ははっ。どうしたのですか?少々邪魔でしたので移動させただけですよ?」

その言葉にアーティスは目を細めてオリヴィエの心臓だけを狙う。

そして、足に力を込め怒りを剣に乗せオリヴィエ目掛け重心を低くし突っ込んで行った。

そうして、戦いの火蓋は切って落とされた。

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