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旧市街地での初陣

 ゲームではその日は、リビングにおけるブリーフィングから始まる。

 一方、この世界ではブリーフィングまでには多少の猶予があるようだ。

 朝にする諸々の行動を終え、椅子に座りながら今日のことについて再確認する。


 絶対目標は"全員の生存"そして可能であれば敵、ゴブリン七体の殲滅だ。

、ゲームではゴブリンはパワーアーマーを装備した兵士にとって、雑魚といってもいい存在だ。

 だいたいキャラクターの腰くらいの高さの人型エイリアンで、こちらの初期レーザー銃を二発当てれば倒せてしまう。

 一方でゴブリンの持つレーザー銃は、初期装備であっても五発以上当たらなければ、死ぬことはない。


 つまり、ゲームでは製作者の都合でヴィルヘルムが死んでしまうが、本来なら死者がでるような戦いではないのだ。

 しかしここはそのゲームに非常に良く似た世界、というかそのままゲームの中の世界である。

 ヴィルヘルムが同じように死んでしまう可能性は高いだろう。

 しかし、それを回避することが可能であることも、意図したわけではないが確認することが出来た。

 というのも、二日目のヴィルヘルムのチュートリアルイベントのことである。

 ゲーム内では必ず起きるこのイベント、これを僕は意識はしていなかったが回避している。

 三日目のチュートリアルイベントの続きまでも回避していることから、ヴィルヘルムの死を回避することはそれほど難しくないはずだ。


 大丈夫、絶対に大丈夫だと自分に言い聞かせながら、その時を待っていると近藤さんの声が直接、頭の中に響いた。


「諸君らの初任務が決まった。全員、宿舎内にいるようなので、速やかにリビングに集まるように」


 来た……! 椅子から立って、両手で頬を一発、気合を入れて部屋を出る。

 廊下にはヴィルヘルム、御堂の姿も見える。

 三人、無言で連れ立ってリビングへと向かうと、女性陣も丁度リビングへ着くタイミングだった。

 それぞれ初日に座っていた席に座っていく。その顔は皆、強張っていて緊張しているように見えた。


「集まったか、それでは任務についてのブリーフィングを始める」


 いつの間に現れたのか、ホログラムの近藤さんが部屋の奥でこちらを見ながら話しはじめる。


「先ほど巡回任務中の兵士によって、旧市街地上空にて敵輸送艦よりゴブリンの投下を目撃したとの情報が入った」

「諸君らの任務はこれの現地での確認と、その殲滅である」

「これよりおおよそ五分後、宿舎前に輸送車が着く。車内にてパワーアーマーを装着し、現地到着と共に任務開始だ」


 近藤さんの台詞は完全にゲームのときと同じだ。

 ブリーフィングを終えた近藤さんの姿が消える。

 同時、座っていた全員が席を立った。



 やってきた輸送車は大型トラックのように後ろに大きなコンテナが積んであって、僕達はそのコンテナに乗り込んだ。

 コンテナの中は真ん中に仕切りと扉がついていて、手前側は左右が座れるように椅子が備え付けてあり、奥側ではパワーアーマーや武器の装着が行えるようになっていて、一人ずつ中に入って準備をしていくことになる。


 パワーアーマーの装着は非常に簡単なもので、所定の位置に裸で立っているだけで終わる。

 その場に立っているだけで、左右から延びる四本の機械の手が器用に動いて、腕、足、体、頭とパワーアーマーを装着させてくれるのだ。

 初期装備のパワーアーマーは鈍い銀色をした、西洋の甲冑のような出で立ちで、頭の部分だけフルフェイスのヘルメットのようになっている。

 不思議と全く重さは感じず、動きの感覚は何も着ていないときと変わりがない。

 手渡されたレーザー銃は黒いアサルトライフルのようなもので、訓練校ではこの銃を模した武器で訓練を行っていたため、すぐに手に馴染んだ。

 

 もう後戻りは出来ない。

 ゲームのようにリセットすることも出来ない。

 絶対に失敗することは出来ない一発勝負だ。




 輸送車のコンテナから降りると、ゲームで見慣れた風景が広がる。


 旧市街地

 

 半壊したビルや店舗が立ち並ぶこの場所は、ゲームでは度々戦いの場となるマップで、そのマップ構造は頭の中にしっかりと入っている。

 今回の戦いでは、輸送車から北へ真っすぐ進み、交差点に差し掛かったところで東側に輸送艦から投下されるゴブリンが見えるはずだ。


 近藤さんから「今回の任務ではヴィルヘルムに小隊長を任せる。六人で一塊となり、細かい行動については各自、小隊長の指示に従うように」との通信がくる。

 これもゲームのときと同じだ。問題の地点まではヴィルヘルムの指示に任せて問題ないだろう。


「それではパワーアーマーの全ての機能を開放する」


 近藤さんのそんな言葉と同時に、視界の右上に半透明のミニマップが表示される。

 そして下には今、自分が向いている方角とアーマーの耐久値が表示されていて、このアーマーの耐久値が0になると、パワーアーマーはその用を成さなくなる。

 さすがに視界中央に照準が表示されることはないが、それ以外は全てゲームのときと同じだ。

 ゲームの戦闘パートを思い出して興奮していく自分を感じる。


「あー、あー、聞こえるか? 任務中は小隊員の声は、小隊全員に聞こえるってのは訓練校の座学で習ったよな?」

「初任務の小隊長ってことで、上手く指示が出来ないかもしれないが、皆よろしく頼む」


 初任務だというのに、平常時と変わりないヴィルヘルムの声が聞こえる。

 僕が訓練漬けだった間にも、彼は他の皆とも交流を深めていたのだろう。

「了解」「はーい!」「……はい」「よろしくお願いします!」と、了承の返事が続く。

 勿論、僕も「こちらこそ、よろしくお願いしますね」と返した。



「オールクリア、この建物は問題ない」

 輸送艦の目撃情報があった地点まで、道中の建物の中を確認しながら進んでいく。

 目撃情報があってからおおよそで一時間。

 体が小さく、運動能力も低いゴブリンの足では降下地点からそれほど離れてはいないだろう。

 周辺の建物を確認しながら進むのは判断としては正しい。

 ただ、この後の展開を知っている僕にとっては少しだけじれったくもある。


 いや、完全にゲームと同じ展開になるとは限らない。油断は禁物だ。

 一つ一つ、建物の中を確認して前に進み、ついに問題の交差点に差し掛かる。

 建物の陰に隠れながら、東側を注意して見ていると、ゲームと同じく輸送艦からゴブリンが降下しているのが見えた。


「敵輸送艦と、降下中のゴブリンを確認、指示を願います」


「こちらでも確認した、任務の目標を変更する。現在地より東の投下地点まで赴き、現在降下中のゴブリンを殲滅せよ」


「みんな聞こえたな? この交差点を東に道沿いに進む」

「先の目撃情報の件もある。死角には気をつけて行くぞ」


 これまでのように建物の確認を行わず、東の投下地点へと急ぐ。


 道のりを半分ほど過ぎたところでゴブリンの降下が終わり、輸送艦が青い渦の中へと消えていくのが見えた。


 ここまでの流れは全て、ゲームのときと同じだ。ここまで同じなら、おそらくこの後も同じになるに違いない。

 このあとの展開について考えながら進もう。


 まず、このまま進むとゴブリン三体を発見する。ただし、向こうも同じくこちらに気づき、遮蔽物に身を隠しながらの銃撃戦になる。


 そのあとゴブリンが一体倒されることをキーとして、先だって降下していたゴブリンが二体ずつ、左右のビルの陰に現れる。

 大通りを左右に別れて、建物の陰から銃撃戦を行っているために、こちら側が二か所からしか撃てないところ、ゴブリンの方は隆起したアスファルトの陰、左右のビルの陰の三か所から撃てる状態となるためこれは劣勢と判断。左右から二人ずつで別れて迂回し、両翼のゴブリンを狙うことにする。

 しかし正面からの銃撃が減ったことで、ゴブリンは隙をついてその場から移動。その位置がわからなくなったため、迂回を中止して合流したところでヴィルヘルムが囮として、大通りの中央へ突撃する。というのがゲームでの一連の流れだ。


 ヴィルヘルムの死を阻止するためには、このヴィルヘルムの囮突撃をさせないようにしなければならない。

 ではどのようにして、これをやめさせるかといえば、戦況を良いものにして、突撃する必要性をなくしてしまおうと思う。

 つまり、皆より先行して中央のゴブリン三体を奇襲し殲滅、その後に左右のビルどちらかに現れるゴブリンのうち、どちらかを殲滅すればヴィルヘルムが囮突撃する必要もなくなるはずだ。


 ゲームでは中央の三体を奇襲で倒すことはそれほど難しくない。しかし左右のゴブリンは囮突撃があるまで、近づくと消えるために倒すことが出来なかった。

 しかし今はゲームではない。近づくと姿を消すゴブリンなんていない。

 そうと決まれば、善は急げである。


「先行して偵察を行ってきます。後ろの注意をお願いします」


 返事も聞かずに全力疾走で走り出す。

「おい! 許可は出してない!」という声が聞こえたが、無視だ、無視。

 ゲームと同じ、奇襲をかけられる地点に着けば視界には、こちらに気づいていないゴブリンが三体。

 そのうちの一体に狙いをつけて、レーザー銃のトリガーを二回、タップするように素早く引く。

 銃口からレーザーが二本、短い間隔で射出されゴブリンの胴に当たり、その場でゴブリンは灰になる。


 レーザー銃はトリガーを引きっぱなしで連射可能なフルオート仕様である。

 しかし発射間隔が少し長めなこともあって、一息で二発当てることが難しい。

 そこでプレイヤー達は試行錯誤の末に一つの技を見つけ出した。

 それがこの手動二連バーストと呼ばれる技術である。


 この手動二連バーストを使うと、二発目のレーザーの発射間隔が短くなり一息で二発、容易に当てることが出来るようになる。

 ただし、この技は三発目が発射されるのが、フルオートで撃った時よりも遅くなるというデメリットも存在して、初期のゴブリンに使う以外にはそれほど使い道はない。

 しかし、ことゴブリンを相手にするときには、これほど強力な技術はない。

 ただ、それも全てゲームの中での話。実際に使えるかは五分五分の賭けだと思っていたけど、無事に使えたようだ。


 仲間の一体が倒されたことで、こちらに気づいたゴブリンが、手に持ったレーザー銃をこちらに向けて撃ってくる。

 慌てて建物の陰に隠れ、二秒数えてから、体を建物の陰から出して、同じようにゴブリンを狙って手動二連バーストで撃つ。

 運が良かったのか、ステータスを上げておいたのが功を奏したのか、二体目のゴブリンもその場で灰になったのを確認し、また身を隠す。

 残ったゴブリンはこちらを撃ちながら、建物の陰に隠れるべく移動しているはずだ。

 だいたいの移動場所に当たりをつけて、手だけを陰から出してフルオートで撃つ。

 五秒ほど撃ち続け、相手のレーザーが飛んでこないことを確認して、建物の陰から体を出すとゴブリンだった灰が三か所に落ちているのが見えた。


 これで中央のゴブリンは殲滅した。ゲームのときと同じルートでゴブリンが移動していると過程して、北側のゴブリン二体を待ち伏せできそうな地点へ移動する。

 この間ずっと「おい、何をしている!?」だとか「勝手なことをするな!!」だとか「一人で突出するのはやめろ!」だとかの怒号が聞こえているが、全て無視である。


 待ち伏せ地点に到着した僕は遠目でゴブリン二体が走ってくるのを確認した。この地点でゴブリン達が通り過ぎるのを待ち、背後を取る作戦だ。


 程なくして、ゴブリン達が脇目も振らずに通り過ぎていく。

 見つからなかった。正直、少し怖かった。

 背後を取るべく陰から出て、一体のゴブリンの背を狙って手動二連バースト。そのままもう一体に向けて狙いを定めていると、それに気づいた残ったゴブリンがこちらに向かってレーザー銃を構えた。

 これは危ない。慌ててもう一度、手動二連バーストで撃つと、もう一体のゴブリンも灰になった。

 しかしこちらの反応が遅れたせいで、最後の敵の一発がこちらの胴体部分に命中。視界の下の耐久値が四分の一減っている。


 さて、この後はどうするかと考えたところで、ミニマップの味方のマーカーが、南側のゴブリンが移動してくるポイントに近づいているのが見える。

 下手をして不意打ちでもされれば何があるかわからない。慌てて南側のゴブリンの移動経路から待ち伏せ出来そうな場所を考えて移動する。


 南側の待ち伏せする地点への移動途中、時間の感覚を間違えたせいか、二体のゴブリンと正面から鉢合わせしてしまった。

 慌てて、近くの建物の陰に隠れたが、出合い頭に一発もらってしまった。

 耐久値はついに半分まで減ってしまっている。これは拙いぞ。

 二体のゴブリンは道を挟んで両側に一体ずつ、こちらに向かって撃ってきている。

 体を出して狙いをさだめれば、一体は倒せるだろうが、パワーアーマーの耐久値は残り二発分しか残っていない。危険だ。

 かといって、ここを離れて移動すればゴブリン達も移動を始めるだろう。そうなるとゴブリン達がどこにいったのかがわからなくなる。

 さて、これはどうしたものかと考えていると、こちらを狙って撃たれていたレーザーが途絶える。


 どうしたのだろうか、ゆっくりと陰から顔を出して、様子を伺ってみるとさっきまでゴブリンがいたところには灰が落ちている。

 ミニマップにゴブリンがいると思われる場所に、味方のマーカーがあることに気づいて、あぁ、皆が助けてくれたのかと安堵した。


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