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訓練

 ゲームではステータスを上げる方法は大まかに分けて三つある。


 一、自分よりステータスの高い仲間と仲良くなって、その人から教えてもらう。

 二、クレジットで購入した危ないお薬を飲んで上げる。

 三、各地に存在する訓練ができる場所で訓練する。


 一はプレイヤー以外のキャラクターは、戦闘を繰り返すことでステータスや装備が上がっていくゲームのときの仕様から考えて、今の時点ではステータス的に不可能だと思う。

 そもそも僕はそれほど社交的な方ではないので、仮にステータスが僕より高い仲間がいたとしても、教えてもらえるくらい仲が良くなるまでには時間がかかる。ヴィルヘルムのようにイケメンでコミュ力もあって性格まで良いような奴とは違うのだ。


 二はそもそもクレジットが手に入らないので不可能だ。仮に可能でも危ない薬とか絶対に飲みたくない。


 というわけで三の訓練をして、ステータスを上げる方法をとろうと思う。

 ゲームでは移動可能範囲内に存在する訓練ができる場所で、所定の訓練を行うことでステータスが上がった。

 この訓練ができる場所は、クレジットを使用して訓練を行う軍の訓練場や、サブイベントでアンロックされる場所など様々なところにあって、それぞれの場所で上げられるステータスには上限がある。

 これはゲームのときの仕様で、ひたすら訓練をしてステータスを上げて、簡単にクリアすることができないようにするためにそうなっているんじゃないかと思うのだけど、今の僕はゲームをプレイしているわけではなく、ゲームの世界の中にいるわけで、この制限がこの世界でも存在するのかはわからない。

 とはいえ、それを試すのはもっと後の話だ。今は最初から行くことのできる訓練場所で訓練をして、ステータスがゲームのときのように本当に上がるのかの検証と、上がるのならできる限り上げておくのが大事だ。


 そこでまず最初に行う訓練……それは走り込みだ。もう一度言いたい、走り込みだ。

 この走り込みは、少ない回数で全てのステータスが4まで上がる序盤では最高効率を誇る訓練で、だいたいのプレイヤーが最初にこれを行う。

 しかし走り込み、走り込みかぁ……はぁ……。

 訓練校であんなに走り込んだのに、なぜ僕のステータスは初期値の3なのか、本当に意味がわからない。

 

 というわけで、最初の三日間は移動可能範囲内にある訓練校の運動場を使って、ひたすら走り込みをおこなおうと思う。

 ゲームではそれだけやれば、全てのステータスが4まで上がった。

 これでこの世界でもステータスを上げる方法にゲームのときの知識が使えるかどうかがわかるはずだ。


 それが終わって、もしもステータスが上がっていたら次の四日間は河川敷で水切り訓練をしようと思う。

 それでゲームのときならば、中距離戦能力が5に上がるはずだ。


 ちなみにこの二つの訓練を連続して行う流れは、ゲームの攻略サイトでは初心者にオススメの流れとしてよく載っている。

 初期装備であるレーザーライフルが、中距離戦能力に依存する武器であるということがその理由の一つだ。

 ゲームをプレイしていたときは、僕も毎回のように最初にこの流れで訓練をしていた。


 というわけで早速、朝食を食べたあとは準備をして、地元の訓練校の運動場へ行くことにしよう。




 やってきた訓練校の運動場では、中央のトラックを生徒と教官が走っているのが見える。

 当然、僕が訓練校にいたときのように、重りの入ったリュックを背負っている生徒はいない。

 はぁ……、なぜ転移した先の訓練校があそこだったのか。他の場所ならもう少し楽しく訓練できたんじゃないか……。

 何食わぬ顔で運動場に入っていって、持ってきた完全食の缶詰を入れた鞄を隅に置いて走り始める。


 といっても訓練校の生徒に交じって走るわけじゃない。

 いきなり知らない人達に「僕も混ぜてくれ」なんて言って、輪の中に入っていけるようなコミュニケーション能力は僕にはない。

 トラックを走る生徒と教官を横目に、運動場の外周部をひたすら走る。

 適度な体への負荷、額ににじむ汗が僕に生きる喜びを与えてくれる。

 運動場では訓練校の生徒と教官がチラチラとこちらを見ているような気がするが、そんなことを気にしていたら走れない。

 意識を集中して走って、走って、走っていたら、気づけば夕方になっていた。


 それまで訓練をしていた生徒達が寮へと戻っていくのを横目に、持ってきた荷物から完全食の缶詰を取り出す。

 このまま夜中まで走って、日が変わる頃に宿舎へと帰れば訓練の一日目は終了でいいだろう。

 しかし、キャッキャウフフなギャルゲーのような生活を夢見ていたはずなのに、僕はいったい何をしているんだろう。

 今日一日、女の子どころか誰とも話していない。

 これじゃあ訓練校時代とやってることが何一つ変わらない。いや、むしろあのときより退行してるんじゃないか。

 いや、待て、これはそのギャルゲーのような生活を何の憂いもなく送るために必要なことだ。

 思い直して僕はまた運動場の外周を走り始めた。

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