宗像 透
茉莉ちゃんとの話し合いの後、僕は他のみんなの部屋も回っていった。
御堂は「勝手にしてくれ、クレジットは出す」と、投げやりながらも賛成してくれ、皆本さんも「わ、私もい、いいと、おもい、ます」と、新しい人を入れることについて賛成してくれた。
最後に昨日のこともあって、少し話しかけづらかった津組さんに話を聞きに行くと、出合い頭に「昨日は本当にありがとうございました!」と改めて頭を下げられ、それから増員についての話をした。
津組さんも増員については特に思うところはないみたいで「急な話で驚きましたけど、私も良いと思います」と、賛成してくれた。
心中はともかく、これでみんなの言質も得た。茉莉ちゃんの要約すれば「クレジットを出したくない」という意見さえなんとかすれば問題なく増員が行えそうだ。
そこで茉莉ちゃんの意見についてヴィルヘルムと相談した結果、僕とヴィルヘルムの二人で必要なクレジットの半分である100,000クレジットを出すことを決めて、話し合いの場で提案したところ、茉莉ちゃんからもそれなら良いということで、新しい隊員を増員することが決まった。
クレジットの譲渡の方法などはどうするのだろうと思っていたら、クレジットの受け渡しができる端末というものがあるらしい。
訓練場の受付でみたことのある端末と同じようなもので、ヴィルヘルムがそれを持っているということだったので、僕達はヴィルヘルムにクレジットを渡して、無事に増員の申請を行うことができた。
ゲームのときには実際に人がやってくるまでに、申請から一週間から一か月ほどかかった。
こちらの世界でもそれは変わらなかったようで、新人がやってきたのは申請から三週間が過ぎた頃のことだった。
ゲームでは新人の入隊日は、その日のはじまりに強制イベントとして始まったけど、この世界では朝に荷物や家具が空き部屋に運び込まれ、夕方頃に近藤さんからの連絡があって、みんながリビングへと集まったなか彼は宿舎へとやってきた。
そう、彼、彼なのだ。男だったのだ。
「はじめまして、宗像 透と申します。みなさん、よろしくお願いします」
銀髪で眼鏡をかけ、どことなく知的な雰囲気を醸し出す彼は、眼鏡の真ん中を中指で押さえて、眼鏡の位置をクイッと直したあとに自己紹介をはじめる。
銀髪眼鏡の知的クールキャラ、宗像 透はゲームではヴィルヘルムの補充要員としてやってくるキャラクターだ。
よくよく考えてみれば、ゲームでは最初にやってくるのは必ず彼だったわけだから、この世界での最初の増員も彼がやってくるのは予想してしかるべきだった。
ちなみに僕はゲームをプレイしていたときに、男キャラクターと仲良くしたことはほとんどない。
だから御堂も宗像も、なんとなくどんなキャラクターかは知っているけど、詳しいことについてはなにも知らない。
僕が知っているのはせいぜい、御堂と宗像がよく掛け算されているということくらいだ。
それから僕達も一人ずつ、彼に名前と得意分野などの自己紹介をしていく。
意識していないとわからないけど、心なしか茉莉ちゃんのテンションが高い。代わりに僕のテンションはガタ落ちだけど。
しかし戦力が増えたことには間違いないし、それに増員は今回限りというわけでもない。
そうだ、次だ、今回は男だったんだから、次は女の子がやってくるはずだ。
自己紹介が終わると御堂は一人で席を立ち、ヴィルヘルムと茉莉ちゃんは宗像と部屋の案内をしに行った。
リビングに残ったのは僕と皆本さんと津組さんだ。
「良さそうな人で良かったです。野上さんと香子さんはどう思いました?」
本音としては、イケメンはチェンジで別の女の子をお願いします。だけど、さすがにそんなことを口にだしては言えない。
無難に
「頭が良さそうな方でしたね」
と、僕が言うと津組さんはニヤリと笑いながら「それって眼鏡をかけてたからですか?」と僕をからかう。
「いやいや、眼鏡とかではなくて、声の調子とか話し方とか仕種とか……」
「えー? 眼鏡でしょ? 眼鏡ですよね? 香子さんもそう思いませんか?」
「え、あの、えっと、眼鏡をしている、かたって、賢そうに、見えます」
「でしょー? やっぱり眼鏡ですよ! 私も眼鏡しようかなぁ」
「津組さんが眼鏡をしても、賢そうには見えないと思いますよ?」
「ちょっと野上さん、それってどういう意味ですか?」
「どういう意味って、そういう意味ですよ」
「だからそういう意味ってなんなんですか?! もうっ!」
そう言い合ったあと二人で笑い合う。
津組さんに説教じみたことをしてしまった反省会のあと、今後はギクシャクしてしまうかなぁと思っていたけど、そんなこともなく普通に接してきてくれる。
津組さんは本当に良い子だと思う。
「野上さんって口調は丁寧ですけど、言ってることはけっこう酷いですよね、香子さんもそう思いません?」
「え? あ、あの、そ、そんなことは、ない、と、おもいます」
「えーっ! ぜったいにひどいですよ! 野上さんが眼鏡をかけたらきっと鬼畜眼鏡ですよ! この鬼畜眼鏡!」
「鬼畜眼鏡ってなんですか……。そうだ、他のみんなとは津組さんと皆本さんはどうですか?」
よくわからない話の流れになっているので、ここは流れを変えるべくゲームのときから気になっていたことを聞いてみる。
ゲームでは主人公と他のキャラクターとの仲はわかりやすかったけど、主人公以外の仲間同士の関係については描写がほとんどなかった。
これはたぶん、増員したときにやってくるキャラクターが基本的にランダムだというゲームシステムのせいで、そうなっていたのだと思うけど、実際にはそれぞれに交流があるはずだ。
「どうって?」
「僕は御堂さん以外とはわりと仲良くやれていると思ってます。みたいなことです」
「うーん、ここにいる二人以外だとヴィルヘルムさんは、よく話しかけてきてくれます。でもかっこよすぎて私からは近寄りがたいかなぁって宗像さんもかっこよかったですし、なんだか気後れしちゃいます」
「……うん? じゃあ今、こうして話している僕はどうなんですか?」
「えー? それ聞きます? ふふふ、そういう意味です!」
「そういう意味ってどういう意味ですか……」
「あとは東条さんと御堂さんはリビングで会ったら簡単な話をするくらいです」
「わ、わたしも、津組さんと、おなじ、ようなかんじ、です」
「あーっ! もーっ! 香子さん! 津組さんじゃなくて下の名前で理香って呼んでって言ったじゃないですか! 私も下の名前で呼んでるんですから!」
「あ、ご、、ごめ、なさい、理香……さん」
「ふふふー、あ、野上さんはちゃんと津組さんって苗字で呼ばないとダメですよ?」
「あはは……わかってますよ、津組さん。それにしても二人はいつの間に下の名前で呼び合う仲になったんですか?」
「この前、二人で話しているときに話の流れでなんとなく。でしたよねー? 香子さん」
「あ、はい、そう、でした」
「皆本さん大丈夫ですか? 津組さんのことが嫌だったら嫌だって言っても大丈夫ですからね」
「え? あ、い、嫌じゃ、ないです」
「なにそれ野上さんひどい! ほんと、さっきから私にたいしてだけひどいですよ!」
「先に僕をからかってきたのは津組さんの方ですから」
それからも三人で他愛ない会話を続ける。
しかしなるほど、ヴィルヘルムは地味にみんなとしっかり交流をはかっているらしい。見た目も性格もイケメンで、そのうえ小隊長として戦場でもそれ以外でも頼りになるとか、ヴィルヘルムが有能すぎて怖い。
今も宗像に部屋を案内してから、こちらに戻ってこないところをみると、三人で話でもしているのだろう。
イケメン二人と話せて茉莉ちゃんも、内心で大喜びしてそうだ。
けっ! とひがみ根性が湧き出てきたけど、冷静に考えてみれば僕も美少女二人と三人で楽しく会話をしている。
ヴィルヘルムはイケメンすぎて近寄りがたいとか言われているし、これは僕にも可能性はあるんじゃないだろうか。
そう考えると、新人が男であったこともそれほど気にならなくなってきた。
なにせ宗像もタイプは違えど、怖いくらいにイケメンだからね!