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反省と提案

「津組さん、大丈夫ですか?」


 言いながら、腰を抜かしている津組さんに向かって歩いていく。

 敵のレーザーを被弾してもたいして衝撃はないけど、近接武器で殴られると衝撃は体に伝わるみたいだ。ゲームのときでも敵の近接武器に当たると後ろへのけぞったり、飛ばされたりしていた。


 パワーアーマーの耐久値が残っていれば、それで怪我をすることはおそらくないと思うけど、恐怖感はレーザーを被弾するよりもけた違いに高いと思う。


 津組さんに手を貸して、立たせていると近藤さんの声が頭に響く。


 一歩間違えていれば、津組さんは死んでいたと思うと、楽なようでいてかなり危険な任務だった気がする。

 今回の任務ならちゃんと時間はあったのだから、しっかりと事前に指示を出すべきだった。

 最近は特に苦戦もなかったことと、ゲームでは簡単な任務だったことから、慢心や油断があったのかもしれない。


 ゲームでは誰かが死んでしまっても、結果が気に入らなければリセットが出来たけど、今はリセットなんて出来ないしセーブもロードもない。 

 常に緊張感をもって事にあたるように意識しなければ、僕も含めて誰かが死んでからでは遅いのだ。


 帰りの輸送車の中、津組さんは一言も発さずに、真剣な表情をしてうつむいていた。

 それは宿舎に帰ってきてからも同じで、反省会のために椅子に座ってうつむいている津組さんを見て、最初の出撃の日を思い出す。思い返せば僕を叱るために皆が集まったのが、そのまま定着して反省会という形になったんだなぁ……。


「……いや、事前に動きについて、それぞれの考えを共有しておかなかったのがそもそもの問題か」


 皆がリビングの席に座ったところで、ヴィルヘルムが立って何かを言おうとしてやめたあと、そう呟いてまた座りなおした。


 たぶん、皆本さんと津組さんが飛び出した件について、何か言おうとしていたんだと思う。

 ただこれについてはヴィルヘルムが呟いた通り、事前に情報の共有をしていれば良かっただけで、みんなに等しく責任があると思う。


 ただ、津組さんにはそれとは別の問題があった。


「あー、ひとつよろしいでしょうか?」


 手をあげて椅子から立ち上がる。

 僕は自分が通っていた訓練校のことしか知らないため、津組さんの行動が問題だとみんなが知らない可能性もある。それの確認もしておかないと、この先、困ることになると思う。


「みなさんは射線と立ち位置については訓練校では習わなかったのでしょうか?」


 そう、津組さんは僕の前に飛び出したときに、僕の射線を遮る位置に移動した。本当の問題はこちらだと思うんだ。


「え? あ……習ってます。申し訳、ありませんでした……」


 僕の言葉を聞いた津組さんは、今までそのことについて思い当たらなかったというように、少し驚いた後に謝った。

 訓練校で習っていたのなら、僕が言いたいこともみんなに伝わったはずだ。


「ご存知ならいいんです。今後はお互いに注意しましょう」


 津組さんにそう言って椅子に座る。

  

 場になんともいえない空気が広がる。少しの間の沈黙。

 こんな空気になるってわかってても、言わないといけないことだと思ったから言ったんだ! ぼ、僕は悪くないぞ! と心の中で言い訳しているとヴィルヘルムが「みんなもあらためて注意しよう。他に言いたいことがある奴はいるか?」と場の空気を切り替えた。


「……ないか? それなら俺から一つ、新しい人員を入れることについて、みんなの意見が聞きたい」


 前に僕が相談したことだ。あのときは必要性が感じられないと言われたけど、考えが変わったのだろうか?


「正直、今までは必要ないと思ってた。ただ、今日の戦い。あれだけ遠くから真っすぐこちらに向かってきた敵を、接近されるまでに倒しきれなかっただろ? 上は俺達の装備や人数、これまでの戦いを考慮して、今日の戦いを俺達に任せたはずだ。なのに倒しきれなかった。今後も今日と同じか、それ以上の規模の相手になるのなら、誰かが怪我……いや、最悪死ぬ可能性だってある。戦力の増強は必要だ。そして今の俺達に出来る一番簡単な戦力の増強方法は新しい人員を入れることだと俺は思う。みんなはどう思う?」


「僕は賛成します。というよりもヴィルヘルムにこの話を最初にしたのは僕のほうですから」


 ヴィルヘルムの言葉に、真っ先に賛同する。

 人が増えればその分だけ戦力が上がってより安全に、より楽になるのはゲームのときもそうだった。

 増やせるタイミングで、できるだけ早く人を増やしていきたい。


 しかし僕とヴィルヘルム以外はみんな、難しい顔をして黙っている。


「あの、それって皆でクレジットをだしあって申請するんですよね? 今すぐっていうのは難しいです」


 そう言ったのは茉莉ちゃんだ。

 茉莉ちゃんは僕と同じく遠距離戦仕様のレーザーライフルを新しく買っているし、女の子だから日用品にもクレジットを使っているのかもしれない。最低限の生活必需品は申請すれば送ってきてくれるけど、あくまで最低限だから女の子としてはそれでは厳しいだろうし。


「いや、なにも今すぐどうこうしようってわけじゃない。そうだな……次の話し合いまでに、各々で考えをまとめてどうするか決めよう」


 そうして反省会は終わり、みんなが席を立つなか津組さんは僕の方へとやってきて


「あの、今日は本当にすいませんでした。あと、助けてもらってありがとうございました」


 と、言って頭を下げた後に返事も聞かずに走って去っていった。


 もう少し、伝え方とか考えて口に出した方が良かったかなぁ……。

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