話し合い
「小隊のみなさんのステータスの情報をみんなで共有するべきだと思うのですが、ヴィルヘルムはどう思います?」
夜、僕はヴィルヘルムの部屋を訪れていた。相変わらず純和風な部屋だ。棚に積まれた本のタイトルに夏子の冒険と書いてあるのが見える。
「そもそもさ、これまで知らなかった方が問題じゃないか? 装備も今はそれぞれ勝手に新調してるけど、これも全員で方針とか決めたほうが良くないか?」
言われてみればそうだ。ゲームのときには周りのキャラクターが勝手に装備を整えていることになんの疑問も抱かなかったけど、小隊として一つのグループで動いているのに、装備についてそれぞれが勝手にしているのはおかしい気がする。
そもそもの問題として、この世界のこの国にはちゃんと大人がいるのに、指導したりリーダーシップをとる大人が小隊にいないのはどういうことなんだ。規律も何もあったものじゃないこんな状態は問題ではないだろうか。
「言われてみればそうですね。他にもいろいろと決めた方が良いことがありそうじゃないですか?」
「あぁ、皆で連携の確認や訓練もした方が良いだろうし、他にもいろいろと話し合うべきことがありそうだな。こういうのは早い方がいいし、明日の夜にでも集まろうか。皆への連絡は俺がやっておく」
というわけで、僕達は翌日の夜にリビングへと集まった。
どうやってヴィルヘルムが皆と連絡をとって、時間の都合をつけたのかわからないが、約束の時間には全員がリビングルームでそれぞれの席に座っている。
「昨日、軽く話はしたけど、改めて皆の前で話しておく。今日、集まってもらったのは皆のステータスの情報を共有したいという提案と、他にもいくつか決め事をするべきじゃないかってことを話し合うためだ。とりあえずステータスの情報の共有に意見のある奴はいるか?」
「……ん」
「篤、なんだ?」
「今まで特に問題なかっただろ? それ、する必要あんのか?」
「問題が起こってからじゃ遅いだろ? それにステータスを教えることで不利益になることは何もない。なら今やっておいた方が良くないか?」
「……あぁ、わかった」
「他に意見がある奴はいるか? ……いないみたいだな。じゃ、俺から時計周りな」
そうして皆から聞いたステータスはゲームのときとそれほど違いはなく、ヴィルヘルム、津組さん、御堂はバランス型。皆本さんは近距離特化、茉莉ちゃんは遠距離特化だった。僕のステータスの合計は皆よりも少し高いけど、他から浮くほどでもない。特に誰かが何を言うこともなく話し合いは進んでいく。
「それで決め事についてなんだがまず一つ。こういう話し合いの場を出撃のあとの反省会以外でも、週に一度作りたいと思ってる。っていうのも、皆で装備についての情報の共有や相談をした方が良いと思ったからだ。今まではそれぞれ勝手にやってきたけど、これだとみんながなにが出来るのか把握できないだろ? さすがにその状態を続けるのはまずいと思うんだよ」
「言われてみりゃ、たしかにそうだな。この前の皆本のも戦場で見るまで知らなかったしな」
この前とは皆本さんがゴブリンをすれ違いざまに斬ったときのことだろう。たしかに、いつの間にそんな武器を持っていたんだと驚いた。
「一週間に一回っていうのは多くないですか? 反省会もありますし、二週間に一回くらいでいいのではないでしょうか?」
そう意見したのは津組さんだ。たしかに一週間に一回の頻度で行うのは少し多い気がする。
「なるほど、たしかに一週間に一回っていうのは多いかもな。二週間に一回にしとくか。他に意見はないか?」
「……ないみたいだな。それじゃあそういうことで、次は二週間後のこの時間からってことでいいか?」
「あぁ」「はい」「わ、わかりました」「わかりましたっ!」「わかりました」
「あともう一つ俺から提案があるんだが、連携の確認もかねてみんなで訓練をしないか?」
「……なぁ、訓練するのはいいが、どこでどうやってするんだ?」
「…………」
「…………よし、解散!」
翌日は朝から射撃訓練をした。今日の訓練で中距離戦能力が6になったはずだ。
部屋に帰ったあと、ベッドに腰をかけて目を瞑ってステータスを確認する。
近距離戦能力 5
中距離戦能力 6
遠距離戦能力 5
危険察知能力 5
機動力 5
クレジット 61,000
上がっている。しっかりと上がっている。今までの訓練の中では一番、楽しく行うことができたから、少し名残惜しいがこれで訓練場での射撃訓練は終わり……の予定だったんだけど、サブイベントがアテにならない現状では射撃訓練で上げられるところまで上げた方が確実だ。
このまま射撃訓練を続けていこう。クレジットを使うのは厳しいけど、隊員を増やすのに使うクレジットの額を皆で出し合うのなら、ゲームのときよりも余裕はあるはずだ。