飯野古書店2
皆本さんと津組さんとの剣術の稽古、それがない日は射撃訓練と慌ただしい日々が過ぎていく。
途中、出撃もありながら忙しくしていると、気づけば二週間と少しが過ぎていた。
僕は今、商店街に来ている。
途中まで読んで放置していたヴィルヘルムから借りた小説を見て、古書店のことを思い出したからだ。
完全に頭から抜けていた。サブイベントの検証の為に行ったというのに、その後ずっと放置していた。
ゲームならイベントが起こる期間なら、時間が経っても進行可能だったけど、この世界でそんなことがあるはずもない。
……そもそも、日を跨いで主人公が偶然、何度も巻き込まれるイベントって、この世界でいったいどうなるんだろうか?
そういったことも含めた検証だったはずなのに、そんなことをすっかり忘れて日々の訓練と稽古をして過ごしていた。
古書店と思われる場所に着いた僕は、その前で頭を抱えることになった。
以前には古書店があった場所にシャッターが降りていたからだ。
ゲームでは主人公が説得することで避難することを決めたおじいさんは、どうやらこの世界では誰の介入もないまま避難することを選択したらしい。
検証結果としては、途中で時間をあけすぎるとイベントが終了してしまうといったところだろうか。
そもそも前回、ここを訪れたときにイベントが開始したということもなさそうだったし、人が関係するサブイベントやキャラクター関連のイベントは、ゲームのときとは同じようには起こらないと考える方が良さそうだ。
そうなると、ゲームのときに有用なイベントが起きる場所を、一通り周っておいた方が良いのではないだろうか。
いや、でも日を跨ぐイベントが仮に起こってしまったら、皆本さんと津組さんとの稽古もあるし、今、周ることは得策ではない気がする。
いやいや、でも有用なイベントが自然消滅してしまう可能性を考えると、むしろ毎日のように周るべきではないだろうか。
いやいやいや、そんなことをしていたら、訓練も稽古もできなくなってしまう。それでは本末転倒だ。
いろいろと考えた末に、今日は古書店を訪れる予定で、他の予定を入れていなかったことから時間が余っているし、一度サブイベントが起きる場所を周ってみることにした。津組さんと皆本さんの稽古を受けるのはともかくとして、射撃訓練ならいつでもできるし、有用なサブイベントの消化の方が重要度が高いと考えたのだ。
そうして、商店街、公園、訓練校、河川敷、神社、そして歓楽街を周っていく。
ゲームでは周辺の地図と共に、どこへ移動するのか選択することができたため、一度も行ったことのない場所はうろ覚えでそれぞれの方角へ移動していく。
公園は皆本さんと剣術の稽古を行っている公園ではなく、大きな滑り台のある公園だ。他にも遊具がいくつかあったり、噴水があったりしてなかなか広々としている。
エイリアンがこの地に来る前なら、子供やお年寄りが沢山、来ていたんだろうなと思えるような公園も、今では人っ子一人いない。
ここで起こるサブイベントも、今日は起きそうにない。ここから近い訓練校へと向かう。
訓練校では運動場で生徒達が走っている。体力は何をするにしても必要だ。僕も訓練校での日々の半分ほどは走らされていたような気がする。こちらでも何も起きそうにない。
河川敷へ行けば、高橋さんのことを思い出す。彼女の手紙の内容から考えて、復帰した隊の拠点はこの辺りではないのだろう。
河川敷に住む野良猫のノラの姿を見かけただけで、他には何も起きそうになかった。
神社はこの世界へ来てから初めてくる場所だ。
住宅街の真ん中にある神社で、元々人が常駐しているような場所ではなかったみたいだ。人の気配が全くない。
ゲームでは主人公がお参りするのに、賽銭箱に硬貨を投げ入れていた。この世界にクレジット以外にも貨幣が存在することがわかる数少ない場面だ。
ちなみに僕はこの世界の硬貨をもっていないので、お参りすることができない。
周囲を見回ってみたが、この場所でもイベントらしいことが起きそうにはない。
最後に来たのは歓楽街だ。
かつてはネオンがきらめき、夜には人で賑わっていたであろうその場所は、今はもう人の気配もなく、立て看板がいくつか残っているものの、店もビルも閉まって寂れている。……ここにも人がいないし、何か起こるということもない。
これでゲームのときに行くことができる場所は全て周ったが、何も起こる気配がない。
神社で不思議な体験をすることもなかったし、歓楽街でスナックのママに絡まれることもなかった。
高橋さんとのことや古書店では、形は違えどサブイベント自体は起こっていた。
だからイベントが起こる期間内にその場所に行けば、ゲームのときと同じように何かが起こると思っていたけど、それは違っているようだ。
サブイベントがあてにならないと考えると、サブイベントで開放される訓練できる場所について、これからどうしていくのか考えなくてはいけない。
今は訓練場での訓練でステータスを上げることができるけど、それもそのうち限界になるだろうし、なによりクレジットは装備やテクノロジーの研究に使いたい。
教えてもらうこともできるけど、いつまでも付き合わせることはできないし、そちらで上げられるステータスにも限界はある。
なによりステータスが今の僕より高いのかどうかがわからない。
ゲームでは隊の仲間のステータスは、交友関係を表示するステータス画面で見ることができたけど、今はそれを見ることはできない。
それなら本人に聞いてみるのがいいかもしれない。なにより、作戦を立てるうえで皆のステータスを把握していることは大事なことではないだろうか。
今まで、とくに聞かなくても問題がなかったから思い当たらなかったけど、それぞれがそれぞれのステータスを把握していた方が絶対に良いはずだ。
ヴィルヘルムに相談をして、次の反省会あたりで提案してみよう。