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稽古を終えて

 結局、僕と津組さんは日が沈むまで皆本さんの稽古を受けた。

 素振りが終わったあとは、型の稽古を休憩を入れながらみっちりとやった。

 最初の素振りだけで腕を上げるのもしんどいのに、皆本さんは型がしっかりと出来るようになるまで許してくれない。

 皆本さんの「今日はこれで終わりとする!」という宣言を聞いて、津組さんはその場に崩れ落ちるようにして倒れた。


「つ、津組さん!?」


 そんな姿を見て、あわてて皆本さんが木刀を手放して、彼女のもとへ駆け寄った


「も、もうむりぃ……」


 力なくそう言って、その場に座り込んだ津組さんを駆け寄った皆本さんが背負いながら


「わ、わた、わたし、あの、ご、ごめんなさい」


 と、皆本さんが小さく謝る。

 

 背負われた津組さんが、力なく皆本さんの背中に体を預けているのをみて、僕が背負いたかったぁと思った。

 疲れてるときって疲れているのにも関わらず、いや、逆に疲れているからこそなのか、そういう思考になるよね。



 宿舎に帰り着いたあとは、真っ先にシャワーを浴びて汗を流し、着替えてリビングへと行った。


 お屋敷のような大きな家なので、元から二つあった風呂場を男女別に分けて使っている。

 僕は待つことなくシャワーを浴びることが出来たけど、皆本さんは津組さんが出てくるのをリビングで待っているみたいだ。


「あ、あの、きょ、今日はごめ、ごめんなさい」


 リビングに来た僕を見て、皆本さんが謝る。


「いえ、僕の方から頼んだことですから」


 訓練校で鍛えられた僕にとっては、まだこれくらいなら少しは余裕が残っている。

 それに、型の稽古では皆本さんに文字通り手取り足取り教えてもらえた。

 刀の扱い方を基礎から教えてもらえたという意味でも、よこしまな意味でも大満足だ。


「それにしても驚きました」


 僕がそう言ったところでリビングに、シャワーを終えて着替えた津組さんがやってきた。

 それを見て皆本さんが「し、失礼、します」と言ってリビングを出ていく。


「ありがとうございました」


 すれ違いざま、津組さんが皆本さんにお礼を言って、僕の前の椅子に座る。


「それにしてもビックリしちゃいましたね」


 ビックリしたというのは、皆本さんの変わりようのことだろう。

 あれには僕も驚いた。驚きすぎてしばらく口を開けたままその場で固まってしまったくらいだ。


「僕も本当に驚きました。それより大丈夫ですか? かなりお疲れのようでしたが」


「もう大丈夫です。皆本さんにも迷惑をかけちゃって……」


「そこについては皆本さんは、気にしていないと思いますよ。それよりも厳しくやりすぎたことを気にやんでいるようでしたから、お互いに謝り合って終わりにしたらどうでしょう」


「やー、予想外でしたけど、私から頼んだことですから、全然そこは気にしてないんですけど……そうですね、そんな感じにしちゃいましょうか」


「これからどうします?」


「これからっていうのは今からっていう意味じゃなくて、次の稽古をするかどうかっていうことですよね? 私はまたやってもらえるなら、お願いするつもりですよ!」


 こんな目にあっても、津組さんはまだ続けるつもりみたいだ。僕も中途半端に終わるよりはしっかりと最後まで……というか、近距離戦闘能力が上がるまではお願いしたい。


「僕もお願いするつもりですから、皆本さんがシャワーから上がってきたら、一緒にお願いしませんか?」


「野上さんも続けるつもりなんですね! 私一人じゃ途中でへばってしまいそうなので心強いです!」


 そう二人で話をしているとタイミング良く、シャワーを浴びて着替えた皆本さんがリビングへとやってきた。


「あ、あの、きょ、きょうはごめんなさい、わ、わたし、まいあがってしまって……」


 リビングで椅子に座っている僕と津組さんを見て、皆本さんがまた謝る。

 まいあがったというか、そういう問題でもない気がするけど、そこにツッコミを入れていいものかどうか迷う。


「私達からお願いしたことだから、気にしないでください! それよりも、私も迷惑をかけてしまって、ごめんなさい」


「え、あ、あの、わ、わたしの、せい、だから……」


「じゃあ、ここはお互い様っていうことで、終わりにしましょう!」


 津組さんが立ち上がって、皆本さんの手をとって「ね?」と可愛らしく言う。

 さっきから皆本さんが羨ましい。僕も手を取られて、可愛らしく首を傾けて「ね?」って言われたい。


「あ、は、はい、あ、ありが、とう、ござ、います」


「えっと、それで次なんですけど、いつにします?」


「え? つ、つぎ、ですか?」


「こんなところで終わっちゃ不完全燃焼です! キリのいいところまでお願いします! ほら、野上さんも」


「ええ、僕もキリのいいところまでお願いしたいです。皆本さんが嫌ではなければですが」


 そう言ったあと、僕と津組さんの二人で頭を下げる。


「あ、え、あ、わ、わかり、ました。よ、よろしくおねがい、します」


 少し間があって、皆本さんが承諾する。それを聞いて僕達も顔をあげたあと「よろしくお願いします」と二人でまた頭を下げた。


「それで、次はいつにしましょうか?」


「あ、明後日、明後日の、お昼、から、で、ど、どうでしょうか」


「わかりました。明後日ですね。津組さんはどうですか?」


「私も大丈夫です。明後日はよろしくおねがいしますね!」


 そのあと、僕達は三人でリビングで軽く雑談をしたあとに解散した。


 皆本さんとも最近は仲良くなってきていたけど、今回のことを通して津組さんとも仲が良くなった気がする。


 ゲームの主人公と違う! と思っていたときと比べて、現状はかなりゲームのときの主人公に近づいてきているのではないだろうか。

 このままいけばゲームのときの主人公のように、部屋の棚に仕舞っている近藤さんを使う日も来るのではないかと、よこしまな期待に胸が高鳴るのを抑えることが出来ないぞ。

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