表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/32

飯野古書店

 ゲームには多数のサブイベントが存在する。

 高橋さんとのイベントもその一つだったけど、それほどゲームの本筋に関係があるものではなかった。

 しかし全てのサブイベントが、ゲームの攻略に関係ないものかといえば、そうではない。

 というわけで、僕は攻略に役立つサブイベントを発生させるために、商店街へと来ていた。


 商店街といっても、ほとんどの店がシャッターを閉めていて、営業している店は二軒か三軒くらいだ。

 そのうちの一つに、飯野古書店という古本屋が存在する。

 ゲーム開始から二か月が過ぎたあとに、この古書店に行くと店主であるおじいさんと、避難させようとする息子が揉めている場面に遭遇する。

 その後、主人公が来たことで息子が帰り、主人公は何度もこの古書店を訪れて、おじいさんに避難するように説得し、最終的にはおじいさんが息子と共に避難する。その去り際におじいさんから貰う古書は、読むと危険察知能力が上がるアイテムで、これを手に入れるべく、僕は古書店を訪ねた。


「親父! もうこの辺の奴らも皆、北へ避難したんだ。向こうで住むところは俺が用意してる。だから店を閉めて一緒に来てくれよ……」


 店の外にまで聞こえるような大声の後、声が少しずつ小さくなっていって、最後にはかすれるような声で懇願しているのが聞こえる。


「この店は儂の父親が残してくれたもんじゃ、それに儂は死ぬならこの地で死ぬと決めておる。帰れ」


 店に入ると、そんな冷静なお爺さんの声が聞こえる。

 店の中は黄ばんだ本や、古書が本棚にぎゅうぎゅうに詰まっていて、インクの匂いが僕の鼻と尿道をくすぐる。


「……わかった、また来る」


 そう言って、奥から五十代くらいのおじさんが出てきて、僕の横を通って店を出ていく。


「……客か? 珍しいな」


 そのあとを追って、おじいさんが奥から出てきて、僕のことを見てそう言った。


「こんにちは」


「ふむ、どんな物が入用じゃ?」


 ゲームでは主人公は揉め事の最中に訪れるため、そのあとにスムーズにおじいさんと話をしていたように思う。

 しかし僕が訪れたのは主人公が訪れたタイミングとは少し違っていて、来たときにはすでに揉め事は終わってしまっていたようだ。

 これは困った。特に古書が欲しいというわけでもないし、この世界のお金はクレジットしかもっていない。

 軍関係が相手ならクレジットで全てを賄うことが出来るけど、一般のお店で使えるのかどうかはわからない。


「冷やかしなら帰れ」


 言い淀んでいると、おじいさんが吐き捨てるようにそう言った。


「あ、いえ、少し歴史関連の本でもあればと思いまして」


 咄嗟にそんな言葉が出たけど、完全に嘘というわけでもない。というのも、僕はこの世界の歴史や、常識といったものがわからない。

 誰かに何かを聞かれたときに、不審に思われないように答えるために、それらの知識が必要だったのだ。


「歴史、ふむ、歴史か、それなら……」


 おじいさんは幾つも並ぶ本棚から、いくつかの本を出して平積みにしていく。


「うちにあるので、歴史関連で面白いのはこの辺じゃ。儂は奥におるから、買うのなら呼んでくれ」


 そう言って、おじいさんは店の奥へと消えていく。


 後に残された僕は、平積みされている歴史に関する本を手に取って読み始めた。



 この世界にエイリアンが現れたのはおおよそ十年ほど前のことだ。これはゲームでも説明されていることで僕も知っている。

 それ以前、第二次世界大戦のあたりまでの歴史については、どうやら前にいた世界とほとんど同じもののようだ。

 ホログラムやレーザー銃、それに謎のチップなど、前の世界よりも科学が進んでいることから、未来の話だと思っていたけど、どうもそれほど時代的には変わらないみたいだ。

 まぁ、そのあたりは、宿舎での生活や宿舎の端末を使って購入することの出来る日用品や娯楽品のリストを見て、なんとなくは察していた。

 とはいえ、ここに置いてあるのは昔の本ばかりのようで、ここ数年の出来事については書いていない。

 読み物としては面白いし、ある程度はこの世界の歴史を理解するのに役立ったけど、本当に知りたいところについては何も書いていないようだ。

 僕は平積みされた本をそれぞれ棚に戻して「ありがとうございました! また来ます」と奥のお爺さんに叫んだあとに店を出る。


 どうもサブイベントはゲームのときと同じように上手くいかない。思えば人と関わることについては、ゲームのときと完全に同じだということが今までにない気がする。

 僕のゲームでの知識で完全にアテになるのは、どうやら任務についてと、ステータスやテクノロジーの研究などのゲームシステムに関わる部分だけみたいだ。


 それがわかっただけでも、今日この店に来たのは良かったかもしれない。

 ただ、この後にどうなるのかの検証もしたいし、本を読むこと自体はいろいろとタメになることもあった。

 また頃合を見て、古書店に行ってみようと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ