エネルギーポール破壊任務
エイリアン達の建てる建造物のなかに、エネルギーポールと呼ばれるものがある。
このエネルギーポールは十メートルほどの高さの柱で、エイリアンの装備や輸送艦などにエネルギーを供給している。
進撃戦ではこのエネルギーポールを爆破解体する任務が序盤に多く、今回の任務もそのエネルギーポール破壊任務だ。
遠目から見えるポールはゲームのときと同じ、白い円柱状の柱で、先端部には青くて丸いオブジェのようなものがついている。
「右側から回り込みましょう」
今回の任務地は、ゲームのときの住宅街マップと同じものだ。
ゲームのときに、このマップで行われるエネルギーポール破壊任務の、敵の出現パターンは三つ。
そのうちの二つは開始地点から直線的にポールに向かって進むと、早々に敵と遭遇することになる。
エネルギーポール破壊任務では敵に見つかると援軍が現れることが多く、できるだけ敵に見つからずにエネルギーポールを破壊することが肝心だった。
皆を先導して右側に続く道を歩く。
一つ、二つ、三つ、三本目の交差点を左に曲がる。ゲームではこの道を真っすぐにいって、それからまた左に曲がるのが僕にとっての鉄板ルートだった。
「ここからは敵に見つかる可能性があります。慎重に行きましょう」
各々、民家の陰に隠れながら、道沿いを進んでいく。
ここまで敵らしい敵を見ていない。次の交差点の右側の道の向こうにエイリアンの姿が見えるかどうかで、どの出現パターンか見極めることが出来る。
「この交差点では敵に見つかる可能性があります。気をつけて下さい」
指示を出して、右側の道の先に注意しながら進む。
……いない。ということは、このまま進んでも敵に見つからずにエネルギーポールを破壊することが出来そうだ。
そのまま慎重に予定のルートを進む。
ゲームでは敵のエイリアンが民家などの中にいることは非常に少ない。これはゲーム的な都合によるものだと僕は思っていたけど、これまでの任務でもゲームと同じように、民家などの小さな建物の中にいることはなかった。
なぜゲームのときと同じような行動パターン、出現パターンをエイリアンがとるのかがわかれば、今のように家から現れることを警戒する必要もないのだけれど、それがわからない以上は警戒しておかないといけない。
ゆっくりと慎重に警戒を続けながら、僕達はエネルギーポールの前まで敵に見つからずに到着することが出来た。
「……凄いな、ここまで敵に見つからずに来れるとは思わなかった」
「偶然ですよ。早く爆破してしまいましょう」
僕がそう言うと、ヴィルヘルムが腰から下げていた爆弾をエネルギーポールに巻きつける。
この爆弾はエイリアンの持つバリアのようなものを吹き飛ばし、さらにそのうえで物理的にも爆発するもので、その爆破方法は時限式だ。
外れないように巻きつけたことを確認して、中央の爆破ボタンを三度押すと「ピピピ」と小さく電子音が鳴る。
「撤退!」
爆発に巻き込まれないように、全員で急いで来た道を戻る。
しばらくして、背後からモーターの作動音のような音が聞こえた後、耳をつんざくような爆発の音が轟いた。
突風が吹き、背後を見ればそれまでにあった柱が根元から折れ、倒れていくのが見える。
ゲームのときとは迫力が大違いだ。
胸がドキドキとして、自分が興奮しているのがわかる。
冷静に、冷静にならないといけない。遠足は帰るまでが遠足だというように、この任務も帰還するまでは安心できない。
この爆発で近くに敵がいることに気づいたエイリアンが、僕達のことを探しているのは間違いない。
ゲームでも爆破までよりも、爆破した後に敵と戦闘になることが多かった。
そんなことを考えながら走っていると、前方にゴブリンが二体見えた。
「前方にゴブリン二体を確認。足を止めて戦っている暇はない。突破するぞ!」
ヴィルヘルムがそう言って、走りながらゴブリンを狙って撃つ。
僕達もヴィルヘルムに続いて、走りながらを撃つが、走りながらでは全く当たる気配がない。
敵のゴブリンもこちらに気づいて、足を止めて撃ってきている。
横目で見れば、津組ちゃんとヴィルヘルムが被弾したのが見えた。
しかし足を止めるわけにはいかない。ここは未だに敵地の中、足を止めて戦えば他にも敵が現れて囲まれる危険性が高い。
ゴブリンまでおおよそ百メートルといったところで、茉莉ちゃんの撃ったレーザーと津組さんの撃ったレーザーが一体のゴブリンに当たる。
これで残りは一体だ。
そう思っていると、背後からブゥンとゲームのときに聞いた、レーザーブレードの音がして振り返ると、皆本さんが銃を背中に背負いなおして、右手にレーザーブレードを握っていた。
青く光る刀身が眩しい。
皆本さんが走る速度を上げて、一人残ったゴブリンへと近づいていく。
そして、すれ違い様に斬りつけた。
ゴブリンが灰になったあと、皆本さんは青く光る刀身を消して、柄を腰に戻して背負っていた銃を手に取り直す。
「かっこいー……」
津組さんの声だろうか、呆けたような声がして我に返る。
たしかに格好良かったが、見惚れている場合じゃない。
「このままいくぞ!」
ヴィルヘルムの声で津組さんも我に返ったのか「はい!」と返事をして、走る速度を上げた。
「エネルギーポールまでの道程で、敵に遭遇しなかったのは航の指示があったからだと思う。そこで今後も現地での作戦や大まかな指示は航に任せたいと思うんだが、意見のある奴はいるか?」
任務終了後、恒例となっている反省会の席でヴィルヘルムが最初に言ったのが、この言葉だった。
「い、良いと、思い、ます」
「私も良いと思いますよっ!」
真っ先に皆本さんと茉莉ちゃんが賛同してくれる。それを見ていた津組さんも「良いと思います」と続けて言った。
「異存はねぇ、異存はねぇが……今日の任務、どうして真っすぐに目標へ向かわなかったんだ?」
最後、御堂がそんな質問をしてきた。
「直感……でしょうか」
御堂の質問は当然だ。僕もそんな質問を誰かからされるだろうことは予想していた。ただ、それに対して上手く返す言葉を用意することは出来なかった。結果として曖昧な返事に逃げることしか出来なかったけど、それでも結果を出していれば皆が納得してくれるだろう。
「直感ねぇ……まぁいいわ、野上が現場で作戦を立てる。いいんじゃないか?」
不審な目で僕を一瞥して、御堂はそう言ったあと「じゃあ終わりでいいよな?」と言ってリビングを去っていった。
「じゃあ今後は航に現場での作戦と大まかな指示を任せる。他には特に話しておくこともないな? 解散だ」
一度、皆に目配せをして確認したあと、ヴィルヘルムがそう言って反省会は解散。
皆が部屋に戻るのに合わせて、僕も部屋へと戻る。
御堂には少し不審に思われているようだけど、このまましっかりと結果を出していけば大丈夫、大丈夫だ。
ベッドの上、寝転がり天上を見ながら、僕は自分にそう言い聞かせる。
仕方がない、他に良い言い訳が思いつかなかったんだから……。