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皆本 香子

 自室で自分のステータスを見ながら、これからのことを考えていると部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 ヴィルヘルムかな? と思い、閉じていた瞼をひらいて立ち上がり、扉を開けるとそこには皆本 香子(みなもと きょうこ)が立っていた。


 思いがけない客人に目を丸くしていると「あの……お話し……したいことがあって……」と、皆本さんが小さな声で言った。


「えっと、わかりました。立ち話もなんですから中へどうぞ」


 話したい事ってなんだろう? と疑問に思いつつ、席を勧める。

 よくよく考えてみれば自室に女の子を招くのは、自分の人生では初めての出来事だ。

 これはもしや、棚の中にこっそり隠している近藤さん1ダースが11個になる日がきたのか。そんな思考が一瞬だけ脳裏を過ぎる。

 まぁ、そんな展開がありえないことくらいは僕でもわかる。でも思春期の男なら、いや、思春期じゃなくても男ならちょっとは考えてしまうんじゃないだろうか。

 つまり僕は何もおかしくない。


 皆本さんが席に座ったのを確認して「それで、話したい事とはなんでしょう?」と話を促す。


 皆本 香子(みなもと きょうこ)は目が隠れるほど長い前髪と、太腿まで伸びる後ろ髪が特徴的な女の子だ。

 背は今の僕と変わらないくらい、女の子としては少し背が高い方だろうか。

 体型のわかりづらい、少し大きめの白いワンピースに身を包んだ彼女は、柳の下に夜、立っていたら幽霊と間違えてしまいそうな見た目だ。

 ゲームのときには僕は彼女というキャラクターが苦手で、一度も彼女と親しくしたことがなかったため、彼女の内面については性格が暗くて、悲観的なことくらいしか知らない。


「私を……前に出してください」

「私……実家が、けんじゅっ、剣術道場で、そういうのが、得意、なんです」


 言われて思い返す。

 ゲームでは近距離戦とは近接武器、レーザーブレードとかビームカタナとか、そういった武器を使うことを指す。

 これらの武器は威力が高く、初期から買うことの出来るレーザーブレードですら、ゲーム序盤のオークを一撃で灰にすることが出来るくらいだ。

 しかし近接武器は、その武器が当たる距離まで敵の攻撃に当たらずに近づくのが難しい。

 ハイリスクハイリターンな戦い方。それが近距離戦だ。

 そしてこの近距離戦能力の高いキャラクターがゲームでは二人いる。そのうちの一人が皆本さんだった。

 

「あ、あの、危険だってことは、わ、わかっ、わかってる……んです」

「ただ、あの、えっと……死、早く死にたい……から」


 あぁ、そうだ。そうだった。自己紹介のときにもそんなことを言っていた。

 そしてゲームでも話しかけると、たまにこういうことを言うキャラクターだった。そこが僕にはどうしても受けつけなかった。


「なるほど、わかりました。任務内容次第ですが頭に留めておきましょう」


 こっちは皆が死なないようにって考えてるのに、死にたいだとか冗談でも言われたくはない。

 ゲームのときでも腹が立ったが、この世界で面と向かって言われると、より腹が立つ。

 そんなイラつきを表に出さないようにしながら、退室を促すと「ご、ごめんなさい、しつ、失礼します」と言って彼女は部屋を出ていった。



「クソッ! なんなんだよ」


 椅子から立ち上がり、ベッドの上の枕を手に取って壁へ投げつける。

 皆本が来るまでに考えていたことを、さっきの一言で全て忘れてしまった。

 心を落ち着かせてから、また考え直さなければならない。


「ふぅ……」


 一息、深呼吸をしてからベッドの上に腰をかけて目を瞑る。

 ステータス、ステータス、と念じていると瞼の裏にステータスが映りだした。



 近距離戦能力 5

 中距離戦能力 5

 遠距離戦能力 5

 危険察知能力 5

 機動力    5


 クレジット  51,000




 そう、一昨日に全てのステータスが5になったのだ。

 これ以降は使用するのにクレジットが必要な施設や、サブイベントで開放される施設を使用しなければステータスを上げることが出来ない。

 どのステータスを重点的に上げていくべきか、方針を考えて上げていかないと、バランス良く上げるのはゲームでは非効率的だった。


 近距離戦能力、これはダメだ。ゲームオーバーになってもやり直せるゲームならともかく、ここではリスクが高すぎる。自分が死ねば元の世界に戻るだとか、考えたこともあるけど怖くて試せないし。

 中距離戦能力、これが一番有力な候補だ。扱う武器の種類も多いし、どういったシチュエーションであっても対応することが出来るだろう。

 遠距離戦能力も良い。敵の出現パターンや行動パターンがゲームに近いことが続くのなら、一方的に敵を倒すことが出来る。ただし、室内などの環境では厳しいかもしれない。


 そうしていろいろ考えた結果、中距離戦能力を重点的に上げていくことに決めた。失敗が出来ない以上、無難な選択こそがベストだろう。

 危険察知能力と機動力はどちらも必要だから、並行して上げていくとして、今後のおおよその方針は決まった。


 ヴィルヘルムの参謀のようなポジションを目指しつつ、どんな状況にも対応出来るように中距離戦能力、危険回避能力、機動力を上げていこう。


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